第21話 嘘

近くのホテルにて。

彼女がベッドで横たわっている。

即座に救急車を呼んだが、それが手遅れであることが分かっていた。


分かりたくないのに。


倒れ掛かってきたとき、彼女は青ざめた表情で、


「騒がないで、あのホテルに連れて行って」


僕は彼女の言うとおりに指をさしたホテルへと連れて行った。

ホテルの従業員には彼女が体調が悪いことを伝え、救急車を呼ぶようにお願いした。

従業員たちは自分たちも付き添うように提案したが、彼女が断固として拒否したので、彼らも下がらざるを得なかった。


「どうしても二人きりになりたかった」


僕も同じ気持ちであった。

それと同時に色々な気持ちが湧き上がってくる。

何よりも大きいのは嘘をついた彼女への怒り・・・いや、それ以上に自分の情けなさだった。


X日が嘘だと微塵も思わなかったことだ。


少し考えればわかることだ。

X日を正直に言うはずがない。

一日一日を大切に過ごそうと約束している僕に、それを楽しみにしている彼女がそれを曇らせるはずがない。

それを言ってしまえば、『今の彼女を見る』という約束も反故にしてしまう。


「・・・ごめんね」


それは僕もだ。と即座に切り返した。

互いに互いがダメだ。ダメ人間である。


『嘘と正直』


そのどちらも下手で、ありえないレベルだった。


でも


それが僕らだった。

人生経験の少ない僕らが出来る精一杯の生き方だった。

だから不満はなかった。


ただ一つを除いて


それを僕は今から話そうとおもう。

14時14分になるまで、あと4分。(現在、14時10分)

その4分間で僕らは今までのことを軽く振り返った。

そして、14時14分。

僕は以前より決めていたセリフを彼女に向けて言った。


「僕は死体が見えない。どうしても見ることが出来ない」


「だから・・・」


「僕は君を見送ることが出来ない」


「しかし、それでもせめて・・・僕は君を見送る振りだけでもしたい」


「許してくれる?」


どこまで知っていたのかは分からない。

でも彼女はそれを初めて聞いたかのように頷いてくれた。

それだけで、僕は全てが救われた。

そして、これから僕が彼女に言うことも許してほしいと思っている。


「ありがとう」


「・・・もう時間もないようだから、君に最後に聞いておきたいことがあるんだ」


「答えてくれる?」


そして、僕がこれから言うセリフも知っていたのかはわからない。

聞いて彼女の顔が変わったのも忘れない。

僕は言った。


「君は僕が好きなのかい?」

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