第23話 手紙

彼女の死についてすべきことが全て終わった。


そして僕は・・・彼女の予知の通りに断崖絶壁の地に立っていた。


夏に彼女と立ち寄った断崖絶壁だ。

ときは夕暮れ、あの時と同じ燈色ひいろの地平線が輝いている。

少しばかりの風が吹いて僕の髪と着ている服をなびかせた。


隣に彼女はいない。


もう二度と、永久に僕の隣に彼女は立つことはない。


目をつむり、彼女との思い出を振り返る。

一年にも満たなかったが、とてつもなく長い思い出だった。

目を開くと、僕はカバンから手紙を取り出した。

彼女がこの地でくれた手紙だ。


封から中身を取り出す。・・・4枚入っていた。


1枚目はタイトルだった。


『未来予知』


未来予知した場所で、さらに未来予知をするとは・・・やはり彼女は面白いと思った。

それにこれから読む未来予知は、彼女が見れなかった未来のはずだ。

僕は続きを読む。


2枚目


『まず初めに・・・私の予知は当たったかな?』


『君が断崖絶壁の地でこの手紙を見るという予知だよ』


『当たってたら嬉しいな。君もうれしいでしょ?』


『もし当たってたとすると・・・私は占い師に向いていたのかも?』


『君はどう思うかな? それとも違う職業の方が向いてるかな?』


『どちらにしろ私は何者にもなれないんだけどね』


『・・・こういったブラックジョークも書いてあるけど許してね』


『でも君が許してくれることはわかってる。君はすごく・・・』


『優しいから』


『喧嘩も多くしたけど、君は優しく許してくれた』


『それだけで私は全てが救われた気がする』


『だから手紙越しだけど、君に言いたいことがある』




『ありがとう』




『―――最後に君に、私を好きになってくれた君に未来予知をしたい』


『とても素敵な未来予知・・・だと思う』


『気に入ってくれると嬉しいな』


『そして、その未来予知の通りになって欲しいな』


『―――さっき最後といったけど、それとは別にやっぱり最後にもう一度言いたいな』




『ありがとう。そして』




『さようなら』



2枚目を読んで僕は・・・3枚目と4枚目を読むかどうか悩んだ。

見てしまうと・・・その未来に決まってしまうような気がする。

彼女と過ごした一年で、僕は未来はやはり知らない方がいいと思っていた。


知っていることも幸せだが、知らないこともやはり幸せなのだ。


でも・・・悩みに悩んだ末、僕は彼女の手紙の続きを読むことにした。

彼女の最後の好意を無駄にしたくなかった。

未来を知ることになっても、決まってしまうことになっても僕は後悔はしないと決めた。


未来が見えない彼女が見た未来。


その未来を僕は今から読む。


3枚目。




『君の最期』




3枚目はその一文のみだった。4枚目のタイトルだったのだ。

拍子抜けはしなかった、むしろ緊張感がました。

4枚目の内容は彼女が僕の死を予測して書いたのだ。


覚悟を決めて・・・


僕は・・・4枚目を読んだ。

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