001:いっそ関わらないでくれよ
「是非うちの『宝陽の騎士団』にっ!」「いいや私たち『シラブスペース』に来てください!」「入るんだったら『黒鍵』がオススメだぞ!ひたすらに回復職募集!」「『ヨルムンガンド』を!『ヨルムンガンド』をお願いします!」「『めーてーろく』はいかがでしょうか!初心者さんでもちゃんとサポートしますっ!」「『ランタン』に入ると言えば、この幸運になれるブレスレットをお付けしますよ!」「こっちのパーティ『旅の夜明け』に入るならどんな素材でも差し上げます!ですからどうか」
「どうかっ!」
「どうか!」
「どうか!」
「どうかぁ!」
「どうかっ!!」
「ど、どうか !」
「どうか!!」
「「「「「「「パーティに入ってください!」」」」」」」
僕は迷わずその場から立ち上がり、ギルドの扉を蹴破り、逃走した。
「「「「「「「あっ!」」」」」」」
まごうことなき僕狙いの、僕に意識の向いた彼らの中で一人縮こまっているのは凄まじい負担で、限界だった。堪えられなかった。
あの場にもう五秒居たなら吐いていたに違いない。
ギルドを出ると、そこは人混み。
冒険者の巣窟。
眩暈がする、ついでに吐き気も。
口まで逆流してきた朝ごはんを吐瀉物として廃棄しないために、口元を抑えて、なんとか踏みとどまる。
振り返らず、石畳の街路を踏み潰すように僕は全速力で――数日前の転生初日のように、無様に走っていた。
初日と違うことと言えば、
「「「「「「「待てえええええ!!」」」」」」」
逃走の原因たる人物たちが、僕を追いかけていることくらい。
人混みをさけて、元の世界で会得した人とぶつからずに走る技能をめいっぱいに行使しながら、彼から――僕をパーティに入れようとする輩から逃げおおせていた。
ギルドマスターから直接受け取った装備一式と受け付け嬢から貰ったブーツは、制服や革靴よりはるかに走りやすい。
初日とは比べ物にならないほどの初速と加速と最高速度を手に入れられていた。
しかし――
「危機判断能力も高い!回復職として申し分ないよ君は!」
「いいね!冒険者なのに立ち向かわず合理的な判断ができる人材はいつでもウェルカム!」
「その強靭な足腰っ!本当に素晴らしいな!」
「さ、最悪私を見捨ててくれそうな人ですね……うへへ…………あり」
「もしかして場慣れしてるっ?初心者なのについていけそうだねえ!!」
「じゃあ幸運になれるハチマキも!幸運が訪れる壺もお付けしますよ!」
「分かった!素材じゃなくて武器そのものをプレゼントしてあげよう!」
しかし僕はレベル1。
後方からは聞きたくない奴らの、余裕綽々な勧誘が続いていた。
僕を弱いと思って上で、いつぞやの不良とは違い舐めた対応をしない、全力の彼らに勝てるはずもない。
モンスターを追いかけて、モンスターに追われて、常に命を賭けた冒険者たちに、僕が逃げ切れるはずもない。
だから後ろを見ない。
もし振り返ってしまえば、負けを認めたことになりそうで、
僕はその隙を付かれて、あっという間に拉致されるに違いない。
麻袋に詰められて、パーティに入れと脅されるに違いない!
自分の限界を飛び越えるように、リミットを外すようにさらに足の回転数を上げて、街路から路地へ抜けて、もがく。もがく。
半泣きになりながら、口の酸っぱさに唇を噛みしめながら、僕は思う。
思う、という表現は正しくない。
正確には後悔。
どうして僕はギルドなんぞに加入しようかと思ったのか。
どうして僕は入団試験なんぞをクリアしてしまったのか。
どうして僕はギルドマスターなんぞに気に入られてしまったのか。
どうして僕は受付嬢なんぞにプレゼントを貰ってしまったのか。
どうして僕は回復職に、信仰心ゼロながらもヒーラーなんぞになってしまったのか。
どうして。どうして。どうして。
思考の袋小路に入って、淀んだ思考のまま、考えなく走っていると。
「あ」
路地もまた、袋小路に。
石造りの建物のデッドスペースは僕が跳んでも跳ねても、指すらかからないような高さであり、よほどの身体能力――それこそあの男のような轟脚がなければ登れなさそうな、絶壁だった。
「「「「「「「……みいつけた」」」」」」」
僕は力なく、二度目の人生の終了を受け入れた。
つまりは振り向いた。
どうして、こうなったんだろう。
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