第15話 何でもない日

冬。

厚手の服と長めのコートを着て、僕は待ち合わせの場所で彼女を待っていた。


・・・カップルが多い。


時はクリスマス。

待ち合わせ場所には最適となる、駅前の大画面テレビがある場所にて。

立ちほうけて人を見ていると、皆、幸せそうに二人並んで歩いていた。

平和そのモノだ。

その様子を見て僕は思った。

誰も思わないで思っていることだろうが、彼らは


『来年も同じ人と過ごせる』


と思っている。

明日も同じ人と過ごせるかわからないのに、さらに先の・・・遠い未来のことを予測しているのだ。

それを羨ましく思う自分がいる。


今日はクリスマス。


彼女と過ごせる最後のクリスマスだ。

・・・いや、この言い方は失礼であった。クリスマス以外の日に失礼だった。

不思議の国のアリスのアニメーションにて、こういう歌詞の歌が流れる。


『何でもない日、万歳!』


作中では特に深い意味を持たない歌であるのだが、彼女と出会ってからは、僕はこの歌詞が深く重く感じられる。


彼女が死ぬまで約1年。


彼女の口からそれを聞いてからは、僕にとっては何でもない日が最後の日である。

円を描いて繰り返される日付、その描かれた日付を歩き続ける日々。

しかし、彼女は歩いた道を消されていき、円を一周すれば彼女の日付は完全に消滅してしまうのである。

そして、それを僕も体験している。彼女の横でその様子を眺めているのだ。

僕の日付は消されないのに、彼女の日付が消されていく。

消されていく日の大半は・・・


何でもない日である。

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