第17話 プレゼント

「スプラッター映画が見たい」


彼女の願いを僕は極力拒否しない。彼女がそれを望んでいるから。

甘やかしているわけではない。出来る限りは叶えてあげたいのだ。

叶えられるうちに叶えてあげたかった。

とはいえ、今回の彼女の願いを聞いて僕は・・・苦笑いをした。

一体何度彼女の言葉で苦笑いをしたであろうか?

そのどれもを凌駕するほどの苦笑いを僕はした。クリスマスという特別な日に。


僕は死体が見えない。


創作物であろうが、僕はそれを認識できない。

そんな僕が、死体が出まくるであろうスプラッター映画を楽しむことなど・・・実は出来るのである。

以前にも少し述べたが、あくまで見えないのは死体であって、死ぬ直前のシーンは見えるのだ。

ようするに、見どころとなる殺し殺されるシーンや痛めつけるシーン、そのための準備シーンなどは全然見れるのである。

それに僕は恐怖を感じることもできる。

とはいえ、とはいえである。

それでもやはり死んだ後のシーンが見えないのは、違和感を感じる。


僕は見えないのに他人は見えている。


その違和感は強く現れてしまう。

そして何より理解できないことが辛い。

そういった背景もあり、彼女の願いを極力拒否しないといったが、今回は拒否させて頂こうと思った。

しかし、次に彼女が発した言葉を聞いて、僕は彼女とスプラッター映画を見ることを決めた。


「一緒に見よう」


それは僕がかつて恐れていた一言だった。

そんなことをもちろん彼女は知らない。僕が話していないからだ。

しかし、その一言を彼女は言った。

その言葉に穢れはなく、只々純粋に僕とスプラッター映画が見たいという思いが伝わってきた。


これ以上は不要だろう。


映画館に入り、チケットを買い、指定席に座り、映画鑑賞を始めた。

映画の内容は・・・凄惨さの一言であった。

悪役の殺人鬼が現れてからは血まみれの虐殺タイムで内臓が飛び出すわ、首や胴体が千切れ飛ぶわのザ・スプラッター映画であった。

いくら死体が見えないから人より恐怖感を感じない(と思う)とはいえ、さすがの僕もドン引くレベルであった。

一緒に見た彼女も同様だったのか、途中から隣の席に座る僕の手をギュッと握りっぱなしだった。


―――――――――終わった。


結論から言えば、映画は楽しかった。

ストーリーもよく出来ており、殺人鬼の倒し方にも一工夫あったので、飽きることなく楽しめた。

彼女はやや疲れ気味であったが。元気そうに振舞っていた。

そこで僕は、チェーン店のドーナツ屋で一休みをすることを提案した。

そのドーナツ屋にて・・・僕は人生で初の映画の感想会をした。


「最初に殺された女の子の死体の状態が・・・・・・」


「湖の近くで殺された男の人の死体の表情が・・・・・・」


「最後に殺された主人公の恋人の死体のズタボロ感が・・・・・・」


色々と賛否を述べていく中で、気づいたこと。

それは彼女が死体の様子を詳しく話してくれたことであった。

(殺された後のシーンがよっぽど好きなのか?)と僕は思った。


が、


僕は気づいた。


これは彼女の僕に対するクリスマスプレゼントの一つだと。


『死体が見えない僕に死体の様子を説明する。』


―――嬉しかった。

本や小説、文献など様々な媒体で死体のことを調べてきたが、『人の口』から死体の様子を聞くことは少なかった。

ましてや、その様子を事細かに説明してくれるなど皆無だった。


苦しんだ表情

驚いた表情

断末魔を上げた表情

安らかに眠った表情


その他、様々な死体の表情を彼女は自らの顔を使って現わしてくれた。

傍から見れば、マヌケそのものだっただろう。

バカップルが何かしていると思われただろう。


だが、


それでもよかった。そう思われても何一つ気にしなかった。

僕も彼女も真剣だ。

プレゼントを贈る彼女と受け取る僕。

そこに悪意はなく、誠意だけがあった。


その後、形あるモノとしてのクリスマスプレゼントを彼女からもらった。

それは今も大切にしている。

一生涯手放す気はない。

もちろん、もう一つのクリスマスプレゼントも一生涯忘れる気はない。

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