第22話 答え合わせ

初デートのその後。

観覧車が円運動・・・すなわちスタート地点からゴール地点まで一周した後、遊園地を出て、僕らは互いの家へと帰宅した。


家に帰り、風呂に入り、ベッドの上で横になった。

それから僕は、今日、彼女から聞いた話を整理し始めた。

時計の短針が指していた数字が二つ増えた時間まで話を整理した後、僕は思った。

失礼極まりないだが、自分の彼女に思うことは非常に申し訳ないことだが、


彼女は呪われている。


彼女は一種の脅迫概念に襲われているのでは?と思った。

それが『呪われている』ということである。僕は呪いの意味を考え始めた。


彼女は全ての未来を見ているわけではない。

見ているのは主に未来の自分の姿だ。

彼女は決してナルシストではない。それは普段の彼女の様子から断言できる。

お洒落にこだわりはなく、そのままの自分を大事にしているという印象だ。

では何故、彼女は自分の未来の姿を見るのか?

彼女は癖のようなモノだと言ったが、そうではないのでは?と僕は思った。

その理由が呪いの答えに繋がると、僕は考えを深め始めた。


するとやがて、一つの結論に至った。

その答えが正解かどうかを判断することは出来ないが、僕は、彼女がとあるモノを求めていたと結論付けた。それは


『安心感』である。


彼女は・・・当然、僕も含めてだが、僕らは普通ではない。

彼女は未来が見え、僕らは死体が見えない。

僕らにとっては普通のことでも、普通の人にしてみれば普通のことではない。

普通の人からしてみれば、僕らは異常で化物のように感じるだろう。

ゆえに彼女はこう思ったのだろう。

死体が見えない程度の僕はその考えに至らなかったが、彼女は思ってしまったのだろう。


『私は成長したらどうなるのだろう?』と。


私は化物で人間に擬態していて人間の振りをしているだけでは?

もしそうなら成長したらどのような姿になってしまうのか?

人間だとしても普通でない私は成長したらどうなってしまうのか?

色んな影響受けて化物のようになってしまっているのでは?


思いついてしまったが最後、彼女は見続けずにはいられなくなってしまったのだろう。


未来の自分の姿を。


普通の人間の姿である未来の自分を見て安心感を得る日々。

答えとなる姿になるために、誤った答えにならないようにピースを当てはめてキャンバスを完成させていくことへの安らぎ。

それが、彼女が未来の自分の姿を見る理由ではないかと思った。

ところがだ、ある時を境に彼女は未来の自分の姿が見えなくなるのだという。それは


自分が死んだ時だ。


彼女は自分が死ぬ時まで、自分は人間の姿であることはわかったが、死んだ後の姿がどうなるのかわからなかった。

人間の姿のままなのか、それとも化物のような姿になるのか?

そしてそれを周囲の人間に見られる。

自分はその答えを見れないのに、他人には自分の最後の姿というキャンバスを見られて評価される。それは、とても


恐ろしい。


だから


「―――僕を恋人に選んだんだろ?」


僕は最後の質問を彼女にした。

僕は死体が見えないいから、君が死んだ後、どのようなキャンバスを描かれたのかわからない。

周囲の人間が詳しく説明しようとも、どれだけ熱弁しようとも、僕にはそれが正しいのかわからない。

この世界で唯一、僕だけが答えを理解できない存在だ。

そして、僕だけが唯一、彼女の望むキャンバスを見ることができる存在なのだ。


「違うかい?」


僕は彼女の目を見つめていった。


時間は14時23分。

彼女が過去に未来で最後に見てきた時間である14時14分から9分経っている。


「僕は君を見送ることが出来ない」


僕がそう言った後の未来を彼女は見ていないと言った。

つまり、僕の彼女に対しての最後の問いに対する答えを、僕は勿論、彼女も知らないわけだ。

その答えを知る方法はない。

・・・いや、それは嘘だ。唯一、その答えを知る方法はある。それは


「大丈夫・・・未来を見て答えたりしない」


彼女はその唯一の方法を否定した。


「でも、少しだけ待ってくれる?」


この言葉に僕は頷き、彼女の答えを待った。

彼女が言った通り、その時間は『少し』だった。

無限に近い『少し』であって欲しいと願ったのに。


―――彼女の唇が動いた。


「どんな答えであっても、私を見送ってくれる?」


「・・・ああ、どんな答えであっても君を見送る。約束する」


「ありがとう。私は君が―――」


彼女が答えを言う間、僕は彼女の手を握り続けていた。

いつから握っていたのかはわからないが、手を握っていた。

彼女が答えを話すにつれて、彼女の手に力が無くなっていくのがわかった。


そして彼女が全ての答えを話してくれた後、一瞬の瞬きの後、


僕の目の前に、彼女が横になっていたその場所に、


美しく、儚く、何よりも残酷で透明な


『白いキャンバス』があった。

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