魔法剣の系譜
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【旅の記憶】
「して、ディラン、ここがその遺跡だ」
石造りのその遺跡は所々が崩壊していて、どちらかというと跡地と言った方が正しい。
「これが……しかし、中にまで入ることはできるのでしょうか」
「大丈夫。こっちだ」
かなり黒に近い栗色の髪に緑の瞳。僕を今案内してくれている彼はこの遺跡を管理している国、ザントテールの前国王、ラウルだ。
我ながらこんなことがあるだろうかと思う状況だ。ことはザントテールの城下町までたどり着いた時まで遡る。
ザントテールの町はとても賑わっていた。テーラもとても活気のある城下町だったが、こちらは何より食べ物の種類が豊富だ。やはり国が砂漠にあるかどうかというのはかなり大きいのだろう。
ふと、広場で住人に囲まれている人と目があった。高貴な出で立ち。貴族だろうか。
彼は僕のことを見とめると、こちらに歩いてきた。何か無礼をしてしまっただろうか。争うのはなるべく避けたい。僕は向かってきた彼に跪いた。
「おお、急に近づいてすまぬな。別に君に何かあってきたわけではない。頼むから顔を上げてくれないか?」
優しい声。その言葉に顔を上げると、かなり年配の柔和な笑顔がそこにあった。
「旅人さんよ。名を何という? テーラのものではないな。さぞかし長い旅をしてきたのだろう」
「私はディラン・スターリンというものです。大陸の西、山脈を超えた場所にある」
「ディクライットか! お主、もしや魔法剣の使い手ではないか?」
「どうしてそれを……」
「はっはっは、ディクライットの王、クラウディウスとは親しくてな。そなたの話、良く聞いているぞ。まさか自国内で会えるとは思ってなかったがな」
「へ、陛下と……? 失礼ですが貴方は、まさか」
陛下を呼び捨てにするような者なんて決まっている、この方は。
「ああ、聞くだけ聞いておいて自己紹介がまだだったな。私はラウル。このザントテールの前国王にあたるものだ」
「やはり。なぜ貴方のような方がこんな街中に」
「はは、この国では日常茶飯事だ。私もそうだが私の息子たちもそうだ。よく城下に降りては民の話を聞いて回っている。そうすることでこの国を良くしていこうという、上に立つ者なりの努力だよ」
「しかし……」
「ディランよ、君は心配性だな。安心しなさい、皆護衛などつかぬとも大丈夫なように鍛えておる。そしてそれは私も同じ。どうだ、クラウディウスから君はとても優秀な魔法剣士だと聞いている。私と一つ、手合わせ願えないだろうか?」
手合わせ? 引退したとはいえ、王族と? 僕のことを知っているとはいえ、この人は何を言っているのだろうか。それに彼はもうかなりの高齢だ。
「単なる興味だよ。ディクライットで優秀だと言われている君がどんな戦い方をするのか気になってな」
「しかし僕は……」
「おや、他国の王族の話は聞けないというか? ならこれならどうだ?」
彼の掌に急に魔力が集中した。氷の魔法。咄嗟に炎の魔法で壁を作ると撃ち出されたそれは溶けてキラキラと消えた。
「はは、いい反応だ。よし、みんな引いたな。魔防壁をかけたからその中には入ってこないように」
いつのまにか広場にいた住民たちは周りに散り散りになり、避難していた。そして魔法が掻き消える防壁ギリギリの場所に立って僕ら二人のことを見物している。その中からまたラウル様のお遊びかぁ、という声が聞こえてきた。この人はいつもこんなことをしているのか?
「私がひどく変な人間に見えるだろうね。王族ともあろう者がこんなことをしようなど。だがこれは私の趣味だ。旅人を見たら戦いを仕掛けるのが好きでね」
「いくら何でも悪趣味ですよ!」
「はっはっは、まぁいいだろう。少しぐらい付き合いなさい」
そう言って彼は鞘に収まっていた剣を引き抜いた。伝わる魔力。氷の魔法? ……あれは魔法剣だ。
「そう驚くことではないだろう。君も魔法剣士。あ、でもこれは驚くかな」
独り言を言いながら彼は剣を構える。逃げ出すわけにもいかなそうだ。観念した僕も剣を引き抜いた。
「
そう言って、彼は老体とは思えない動きのその体で細い長剣を僕に振り下ろしたのだった──。
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