第5話 『帰宅』

 10日の昼に車に轢かれ、13日の朝に目を覚まし、3日間の入院を無事に終えた本日3月16日に俺、日之内遊吾は退院した。


「遊吾、ここがあなたの家よ」

「ここが…」


 綺麗な一軒家をお母さんが紹介してくれる。俺ってなかなか良い家に住んでいるんだな。


「ここがリビングで……ここがトイレで……ここがお風呂と洗面所で遊吾の歯ブラシはこの黒色のよ」


 各部屋をお母さんが案内してくれるが…中々に広い!俺って良いとこ住んでるんだな!


「それでここが遊吾の部屋」


 最後に案内された自分の部屋は真っ黒だった。勉強机、ベット、本棚、その他諸々全て真っ黒だ。


「お母さん…俺って心か何か病んでたの?」

「いいえ、全部あなたの趣味よ」

「そ、そう……」


 記憶なくす前の俺ってそんなに痛いヤツだったのか?


「あっ、あとコレ渡しておくわね」


 お母さん差し出した手には黒いスマホがあった。


「奇跡的にスマホは無傷だったのよ」

「へぇ…」

「安心してね、顔認証でしかロック解除出来ないから中身は見てないわ」

「……」


 イジワルに微笑むお母さんをジッと見つめる。


「それじゃあ、お母さんはリビングに居るから部屋でゆっくりしてて」

「うん、ありがとう」


 部屋の扉が閉まりお母さんが部屋から出て行き、俺一人になる。


「ゆっくりって」


 こんな真っ黒な部屋でゆっくり出来るわけないだろ。っと思いながらベッドで横になる。


「……落ち着く」


 記憶をなくしても俺という人間は骨の髄から真っ黒が好きなようだ。

 手に持ったスマホの電源ボタンを押すと綺麗な街の写真が画面に表示される。


「っ…!!」


 俺はこの街を知っている?いったいどこで?思い出せ…思い出せ。


「つっ…!」


 頭に痛みが走る。それと同時に画面に表示されている街を歩いている記憶を思い出す。

 俺はこの街に行ったことがあるのか?写真の街は明らかに日本ではない。俺は海外旅行が趣味なのか?この写真の場所はいったい何処なんだ?


「っ、ダメだ…これ以上思い出せない」


 くそ…!もう少しで思い出せそうなのに!もう一歩、後押しが足りない!

 何か思い出す手掛かりはないかと、部屋を見渡すしてみる。

 すると勉強机に置いてある白いヘルメットに目に入った。持ってみると思っていたよりも軽い。被って遊ぶものだろうか?


「こうか?」


 被ってみたが真っ暗なだけで何も起きない。外してヘルメットの端っこに『未来コーポレーション』と会社名が書かれているのを見つける。

 気になったので調べるために、ヘルメットの下に置いてあったノートパソコンを開くと勝手に【Equip Adventure World2】というサイトのマイページにログインしてしまった。

 何故分からないが、この画面を見ていると不思議とワクワクしてくる。


「これは?!」


 ゲーム紹介の画像に俺のスマホの待ち受けにしてあった街がある。

 そうか!このゲームに出てくる街の写真を待ち受けにしていただけで、俺は別に海外旅行が趣味なわけではなかったのか。

 他に手掛かりがないか見てみよう…。


「なんだこれ?」


『ガンガンヤッタレガールズの説明その1〜内容編〜』と書かれた動画。

その動画には俺の部屋にもあるヘルメットが映っている。気になったので再生ボタンをクリックすると茶色毛の短髪の可愛らしい少女と、青色の長髪のツリ目の美人な少女が現れる。


