第16話 過ごす時間

「待たせたな」


約束の時刻より5分と26秒遅れて彼女はやってきた。

軽い言葉とは裏腹に少し申し訳なさそうだった。

電車が遅れていたのだ。仕方のないことだ。

文句は言わず、“僕も今来たばかりだ”という定番の決まり文句を返すことから僕らのクリスマスデートは始まった。


「―――待っている間、楽しめた?」


テクテクと街を歩いていると、クスクスと笑いながらとたずねて来た。


―――『少し遅れます  てへぺろ☆(・ω<)』


彼女を待っている時、スマホの画面に彼女からのメッセージが届いた。

届いたのは↑の一文だけではなかった。


『このメッセージが届いて、君が確認してから19秒後、君の横に君個人が好きそうな』


『とてもお胸の大きいバインバインの美女がやってきます』


『横目で見るとバレずにお胸を見ることを楽しめるようなので、待っている間楽しんでください♡』


当然、その未来予知は当たる。

メッセージを見て、きっかし19秒後、とてもお胸の大きいバインバインの美女が隣にやってきた。

どうやら彼女も待ち合わせのようだ。そんな彼女の


胸を見るか、それとも見ないか?


バレないとのお墨付きを受けた問題。

右か左か悩むところ・・・ではなかった。

僕は見なかった。僕の中で見るという選択肢は全くなかった。

隣に立った美女には非常に申し訳ない発言となるが、僕は美女を見るよりも、スマホで彼女とメッセージを送り合う方がよっぽど楽しかった。


彼女と過ごす時間。


その方が貴重で、かけがえのないモノであった。

だから僕の彼女の質問に対する答えはこうだ。


“とても楽しかったよ”


その答えの意味を彼女は過去で知っている。

満足げで、とても嬉しそうな反応を見せた。


「もう少しで目的地に着くよ」


実は今日、どこでデートするかを知らされていない。

デートを決めたのは彼女、予定を決めたのも彼女、すなわち今日は彼女の時間だ。

クリスマスは特別な日。

もはやキリストの降誕を祝う日ですらない日本の風習となった特別な日。

何でもない日を大事にしている僕ですら、今日は大事にしたい日と思っている。

そんな日に彼女と僕が訪れた記念すべき場所は・・・


『映画館』


そして、鑑賞する映画は、


『スプラッター映画』


クリスマスデートはすでに始まっている。

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