第8話 未来の秘密

『少し』という表現は人によって捉え方が異なる。

彼女にとっての『少し』が分からない。

それでもこの時ばかりは少しが無限に近い少しであって欲しいと願ったのを覚えている。


楽しい初デートのはずだったのに、なぜ天国から地獄へと叩き落すのか?


あの日は僕が彼女を傷つけたかも知れないが、今度は彼女が僕に傷をつけて来た。

理由を聞いた。なぜこのタイミングなのか。すると、


、話すと約束したから」


僕はそれを聞いて黙った。そして悟った。

傷をつけたのは彼女ではなく、僕の方だったと。

これで二度、彼女を傷つけたことになる。実に愚かであった。


―――『突然死』なのだという。

今は全然大丈夫。

ところが一年後に急に倒れて意識不明、いったん目を覚ますも対処のしようがなく、そのまま永眠するというのである。


・・・重い、実に重く、苦しい空気が流れた。

なんて声を返せばよいのかわからなかった。

励ましの言葉など言えるはずがない、覚悟を決めている彼女に対して無駄も良いところだ。

そう、彼女は自分の死を受け入れているのだ。

未来を見たことで覚悟を手に入れているのである。


覚悟に同情など失礼極まりない。


ゆえに僕は、僕自身が抱いている謎について言葉を返すことにした。

すると彼女は言った。私は未来が見える。そして


「未来を聞くことも出来る」


―――彼女が死ぬとき

僕は彼女のベッドの横に立っており、彼女の死に直面するというのだ。

その時に、僕は彼女に自分の秘密を打ち明けるというのだ。


「僕は死体が見えない。どうしても見ることが出来ない」


「だから・・・」


「僕は君を見送ることが出来ない」


だから彼女は知っているのだと言った。

僕自身が抱いている謎であった、彼女が何故、僕の秘密を知っているのかという謎の答え。


彼女は未来で僕の秘密を知ったのだ。

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