第2話
「なんでェ太助、また黄昏てやがんのか」
はっとして振り返ると、大家が立っていた。
「いや、別に」
「誤魔化さなくても。恋煩いか?いいねえ」
違うと言うよりも先に、「ほらよ」と小さな包みを渡される。
「それを好い子と一緒に飲めば、身体も心も温まって、万事うまくいくってもんよ」
大家はしたり顔で頷いている。
「……どうも」
礼を言って、背を向けた。
包みからは、微かに橘の匂いがする。
思うともなしに浮かぶのは、先日身請けした遊女のことだ。廻りの遊郭に行ってももう会えないとわかっているのに、この包みを少し分けてやったらどんな顔をするだろう、何と言うのだろう、そんなことばかりを考える。きっとあの人は、「まア、前に言っていた橘のお茶かい?」と高い声で言い、包みを開いて「いい匂い」と笑う。まだ若い娘のような目をして。
家に帰って、茶を煎じた。ほのかに橘の香がした。
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