第9話 最後の姿
謎は一つだけではなかった。もう一つある。
秘密を知って、なぜ僕に告白したのか?
その理由を尋ねる前に、彼女は理由を話し始めた。
―――いつも自分の姿を見て来た。いつも、いつも見て来た。
未来を見ないこともできる。でも、どうしても見てしまっていた。
癖なのか、それとも生まれ持ってしまった本能なのか・・・どうしても見てしまう。
止められなかった。
常に明日の自分を、明後日の自分を、一月後、半年後、一年後の自分の姿を見ていた。
それは決して嫌ではなかった。むしろ、それが私にとって生きがいになっていた。
答えとなる姿に・・・自分が答えになっていく日々が楽しかった。
変化は刺激的で、ピースを当てはめて、パズルの答えを完成させる快感がそこにはあった。
でも、そんなある日。私は自分の姿が見えなくなった。
―――怖かった、凄く。恐ろしかった、とても。
死んだ後の自分の姿が見えなかったことが。
それは・・・私にとって死ぬことよりも恐ろしく、何よりも嫌なことだった。
私は自分の死んだ後の姿が見えないのに、私以外の人間は死んだ後の私の姿を見ることが出来る。
それがとても辛くて、胸が苦しくなる。
いつも答えを見た来たのは私だった。そして、その答えになるのはいつも私だった。
でも、最後の答えだけは違った。
最後の答えは・・・最後の答えだけは、私に答えさせてくれない。
私ではない、他人に答えさせるのだ。
先も述べたけど、
私はピースを当てはめ続け、『私の姿』というパズル・・・もとい、キャンバスを完成させ続けることが生きがいだった。
でも、そのパズルの最後のピースを私は選ぶことが出来ず、他人がピースを選んでキャンバスを完成させて、人前にそれを晒すことになる。
その時の、『私の最後の姿』という名のキャンバスを見る皆の視線が嫌で、想像するだけで嫌で、
嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で、
嫌でたまらない
私は、私が答えを見て答えていない死装束という人生最後の晴れ姿のピースを誰であろうと・・・たとえ君が選んだピースであろうと否定したい。
他人が作ったキャンバスは、私のキャンバスじゃないから
だから・・・だから私は『私の最後の姿』という名のキャンバスを誰にも見て欲しくなかった。
そんなキャンバスを見られるくらいならば、いっそ、ピースを当てはめていない、真っ白なキャンバスを見て欲しいと思った。
でもそれは不可能だと思った。
それを実現しようとするには大勢の人を傷つけることになるから・・・
人を傷つけてまでキャンバスを見ないで欲しいとは言えないから・・・
私は諦めていた。
でも
私は出会ってしまった。未来で。
私が死ぬ直前に話してくれたから・・・君が勇気をもって秘密を話してくれたから・・・
私は未来で恋をして、過去で君に出会って告白した。
そして今、改めて君にお願いしたいことがある。
私が死んだら、
「真っ白なキャンバスを見て欲しい」
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