第6話 『幼女化』

「ここがゲームの世界……」


 気がつくと石畳が敷き詰められた広場に立っていた。中世ヨーロッパ風のレンガで作られた家や建物が建っているので街だろうか?

 上を見れば青い空に太陽。息を吸うと焼き立てのパンの匂いとお菓子のような甘い匂いがする。耳を澄ませば人の話し声や水が流れる音が聞こえる。


「ほぇ〜すげぇ〜…ん?」


 俺の声ってこんなに高かったか?


「あ〜あ〜」


 やっぱり声が高い。まるで子どもみたいな声だ。喉を触ろうとすると手の小ささに気がつく。

 体を見回すと黒いローブのような物を羽織っており、中には長袖の白いシャツ。それにスカートを履いている…!


「あの子何してるのかな?」

「スカートヒラヒラさせて可愛い〜」

「銀髪だ…」


 周りのプレイヤーらしき人たちが俺を見てくる。そのプレイヤーの背は明らかに俺よりもデカかった。

 何故かは分からないが。俺は女の子になっているようだ。


「っ…」


 人が集まって来たので俺は行く先は決まっていないが歩くことにする。

 すれ違うプレイヤーは俺を見下ろす。ありえない!女の子になりますなんて紹介動画で言ってたか?ガンガンなんとかガールズもコントしてないでもっと重要なことを紹介しろよ!

 ん?少し先に店のショーウィンドウを見つけ、早歩きで向かう。


「いらしゃい!」


 若い胸板の厚い男性店員さんに話しかけられる。看板にはパンの絵が描かれているのでパン屋だろう。

 俺は店員さんを無視して自分の姿を確認する。


「お嬢ちゃん、コッペパンでも食べていかないかい?」

「結構です」


 ショーウィンドウに写っていたのは可愛らしい銀髪の10歳くらいの少女だった。


「……え?」


 ほっぺたを触ると写っている少女も同じ動きをする。ニコッと手を振ると少女も手を振る。


「どうして…?」

「お嬢ちゃん、コッペパンでも食べていかないかい?」


 俺は少女のキャラクターでゲームをしていたのか?そういうことだよな。そういうことで良いんだよな…。


「お嬢ちゃん、コッペパンでも食べていかないかい?」


 にしても可愛いな…。ショーウィンドウで薄っすらとしか見えないけど分かるぞ!可愛いってことが!

 長い銀髪を手で触ると、今まで触ったことがないくらい柔らかくサラサラの感触だ……って記憶がないから今までを知らないんだけどな!


「お嬢ちゃん、コッペパンでも食べていかないかい?」


 さっきからうるさいな!もっと他のパンも紹介しろよ!コッペパン専門の店か!

 ショーウィンドウに視線を戻すと俺の背後に黒い鎧を着たプレイヤーが立っていることに気付く。

 その存在感は凄まじく、とんでもない圧が背中にヒシヒシと伝わる。


「……」


 パンでも見たいのかと横に移動すると、背後にいる黒い鎧が俺の後ろを一緒に動いているのがショーウィンドウに写って分かる。


「お兄さん、コッペパンでも食べて行かないかい?」

「……」


 コッペパン売りのお兄さんが話しかけるが黒い鎧は無視をする。


「話があるから一緒に来てもらうよ」

「え?」


 ポンと肩に手を置かれる。俺に用?パン買いにきたんじゃないのか…。


「あの人違いじゃ…」


 後ろを振り返ると黒い騎士の鎧のプレイヤーが見下ろしていた。180センチはあろうか大きな体を漆黒の鎧が包み、肌色が一切見えないせいかロボットのようにも見える。


「はわぁ〜…」


 漆黒の騎士の鎧には唐草模様のような青色の線が胸部や腕や脚に入っており、美しさとクールさと格好良さを兼ね備え、顔を見れば額にひし形の小さな青い宝石が輝いている。眼の部分の隙間から赤色に光った目が威圧している。


「カッコイイィ…!!」


 こんなにカッコい騎士様だったら俺が女の子なら一緒にゲームに誘っているだろう。いや、今は女の子だから誘っても良いのか?だったら誘っちゃおうかな!もしも俺が漫画のキャラだったら目がハートになっていただろう。


「あ、あの良かった俺と一緒に…」

「目立ってくれて直ぐに見つかって良かったよ、ユーゴ」

「え?」


 俺の名前を知っているってことは知り合いか?こんな素敵な人と俺は知り合いなのか?!


「ここでじゃあアレだし、手を握って」


 漆黒の騎士が手を差し出してくる。


「は、はい!」


 ドキドキしながら握ると、手の平は硬いゴムのような感触だった。


「マイルームで詳しく話そう」


 パッと景色が街並みからこじんまりとした木で出来た部屋に変わる。


「え?!どこだ、ここは?!」


 10畳ほどの部屋に木製の小さな丸い机と椅子が2つ。部屋の奥にはベットが置いてあり漆黒の騎士はベットに腰を下ろす。


「ここは私のマイルームだよ。ユーゴも座りなよ」


 動揺しながらも俺は椅子を漆黒の騎士の前に動かし対面して座る。


「う〜ん、なにから話そうかな?」


 人差し指を顎に当てて考え事をする姿は似合わないので、やめてほしいものだ。


「俺のことを知ってるみたいでしたけど、俺とあなたはどういう関係なんですか?」

「私はユーゴの姪だよ」

「姪?」

「そう。今のユーゴの姿が私なの」


 はぁ?全く意味が分からないぞ……。

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