1-3 怪物メンバーの登場①

11,マッチョな人間の遠吠え

 驚きと恐怖との中に駆けだす、俺。サイレンヘッドがいるし、箱の中には、生首

だけの腹話術人形が独りでしゃべってる。

「どうしたんだ。浮かない顔して」

「そんなこと言われても・・・」

ニコラスが声をかけてきたけど、上手く返すことができない。だって、サイレン

ヘッドと会話してるんだもの。それで悩んでるっていうのに、そのサイレンヘッドに

励まそうと思われて声をかけられると、もっと複雑な心境になっちまう。

名づけようもない様々な感情は、居場所を見つけられず、ただただ脳みそをフラフラ

歩き回っている。

そして、もう1つ疑問がある。サイレンヘッドと喋る腹話術人形。それなら、

オリバーは何なのだろう。オリバーには、怪物らしいところは今のところ

見当たらない。ピエロの都市伝説なんか、俺は知らない。バラエティー番組で

下水道から出てくる怪ピエロというものを見たことがあるのだが、オリバーが

そうなのだろうか?

「元気出せよ。今日から君は僕らの仲間なんだよ」

「うん・・・えっ?!」

「どうしたの」

「仲間になってたのかよ?!そんなの聞いてないぞ!!」

「オリバーから聞いてなかったのかい?」

「ああ」

「そうか。まあ、これから僕らの仲間ね」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「それじゃあ、衆参両院で可決じゃぁ」

「冗談はほどほどにして、ミッシェルじっちゃん」

「『じっちゃん』とは何じゃ?」

ミッシェルが不機嫌にしわを寄せる。

「プッ」

「ハハハハハ」

そのミッシェルの顔が面白くて、俺とニコラスは笑みを浮かべた。サイレンヘッド

なのにえくぼがある、ニコラスを俺は少しかわいく思えた。


 午後になると、新しいメンバーが入ってきてしまった。

俺は、一見ただの人間だと思ったんだが・・・。

何があったかというと、まず、テントで俺が昼寝してた時に、マッチョな人間が

入ってきた。

「どなたさまですか?」

「俺はこのテントの住居者だ」

「はぁ」

「お前が新しく入居したと聞いてあいさつに来たのさ」

「そうなんですか」

「よろしくな」

というわけで、人間が入ってきたことに嬉しくって、自分から握手を求めた。

マッチョは俺の手を固く握ってくれた。

というのが、ここまでのいきさつだ。


その夜——

今日は夜にキャンプファイアーでフランクフルトを焼いて食べた。そして、トイレに行ってから、就寝しようとテントに寝たとき、事件は起こった。

「ウォーン」

トンネルの中に風が吹いているような音が鼓膜に響く。何の音、いや声かはすぐに

分かった。

「オオカミの遠吠えだ・・・」

一度、学校で「ニホンオオカミ」の授業で「タイリクオオカミ」の声を聞いたこと

がある。ニコラスの時とはまた違う恐怖を覚えた。

外に出ると、がれきのはるかかなた、澄んだ夜空に満月が浮かんでいる。その満月

に向かって吠えているのは、さっきのマッチョ。でも、頭が違う。普通の人間の

ような頭がオオカミの頭になっている。そう、マッチョは「人狼」なのだ。

「おう、起きたか」

「あ・・・・・い・・・・・・・・・」

俺は、この2日何番目くらいの恐怖。プリンのようにブルブル震えている。

「俺の名前は、アレキサンダー。プロレスとボクシングと柔道と空手と相撲の

実力者だ。お前はどうだ?」

「ええっと・・・柔道と相撲レスリングはやったことあります」

「そうか、また今度対戦しようぜ」

「場所がないじゃな・・・」

「ある。購入してあるからな」

用意周到な男だ。さっきまでの震えは嘘のように止まった。俺はアレキサンダーに

好感を抱いた。格闘技ではまず勝てないだろうが・・・。

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