第3話 危険?謎の転校生(テンプレ)
ソラ 2028/11/6朝
彼らがこの地球に訪れてからおよそ一か月弱が経った。今俺は神奈川県三浦半島浦賀の海岸に来ている。あの日、この地に訪れた宇宙船は今もなお全く動かず同じ場所で対空している。にも拘わらず、宇宙船の真下に気流などが発生している様子はない。重力機関みたいなものでも積んでいるのだろうか?
基本的には流線型のフォルムだがところどころエッジが入っていて、突起物もちらほらみられる。船体中央の側面には文字のようなマークが見える。地球の艦船も船体の側面に名前が書かれることがあるが、まさかこういう文化が同じだとしたらすごい偶然だ。
この一か月、いろんなことがあった。まず世界各地に降下した宇宙船だが、すんでのところでこれらに攻撃が加えられることは避けられたらしい。あの国とかあの国はやりそうだと思っていたが、さすがに映画ほど短絡的ではなかったようだ。
そして、宇宙船との交流。日本政府は全国の大学や研究所などから各分野の権威、特に言語学者を連れて接触に当たった。宇宙船の中の生物について、タコ型だとか機械生命体だとか、俺らのような人間だとか、さまざまな推論議論が行われたが結論から言えば彼らは見た目ではほとんど俺らと変わらなかった。
さらにコミュニケーションの面で万全の体制を敷いて身構えながら接触に臨んだ政府のチームの覚悟をよそに、人の姿で現れた彼らは日本語で「こんにちわ」と挨拶したらしい。
なんでも、自動翻訳装置とやらでこちらの言語は解析済みだそうだ。
そして幾度と行われた交流によってある程度相手についてわかってきたようだ。報道されている範囲では、
・彼らは天の川銀河星間連合であり、ここから12000光年離れた場所に首星ガルンがある。
・連合の中には様々な星、国があってそれぞれ対等に結びついた共同体である。政治体制としては共和制に近い。
・彼らは今回、地球の諸国に連合への加盟を要請しに来た。手始めに、
・もし地球各国が連合に加盟する場合、恒星間航行のための技術供与を行う用意がある。
こんなところだろうか。いきなりよその星に降下してきたにしては力押しが過ぎるが、それもあの巨大な空中要塞があるからこそ各国首脳部を真剣に唸らせるには十分すぎた。
さしあたって日本と連合との条約締結を昨日行われた。同時に日本は連合に所属するいくつかの惑星国家と国交を開くらしい。近い将来、首星ガルンへの大使派遣も検討されているようだが、前代未聞の惑星をまたいだ訪問に課題は多そうだ。
とはいえ首星ガルンとまではいかなくても、軌道上を周回しているアルファ船への使節団招待は向こうさんの技術力で完全生中継され、もちろんリアタイで見ていた俺たちはテンション上がりまくりだった。
キーンコーンカーンコーン
ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴った。あの大事件の後も特に学校が休校になるといったことはなく、今では当たり前のように以前の生活に戻っている。変わったことと言えば画面の向こうで常に宇宙から新しい話題が供給されることくらいだろう。
「あー、みんなまたせたな。わりぃわりぃ」
今日もまた派手なアロハシャツを着た鹿山先生が教室に入ってきた。
「実はな、今日から転校生が入ってくるんだ。」
その言葉に教室が少しざわめく。
「こんな時期に転校なんてな。あと五か月で卒業だってのに」
「どこから来たのかしら」
「どんな奴なんだろう、女の子だといいな」
そんな感じの会話が教室の各地で巻き起こった。
「随分突然だなぁ、転校生ってこんないきなり来るもんだっけ?」
大介が話しかけてきて、俺は肩をすくめる。
「それじゃ紹介するぞ。佐藤、はいってこーい」
次の瞬間、前のドアから転校生が入ってきた。
透き通った銀色の髪にシャープな目元、抜群のスタイル。転校生は女の子だった。
「佐藤ユウナ、15歳。得意な科目は理科と体育、苦手な科目は数学です。よろしく」
そんな当たり障りのなさすぎる自己紹介も特に男子勢にはあまり耳に入っていない。
