第3話 『目覚め』

「うう……ん」


 眩しい。目を明かりに慣れさせながらゆっくりと開ていく。まず視界に入ったのは真っ白な天井、それに点滴、白いカーテン。


「病…い、ん?」


 声が出ない。喉がカラカラだ。まるで長い時間、水分が喉を通っていないようだ。

 どうして俺は……いや僕?私?あれ?なんでだ?自分の一人称が思い出せない。何もかも全く分からない。


「…っ!!」


 焦りと不安で勢いよくベットから起き上がる。


「痛っ…」


 頭に鈍い痛みが走る。頭に触れると包帯が巻かれている。頭を怪我しているのか?どうして怪我をしてるんだ?

 なんとか起き上がり周りを見渡すと洗面台を見つける。

動こうとすると点滴に引っ張られる。


「ちっ…」


 点滴を引き抜いて気怠い身体を動かし、フラつきながら洗面台に向かう。

 まずは蛇口をひねりカラカラの喉を潤す為に水を飲む。


「はぁ…はぁはぁ… …」


 顔を上げると洗面台の鏡に自分の姿が映る。


「これが…?」


 全く知らない顔だ。外見から考えるに、年齢は十代くらいだろうか。自分は一体誰なんだ?


「何も思い出せない……」


 ベットに座り頭を抱える。心臓が激しく鼓動し呼吸が苦しくなる。

 すると自分の病室の扉が開く。

驚いて顔を上げると、三十代半ばくらいの女性が扉の前で目を見開き立っていた。


「遊吾…?」


 女性は持っていた荷物を床に落として駆け寄って来ると自分を抱きしめる。


「え…?」

「良かった…!!心配したのよ、遊吾。二日も目を覚まさなかったのよ、本当に…本当に良かった……」

「……」


 どうやらこの女性は自分のことを心配してくれるような仲のようだ。

 女性はさらに強く抱きしめくる。抱きしめられ人の暖かさに触れたからか、自分のことを知っている人がいたことに安心したからか気分が楽になってくる。


「遊吾、どうしたの?」


 自分が何も話さないことを不思議に思った女性が顔を覗き込んでくる。


「どこか具合が悪いの?」

「……すみません。あなたは誰ですか?」

「え?冗談でしょ…?お母さんのことが分からないの?」

「っ…!」


 母親だったのか……。自分は本当に何も記憶にないようだと改めて実感した。


「すみません……あなたのことも自分のことも何も分かりません。本当に、すみません……」


 母親は自分の顔を見つめた後、下を向く。


「少し待ってて…先生を呼んでくるから」


 女性は自分から離れ入り口に投げ捨てるように置いた荷物を部屋の隅に置き直し部屋を出て行った。


「……ああぁ!!」


 記憶が全くない苛立ちと、母親と名乗る女性の落胆した顔を思い出し、ベッドを思い切り殴る。

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