第7話 理想の実現

「言うことはある?」


と彼女は小悪魔的に誘ってきた。

当然、乗る。

僕と同じようにお洒落を決め込んだ容姿を褒め称えると彼女の顔に笑顔の花が咲いた。


手を握ろうとした。彼女の方からだ。

僕は差し出された手を優しく握ると、瞬間、強く引っ張られた。


「行こう!」


どうやら彼女は僕以上にこの日を楽しみにしていたらしい。

引っ張られるままに入口を抜けると、彼女と僕の足は止まらなかった。

上から下へと流れる水のように、遊園地という人ごみの中をすり抜けた。

複雑な迷路にあらかじめ、入口から出口への答えの線が描かれているかのように壁に一度もぶつかることが無かった。

避けては通れない待ち時間も最小限、その時の彼女との会話も止まらない。

まさに遊園地デートの理想の実現だった。


楽しかった。これほど楽しいことは今までで一度もなかったと断言出来た。


つまずかないことがこんなにも気持ちいいことだとは知らなかった。

嬉しさが顔に溢れる。そして、それを横目に見る彼女の笑顔も美しかった。

そして

あっという間に時が流れ、夕暮れとき

僕は締めとして、観覧車に乗ることにした。無論、誘ったのは彼女の方だ。


そこで僕は聞いた。ハッキリと聞いた。


観覧車が円の頂点に動いたときに彼女の唇が動いた。


「私・・・もう少しで死ぬんだ」

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