身長はとなりに立っている鹿山先生とほぼ同じ、先生の身長は170cmだから15歳としては群を抜いたプロポーションだ。
「じゃあ早速で悪いんだけどな、とりあえず午前中は授業をしよう。昼休みだれか彼女を案内してやってくれ。行ってくれる人?」
「「「はいっ!!」」」
瞬間、教室中(特に男子生徒)から手があがる。
「(やれやれ、やっぱりこうなったか、、いや、今じゃこういうのハラスメントだな、あぶないあぶない)、5人以内だ。昼までにどうにかして決めとけ。あと全員野郎ってのはなしだからな。最低でも2人は女生徒をいれること。では数学を始める」
なんだか変なことになったな、早くも一部のがっついてる奴らは剣呑な雰囲気を醸し出している。
一時間目が終わり、10分休み。早くも佐藤さんの周りには人だかりができた。その中には普通に話したいだけだろう女生徒、内心はねたんでそうな女生徒、そして露骨に下心アリアリな男子生徒。転校生が気にならないといえばうそになるが、あの中に突撃できるほど俺のメンタルは強くなかった。
「あーあ、男子ってバカね」
有紀があきれた顔で腕を組んで言った。
「佐藤さんの可愛さをねたんでダル絡んでる女子もいるみたいだけど?」
「ちょっとあんた、女社会の横つながりって怖いんだから教室で堂々とそういう、その、、ホンネを言わないでよね」
有紀は少し慌てて声を抑えながら反応に困ったそぶりを見せる。
「あ、転校生ついに耐えかねて教室を出るみたいだぞ」
大介が顔を上げて言う。
「ほんとだ、変な立ち位置に立たされないといいけどね、佐藤さんも。」
よくも悪くもいろんな反応が起こった初日だったが、翌日からはいつもどおりに戻り、佐藤さんも普通に教室になじみ始めた。
そして、一週間ほどが経ったある日の昼休み。理科実験室に忘れ物を取りに行った俺は帰り道、階段を上っていく佐藤さんを目撃する。
だが今俺がいるのは四階。この建物は四階建てでここの上は屋上だ。もちろん屋上に自由に出入りなんてできるわけもなく、鍵がかかっているはず。まさか階段でぼっちめし、なんてことも佐藤さんに限ってあるのだろうか?
いや、でも佐藤さんは確かにこの一週間、毎日ではないが昼休み中ずっと姿を消していることがある。
覗きをしているみたいで少し後ろめたさがあったが、俺はつい屋上に続く階段に足を踏み入れてしまった。
「あ、開いてる、、こんなこともあるんだ」
入学当初屋上にいけないものかと何回か来たことがあったが、いつ来てもカギは閉まっていた。だが今日は鍵どころか、ドアが開いて隙間風が少し流れてくる。
俺は恐る恐る屋上に出た。
「「あ」」
そして、見事に目があった。向こうもまさか人が入ってくるとは思っていなかったんだろう。かなり驚いた顔をしている。だがそこにいたのは佐藤さんではなく、見知らぬグラマーなお姉さんだった。
いや、問題はそこじゃない。彼女には、確かに動くしっぽが付いていた。
刹那、何かが目の前に飛んでくる。
「!!!」
「あーあ、見ちゃったか~」
確かに佐藤さんの声がした。いつもの明るくはきはきした感じではなく、どこか間延びした声だ。
だがあたりを見回してももちろん誰もいない。
「ここだよここ~、ソラ君」
次の瞬間、突然目の前に銃のようなものを構えた佐藤さんが現れた。
「突然ですが、今から消させてもらいま~す!」
呆然と立ち尽くす俺に佐藤さんは爛漫な笑顔で言い放つ。
「ちょ、消すってまさか、、」
「そう。これで君の頭をぶち抜きます♪」
「なんで、、!」
「なんでって、君が見ちゃいけないものを見ちゃったからだよ。最初よけられたときはびっくりしたけどね。」
「よけたって、あの歪みみたいなのか?そういえばさっきも突然出てきたけど、、」
「今私が来てるのは光学迷彩の機能があるの。見えない攻撃をよけるなんて、君もしかしてセンスあるのかな?それとも偶然?」
「ユウナ、ダメだからな?」
しっぽのお姉さんが佐藤さんに向かって声をかける。
「もう!まだなんも言ってないでしょ!!でもちょっと面白そうだからやる気になっちゃったかも♪」
そういって佐藤さんは銃のような何かをおろして腰のあたりにもっていくと、ある場所から銃が透明になって収められていく。
