第28話 死にたい私と文化祭②

「ほんっとうにごめんなさい!」

「も、もう許してるから。そんなに謝らなくてもいいって」


 クラスの演劇である『青い鳥』が終了して数分、戻ってきたしずくちゃんに頭を下げていた。


「ほら、顔を上げて。あたしそんな怒ってないし」

「でも、約束破っちゃって……。せっかくのしずくちゃんの晴れ舞台が……」

「席が空いてなくて見れなかったんでしょ? 仕方ないって。それに明日だってあるんだから」

「だけど、私が早めの時間に入ってたら防げたことだし」

「もしなんて挙げたらキリがないって。それに、周りの注目も集めちゃってるからもうやめて……」


 顔を上げて周囲を確認する。私と目の合った人は次々と顔を逸らし、やっと状況を理解した。一瞬にして罪悪感が羞恥心に変換される。謝ることに必死で全然周りを見ていなかった。


 もう恥ずかしすぎて死ねる。いや、いっそのこと死にたい。


「ほら、だから行くよ!」

「え? ちょっと⁉」


 しずくちゃんが私の手を取ったかと思うと走り出す。現役陸上部のスピードに付いていけず、私は引っ張られるような形になった。まるで走っている飼い犬と飼い主みたいな絵面だ。そう思うだけでクスッと笑えてしまう。


「はぁはぁはぁ、取り敢えずここで休憩しようか」


 しずくちゃんが止まったのは相原あいはらくんのクラスの前だった。お見舞いのときに話していた時間なら、相原あいはらくんがシフトに回っているはずだ。


「いらっしゃいませ! 二名様ですか?」

「そうだけど、響也きょうやいるかな? よければ彼に接客してほしくて」

「え? あ、はい。いますよ。少々お待ちください」


 相原あいはらくんの名前を聞いただけで驚く男子生徒。彼は後片付けをしている相原あいはらくんに近付くと、その用意を持って奥へ向かった。


「なんだ、二人とも来てくれたのか」

「当然じゃん。文化祭を逃したら響也きょうやをパシれる日が次にいつ来るか……」

「そんなことだろうと思ったよ。ほら、席はこっちだ」

「こっち……だ? それがお客様にする言葉なのぉ〜?」

「……コチラニナリマス」

「いしし」


 しずくちゃんが軽く相原あいはらくんをからかって席に座る。私も座ると机に置いてあるメニュー表を手に取った。


「思ってたよりあるね。昼食も食べれるし、スイーツもある」

「あたしはカレー! 大盛りでお願い」

「わ、私も。普通のでお願いします」

「分かりました。それとしずく、先に言っとくけど大盛りはない」

「ケチ」


 しずくちゃんの言葉に反応せず相原あいはらくんが奥に引っ込んでしまう。


「それにしても大盛りなんて食べれるの?」

「あたしたちは成長期なんだから! たっくさん食べないと」


 えっへんと胸を張ってくる。低い身長で尚且つあまり膨らみを感じない胸を見ると……神は残酷と思えてきた。


 それだけ食べている栄養分はどこに行ってるのだろうか。謎である。


「何その目……大盛りぐらい食べれるよ!」

「うん、そうだよね」


 言えない……身長や胸を見てたなんて言えない。しずくちゃんの成長期はまだなんだ、三年生になれば成長する。そう思っておこう。


「お待たせしました」

「あ、ありがとう」

「待ってました!」


 丁度いいタイミングで相原あいはらくんがカレーとお水を持ってきた。私たちの前に置くとすぐに戻ってしまう。


 お昼時になったせいか店内の客は多かった。相原あいはらくんは大変な時間帯のシフトに入ってしまったようだ。


「んー……レトルト感がすごい」

「そりゃあ文化祭だからレトルトだよ。万が一食中毒になったら困るし」


 一口食べる。私もしずくちゃんの言っていた通りの感想だった。具材が大きいところからレトルトで間違いないだろう。


 美味しいけど、物足りなさを感じる。今日の夜は久々にカレー作ろうかな。

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