結局彼は死ぬのだろう
@hirahi
そっか。
貧乏で不幸な私を救ってくれたのは、いつも彼だった。
私は父子世帯で、父は無職、生活保護を受けて生活をしていた。
小学校のとき、ろくにご飯も貰えず、朝と夜の食事がなかった私は、給食をめいいっぱいお腹に詰め込んでいた。
彼はそんな私に給食を分けてくれた。
「ん」って。静かにおかずを置いてどこかへ行った彼を、私は絶対に忘れない。
私は小学生の時、いじめの的だった。親は無職で貧乏で、しかもど陰キャでオドオドしてた私がいじめられるのは、必然だったと思う。
へいへいっ。かかってこいやBABYとでも言えれば、虐められなかったのかな。
そんなわけないか。
最初は、ものが無くなった。消しゴムだったかな。次に筆箱、教科書がなくなって、逆に拳が現れた。
彼はキャンキャン泣く私を慰めて、いじめっ子をぶん殴ってくれた。戸惑ういじめっ子はとても面白かった。
中学生になって、日常的に暴力を振るっていた父は、ついに私に性的なことまで要求するようになった。
私の体でお金を稼ごうとしたのだ。
考えただけで反吐が出る。さいてーな親だよね。ほんと。
彼は父をぶん殴って、私を救ってくれた。
いじめられるから、父から怒られるから、私は虐待を受けていることをひた隠しにしてきた。
それでも彼は、私のピンチに駆けつけて、私を助けてくれた。
彼はまさしくヒーローで、私が彼に惚れるのも当たり前の事だった。
高校生になった。
勉強を頑張って、彼とおなじ高校に進学できた。授業料はバイトで何とかしてる。
いらっしゃいませーって。がんばってる。
私は彼に好かれたくて、いっぱいがんばった。
スキンケアは欠かせないし、できるだけいい子に、清楚に見えるよう務めた。
自分で言うのもなんだけど、私かわいい。
けっこー、告白されるし。スタイルもいいし。
それなのに彼は私になびいてくれない。
好きだよって言っても、「そう」だけだよ!?誘惑頑張ってるのに、ひどい。
なのに!好きな人いるって聞いたら、「いるよ、身近に」とか。私かわいい?て聞いたら「かわいいよ」とか。
え、気があるの?え、ヤッテイイ?手錠なら持ってるよ?
……まぁ、うん。人生長いし、気長にね。でろんでろんに惚れさせてやろうとか。
思ってたんだけどね。
彼は死んだ。
飛び降り自殺だった。
どうして、かな。ほんと。どうしてだろう。
ばか、なんだろうね。きっと。
私の元には、多額の保険金が降りてきていた。彼はどうやら生命保険に入っていたらしい。
そして、彼の親には、自分が死んだら、私にお金を渡すよう言ってたんだって。
もうさ、見え見えだよね。魂胆がさ、見え見え。
たしかに、さ。私貧乏だよ?苦労してたよ。でもさ?
おかしいじゃん。嬉しくないよ。ぜんぜんうれしくない。
泣いて、泣きじゃくって、もう、死んでしまおうかって、そう思った。
そんな私に、不幸だった私に、神様が、力をくれたんだ。
過去に戻れる力を。
早速私は過去に戻って彼に怒った。
ふざけるなって。初めて彼をビンタした。
「ごめんね」って。彼は謝って、私たちは仲直りをした。
それから、一ヶ月がたった。
12月の事だった。
彼は死んだ。
今度は他殺だった。
私は過去に戻って彼を救った。
でも、一月。
彼は死んだ。
どうして、どうして!
なんどもなんどもなんども!
私は彼を救った。
その度彼は死んだ。
彼も能力持ってんじゃないの?殺されやすくなる能力とか。
ないか。
そして。
過去に戻ったのが、13回目。
令和3年の4月。
私は彼の部屋で泣いていた。
また、彼が死んでしまったから。
そんな時、ふと、前回彼に聞いたことを思い出した。
「死んでも、そばにいる」
彼は今、私のそばにいるのかな。
私を、慰めてはくれないのかな。
そういえば、彼の部屋に入ったことはあまりなかったな。
この際、過去に戻る前に部屋を漁って、秘密の一つや二つ、見つけてやろう。
驚く顔を見てやる。
そう思い立って、部屋をあさくってみた。
するとね。色んなものがでてきたんだ。彼はろくに勉強しないくせに、たくさんの消しゴム、筆箱、教科書。
影の努力家かな。かな?
そんな中で。ひとつのアルバムを見つけた。
そこには、おびただしい数の
私の写真があった。
「なに、これ」
……複雑だ。うん。でも、うれしいよりの感情が胸に広がる。
過去に戻って問い詰めてやろう。
へっへっへ。彼の新しい一面をしれたぜ。
やっぱ好きだったんだな。私のこと。ツンデレなんだからー。
よし、過去に戻って告白だ!
なんて、思いながらパラパラとアルバムをめくる。
うーん。しっかし。いつ撮ったんだ?彼は写真を嫌がるタイプだったし、カメラなんて持ってるとこ見た事ないぞ。
そう思いみてると。
ふと、一枚の写真が目に止まった。
そこには
首を吊って死んだ、私の写真があった。
令和三年五月二十一日。彼の誕生日が、その写真の下には書かれていた。
……。
そっか。
そういえば、彼は私の笑顔を好きだと、一度も言ってはくれなかったな。
結局彼は死ぬのだろう @hirahi
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