「あれ、許してくれるってことだよね?」
「あっはは、違う違うよ。私が直接忘れさせてあげるだけ♪」
佐藤さんは言葉を切ると同時に少し動いたそぶりを見せたかと思えば、気が付いた時にはすぐ目の前に彼女のきれいな足が迫っていた。
「え、ちょうあ!!!」
あわてて体をのけぞらす俺。
追い打ちをかけるように一回転しながら逆の足を繰り出す佐藤さん。さらに逃げる俺。YouがShockな終末世界の主人公を思わせるようなはやさで、それでいて繊細で精密に殴り掛かってくる佐藤さん。
ついに背中がフェンスに当たり、俺は追いつめられる。顔面に当たりそうな彼女のぐーぱんを何とか右によけ、、ようとするが間に合わず、終わったと思ったが特に顔に何か当たった感触はなかった。ここまでおよそ三秒である。
「粗削りだけど、やっぱセンスあるね君!!」
「、、たはぁ、、、ところでさっき『忘れさせてあげる』って言ってたけど」
猛烈なラッシュが止まったことに安堵しながら、俺は佐藤さんの『忘れさせてあげる』を忠実に再現しながら続けた。
「もしかしてさっきの銃もどきって、記憶を消す的ななにか?」
「え?そうだけど?」
ああそうかい、、こちとら殺されるのかと思ったわ。思いのほかあっさりと認めてくれちゃって、、
「なんだ、てっきり俺はもう死んだかと、、」
その言葉に佐藤さんは目をきょとんとさせると、彼女としっぽのお姉さんはブフッと噴出した。
「「あはははは!!」」
「確かに今のじゃ、チキュウの映画にある『知りすぎて消される』ってパターンだ。これはユウナの言い方が悪い、プフッ」
「ごめんね~、勘違いさせちゃったね。でもやっぱり君は知りすぎた。光学迷彩も見せちゃったし、ここの記憶は消させてもらうよ~。楽しかったよ、少し遊べて♪」
「そんなバレちゃまずいならちゃんと鍵でもしっかりかけとけよ!!」
「確かに、言えてる。私たちも悪かったな。でも安心しなボク、ちょっと数分意識を失うだけだから。」
しっぽのお姉さんが言った。いやボクって、、もう中学生なんだがなあ。
「でも確かに、まずいかもな。このまま俺が帰っちゃ」
「あら、物分かりがいいのね」
「あんたら、まさかとは思うけど
「、、、へえ」
少し場の空気が緊張に包まれ、しっぽのお姉さんは口角を上げながらツカツカと歩いてくる。
「前から少し変だとは思ってたよ。この時期の転校生。これだけなら日常的な出来事だけど、佐藤さんは、そのなんというか。不思議ちゃん過ぎる。」
「はへ?」
俺の言葉にきょとんとする佐藤さん。
「たまに変な話もしてるし、まるで外国から転校してきたみたいだ。でも佐藤さんは外国にいたわけでも、両親が外国人なわけでもないといってた。まあそうはいってもここまでなら特に何も思わないよな、振り返ってみればってそんな感じだよ」
「いや、ユウナは私たちから見ても不思議チャンだゾ、、」
「あ、さいですか、、んで今の出来事。どう見ても動くしっぽが生えてるへそ出しルックなお姉さんにいきなり銃を出す女子学生。しかもその銃は明らかに地球で見たことがない。さっきまでの2人の会話から考えても、こりゃもう、宇宙人しか答えはないだろ」
俺は芝居がかった口調で言った。
「、、ありゃりゃ~、何から何までばれちゃったかあ。こりゃいよいよ君の記憶を消さないとね。確かに私たちは、宇宙から来たんだよー」
これまたあっさりと、、
「まあしゃあないな、下手に抵抗して余計な事されても困るし。素直に忘れてやるよ。ところで俺からアドバイスを一つ。」
「何かな?」
「そこのしっぽの姉さん、露出が多すぎる。正直言ってえろい。スパイ活動だかなんだか知らないけど、もっと慎ましい服を着るんだな。あとしっぽは隠せ」
「ええ?!」
そして俺は無事佐藤さんに記憶を奪われ気を失った。だがこのままで終わるつもりはない。種は仕掛けた、あとは未来の俺が続けてくれるだろう。
数分後目が覚めた時には自分がなぜ屋上にいたのかわからなかったし、戸惑いながら階段を下りる俺の前には怖い怖い教頭が立ちはだかっていた。
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