第14話 死の色

秋の話をもう一つだけさせて頂く。

夏は海、では秋は・・・


「山に行こう」


というわけで、僕は彼女と山に行った。

赤、黄、緑。

如何なる人工素材を使用しても表せない、完璧な天然色がそこには広がっていた。

何故こうも美しいのか?と秋になって、その色を見るたびに思う。


死の色


植物が作り出す死の色を連想させる紅葉が好きであった。

死体が見えない僕は思う。


死とはやはり美しいモノなのか?


その死の色を背景に山に登っていく死にゆく彼女の背は、美しさそのモノだった。

そして振り返り、息を整えながら、優しく僕に微笑む様は山が描いた一枚絵。


『死と死』


その絵のタイトルをつけるならば、このタイトル以外にはないと思えた。



「―――空気がおいしい」


呼吸をする度に清められている気がすると彼女は言った。

でも、


「それは気のせいに違いない」


彼女は少し長めの瞬きをして、登っている山道の先を見据えた。

もし本当に清められるなら、私は普通になれるはず。

僕にしかわからない彼女のメッセージ。

やはり彼女は望んでいる。普通というモノに。


「もし私が未来が見えなかったらどうなっていたと思うって?」


「そしたら、そうだね・・・何も変わらなかったんじゃないかな?」


「私は未来を見てズルをしたことはないし、正直に生きて来たつもり」


「テストを見たり、誰がケガするだの誰が病気になるだのを警告したことはないし、未来を大きく変えるようなズルはしてきてないつもりだよ」


「ただ・・・ただ、どうしても分からないのはぐらいかな」


「その意味と理由は『言わずもがな』かな」


直感だが、彼女は嘘は言ってないと思った。

確信はないし、証拠もない。

そうであって欲しいと願ったからではなく、何となくそうなんだろうと思えた。

だから、最後の僕との関係については文句の一つもなかった。

正直に答えてくれたと信じれたから。

だから僕は彼女のことが好きなんだろう。

優しい嘘以外に嘘をつかない彼女に嘘をつきたくはない。

そこで僕は、君が未来が見えなかったら、その時は


“僕が君に告白しただろう”


この答えに彼女は満足げに、


「やっぱり何も変わらないかぁ~~~」


山道を登り、登り、登りぬくと、そこには小さな緑の平野があった。

その平野の中心にて、僕と彼女は空を眺めた。


青い、極みのわからない青い空がそこにはあった。


「変わらなくてよかったね」


山の天気は変わりやすい。

彼女はその意味で言ったのだろうが、僕にはそれと違うもう一つの意味も含んでいるように感じられた。

どんな未来であろうとも僕が彼女を好きな気持ちは変わらない。

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