第5話

「こら、蝶子、じっとしていなさいな」

 娘が、孫の髪を結うのに苦戦している。今日は七五三だ。

「どれ、儂がやってやろう」

 娘に代わり、手早く髪をまとめあげると、娘は感嘆の声を上げた。

「まアお父さん、すごい!お父さんが髪結いだったって話は、本当なのねえ」

「何言ってんだい。お前が小さい時も、よく結ってやったじゃねえか」

「全く覚えてないわ」

「そうかよ」

 孫が顔を仰け反らせて俺を見る。

「じいじ、ありがとう」

「よかったわね」

「ちょうちょみたい!」

「横兵庫風にしたよ。何故かってえと、昔、揚羽花魁っていう良い女がいてなア……」

「また始まったわよ」

 娘が辟易の体でやれやれと首を振る。鬱陶しがられようとも、俺は何度だって彼女の話をするのだ。

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