私は早速そのアニメについて調べ始めた。彼女らのグループ名、今までに出版した曲、音楽ゲーム……。数日ぶりに飯に有り付いた人の如く、私はインターネット中のコンテンツを貪った。何故こんなにも傾注していられるのか、自分でも不思議に思うほどだった。

 どうやら彼女らの活動はアニメが源流でなく、メディアミックスとして行われているらしい。雑誌に登場したり物語が小説になったりもしているそうだ。

 更に検索を進めると、彼女らのライブの情報が出てきた。バーチャルでやったりしているのだろうか、と思いながらサイトを開いてみると、そこには数名の女性の写真があった。

 どうやら、アニメに出てくるキャラクターの声優さんは、実際に三次元のアイドルとして活躍しているらしい。


「三次元、か」


 私は胸の中にわだかまりを覚えた。正直に言うと、私は三次元のアイドルに魅力を感じたことがない。クラスの「まあ可愛いかな」程度の女子が集まって、何処かで聞いたことのあるような曲をよくあるダンスで歌ったり踊ったりしているだけに過ぎないじゃないか。熱心なアイドルヲタクを見ると吐き気さえ催す。量産されたアイドルのペルソナを付け、公式に代入しただけのパフォーマンスをする人々の何処に感動するのか。平凡なリアリティの何処に輝きがあるのか。


 それに対してアニメは良い。所詮は絵空事に過ぎないが、だからこそ想像が膨らむ。いや、「創造」と言ったほうが正しいかもしれない。創造は人間のみに許された高次の営みだ。何時でも私達は心のなかで新しい物語を創造し、その物語の中で生きている。私達は決してリアルに生きちゃいない。リアルをまじまじと見たってそこには平凡な物体しかなく、故に輝きや感動なんて何処にも生まれない。そんな世界で生きたってつまらないじゃない。


 対して物語の登場人物は非凡だ。異能力を持っていたり、才能に恵まれていたりする。私を現実離れしたフィクションの世界に連れて行ってくれる。


 だから私はアニメが好きなんだ。アニメは私の物語創りを手伝ってくれる。新しい世界観を提供して、その中に飛び込むよう誘導してくれる。そして私はその中でリアルを忘れ、幸福や優越感を感じることができる。


「ごめんね、今の私は三次元を愛せるレベルじゃない」


 私は検索画面に写っている声優の写真に向かって話しかけた。何となく、彼女らが私に微笑みかけてきたように見えた。

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