第1話 『日常(前編)
世界でも類を見ないとされていたゲーム【Equip Adventure World】のサービスが終了してから、生きる気力も無くし毎日を過ごしていた。
俺はアドワをこよなく愛していた。アドワのサービス開始の日から終了までの二年の間は暇さえあればゲーム世界にログインし、勉強やスポーツを全くせずに中学と高校一年生中盤までの貴重な時間は消えてしまったが、それのおかげで俺のキャラはアドワでの最後のイベントで優勝を遂げた。
進級が怪しいと担任に冗談で言われた去年の高校一年生の冬、アドワの続編が来年の3月12日に発売されることが決まった。
タイトルは【New Equip Adventure World】……これも【NewーEAW】とかではなく『アドワ2』と略されてしまった。哀れ、制作会社。
アドワ2とみんなと一緒のようにマヌケに略している自分の名前は日之内遊吾、今年で高校二年生に無事に進級できたゲーム大好きな男の子だ。
3月10日。2日前に高校二年に無事に進級できることが確約され、春休み真っ最中の俺はわざわざ海外で仕事をしている兄が、姪っ子と一緒に半年ぶりに俺の進級祝いをしに3日だけ帰って来ている。
だが俺はそんな弟思いの兄を放っておいて、自分の部屋で正式サービス2日前に控えたアドワ2の公式サイトのマイページで自分のキャラを鑑賞していた。
課金のガチャで手に入る重ね着装備という普通の装備の上に着る装備を着せている自分のキャラ。
重ね着装備とは名前のとおり装備の上に重ね着する装備のことで、たとえガチガチの鉄の鎧を装備していようと重ね着でビキニアーマーを着れば見た目がビキニアーマーになるというのが重ね着装備である。
ちなみに重ね着装備をしてもスキルが手に入るだとかステータスが上がるとかそんなことはない。なのに俺が重ね着装備を着ているのは、ただ単に自分の顔を晒したくないので隠すためだ。
このアドワというゲームは自分の顔写真と全身の写真をあらゆる角度で何枚も撮り自分の声を録音したものをアドワの会社に送りキャラを作ってもらい、自分のキャラのデータが入ったアドワの機械が自宅に届くというシステムになっている。
なので自分の顔を見られたくないという思春期の心があるので、自分のキャラに重ね着で顔が隠れる全身鎧を着せているのである。
「良い…」
前作のアドワで2時間かけて作り上げたキャラ。5万円を費やして作り上げたキャラ。
「カ、カッコいい…」
自分の才能が怖い…。闇をイメージした真っ黒の鎧。その鎧に青く光る線が体全体に入っている。なんと体や手から黒い煙が自在に出るエフェクトまである。ノートパソコンでキャラを回転させながら鑑賞する。
「何度見ても思うが、これはとんでもないものを作り上げたものだ」
アドワ2で冒険をすることをワクワクしながら妄想していると、ドアからコンコンと軽いノックの音がした。
「ユーゴなにしてるのー?下でみんなが何かのオイワイ?とかで盛り上がってるよ?」
姪のマリアの声だ。さすがに部屋に閉じこもってたから気になって来てくれたのか…あと、俺の進級祝いな。
「ねぇー開けるよー?」
返事をせずにいると不安そうに聞いてくる。
「良いんだよ、気にせず開けちまえ」
ヤンキーのような独特な話し方をする兄の声がすると、ガチャっとドアが開いた。
「せっかくお前のお祝いのために帰って帰って来てやってんだから構えよ。この兄と可愛い俺の娘に」
「その割にはマリアは何のお祝いを知らなかったみたいだけどな」
扉から絶世の美少女が入ってくる。サラサラの長い銀髪と整った顔立ちの白いワンピースを着た美少女。この美少女こそ姪のマリアだ。
その美少女のマリアに続いて入って来たのは、黒髪で短髪の180センチほどの細身でスーツを着た20代半ばのイケメン。腹立つがコレが俺の兄だ。
この部屋の顔面偏差値が一気に上がった。にしても兄と姪っ子は前世で相当の徳を積んだに違いない、きっと教会を無償で三つほど建てたのだろう。
「おっ、何してるかと思ったらもうアドワのキャラ見てんのか?」
勝手に部屋に入ってきた兄がノートパソコンを覗き込む。
「にしても何というか…すごいな」
若干引き気味になっている。違うだろ!そんなコメント求めていない!
「もっとほかに言うことあるだろ?」
「カッコいい‼︎チョーカッコいい‼︎」
いつの間にか部屋に入って来ていたマリアが覗き込んで叫んだ。
「だ、だろ?」
う、うっれしい!顔がにやける。カッコいいというのは分かっていたけど人に言われるとやっぱ嬉しい!でもあからさまに喜ぶのは恥ずかしいから顔がにやけないように耐えるんだ!
「私もこんなカッコいいキャラでアドワできたらな〜」
カッコいいと言われた余韻に浸っていると、さらに嬉しいことを言われた。
「そういえばマリアもアドワ2買ったんだっけ?」
にやけるのを耐えながら、思い出したことを聞いてみた。
「ああ。だけど海外に送ってもらうのは色々と面倒くさいから、わざわざ受け取る場所をここの住所にしたんだ」
おいおい兄よ、完全に俺のお祝いじゃなくてゲームを受け取るために帰って来たよね。
それと、ウチで受け取るとか全然知らなかった。
「パパ、今日機械とソフトが届くんだよね?すっごい楽しみ〜!」
ほら、マリアも完全にゲーム目当てで日本来てんじゃん。別にいいんだけどさ、通りでマリアが俺に『おめでとう』とか一言も言わないわけだよ、だって俺の進級をお祝いするのは目的じゃないんだから。
「絶対、俺のお祝いのために帰って来てないだろ」
「安心しろ、少しくらいはお前のためだ」
やっぱりそうかよ!俺の横でマリアが『ユーゴって何か良い事あったの?』って小さい声で兄に聞いてるし!
「でもマリアだけでアドワ大丈夫か?子ども1人だとゲーム進めるのも大変じゃないか?あとマリアの見た目だとさ……変なヤツに絡まれたりしないか?」
「安心しろ、マリアはゲームはめちゃくちゃ得意だ。なんせ俺が逆にゲームで分からないところを聞いたりやってもらったりするくらいだからな」
マジかよ。とマリアをジッと見つめていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る音が聞こえた。
「来た?!来た!!」
背筋がピーンと伸び、目を見開いたマリアが俺に聞いて来た。うっわ!猫みたいだ!可愛い!
そんなことを思っていると、下からお母さんの声が聞こえる。
『ユーゴ!マリアちゃん荷物が来たわよ!』
「やったー‼︎来たー!荷物到着ー!」
アホみたいなことを言いながら玄関へと走っていった。
「全く可愛いやつだぜ」
何故かクールに決めた兄もマリアを追って下に降りて行く。
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