「ついに【New Equip Adventure World】の開始前日となりました!皆さんはログインの準備は大丈夫でしょうか?!大丈夫でしょ〜か!!」

「開始早々にうるさいわよ、ツクシ」 

「ごめんごめんユキ姉。テンション上がっちゃって」

「まずはわたしたちの自己紹介からでしょ」 


 ツクシと呼ばれている少女が茶色毛の短髪でユキ姉が青色の長髪のようだ。


「え〜、もうこんだけ名前言ってるんだから察しの良い人は分かるでしょ〜。それに前のアドワでも私たちのことも知ってるはずだし〜」

「良いから!自己紹介!!」

「は〜い…!ガンガンやったれガールズの可愛い担当のツクシで〜す!そして横においでなさるわ!ヤッタレガールズのクール担当ユキちゃんで〜す!!」

「クール担当になった覚えはありませんが、皆さんよろしくお願いします。それではヒナでは説明が難しそうなので私からさせていただきます。なんと!このゲームはゲームの中に入ってゲームがすることが出来る画期的な革新的な革命的なゲームなのです!!」


 力説する青髪の少女ユキの背後にゲーム画面が表示される。


「アドワ2にしかない数百種類にも及ぶジョブ!そしてジョブによって異なる何千個以上もあるスキル!それに何万とある装備を駆使してラスボスの魔王を倒しに行くというシンプルなゲームなのです!」


 画面には剣士の格好をした少年が剣を回転せて攻撃してモンスターを倒している。


「そう!なんとこのゲームではダンジョンがあってげがっ!!」


 ユキがツクシをショルダータックルで弾き飛ばす。


「そして何よりも前作から強化されたダンジョン!各ダンジョンには強いボスモンスターがいます。そのボスを倒すことで得られる『石』と貴重な装備を手に入れていくことで次の街へと進めるというわけです!紹介動画その1は終わりです!」


 代わりにユキが説明して動画が終わった。

なるほど…このヘルメットでゲームの中に入れるのか。でもどうやってだ?

 そんなことを考えていると『ガンガンヤッタレガールズの説明5〜ヘッドギアの設置方法編〜』の動画があったのを見つけたので再生ボタンを押す。


「どうも〜ガンガンヤッタレガールズです!」

「ど、どうも…」


 元気なユキと、体の至るところに包帯を巻いてギプスを付けて松葉杖をついたツクシがヨロヨロと挨拶する。説明動画の2〜4で何があったんだ?


「ま、まず準備してもらうものは…インターネットが出来る環境とヘッドギア。それとアドワ2のソフト…そしてモンスターと戦う勇気を準備して下さい」

「タイフーンアターック!!」

「ぐばげぇ!!」

「ツクシーー!!」


 長いツノの生えたユキが打つかると、ツクシは回転しながらどこかに飛んで行った。


「まず準備するものはインターネットが出来る環境。それとヘッドギアとアドワ2のソフトを用意してください」

「そのまま続けんのかよ……え?アドワ2のソフト?」


 なんだそれ?そんなのどこにあるんだ?


「まずはヘッドギアの頭頂部にある蓋を外し、ソフトが入っていないのを確認して」

「ちょっと待て!」


 動画を止めてソフトを探す。途中で止めたのでユキの目が半目になっているが気にしないでおこう。

 ソフトが入っていないかヘッドギアの頭頂部の蓋を開くが入っていない。


「ない!どこにあんだよ〜…」


 部屋を見渡すとノートパソコンの横に小さな段ボールがあることに気付く。

 段ボールはを引きちぎると、中に小さなケースが入っていた。


「これか!」


 ケースを開くと動画のユキが持っている物と同じ物が入っていた。

 これをここに刺すのか?動画を再生させる。


「何も入っていなければソフトの絵が描かれている表面をこちら側にして差し込んで下さい」

「こうか」


 その後、動画の指示通りにケーブルを繋げていき設置が完了した。


「ケーブル良し!スマホとの接続良し!……」


 残りの動画でツクシがどうなったか気になる……が、先ずは記憶を取り戻せるかもしれないゲームを優先しよう。


「電源オン」


 額にある電源ボタンを長押しするとキィーーンと音が鳴り眠気が襲ってくる。

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