第220話 いつまでも子供じゃ
自己紹介は筒がなく進行していく。
まず、キリルの私兵でネオインと自己紹介が続き、ダリルやダンベ、ジゲンも自己紹介を済ませ、最後に玄武騎士団団長であるゼワンの後ろ控える男が一歩前にでる。
「玄武騎士団、副団長であるノーチラス・レインフォースだ。宜しく頼む」
その紹介にダリルは少し思考した後声を上げる。
「レインフォースってセシル大隊長と同じ」
「......父だ」
「ええ!」
ダリルよりもミシェルが驚く。
「くく、嬢ちゃんいい反応だ!どうだ?今夜一杯」
「父様?それは私がここにいてしていいジョークではありません。後で母様に報告します」
「ま、まて!冗談だとわかっているならする必要はないだろ!」
「いいえ、おそらくいつもの癖で出たのでしょう。これは報告です」
「待ってくれセシルちゃん!」
「セシル......ちゃん?」
ノーチラスにそう呼ばれてセシルが顔を真っ赤にする。
「外ではその呼び方はしないと約束でしょう!!」
「はぁ、何でこうも最近セシルちゃんといい、クレアちゃんといい、お父さんに当たりが強い気がするよ」
「それは父様がクレアの連れてきた殿方にあんな態度を取るからでは?」
「......だって、ムカついたんだもん」
「いい歳して、なにが、だもんですか!」
「まだセシルちゃんもクレアちゃんも嫁に行かせる気は毛頭ない!!」
ノーチラスはジゲンとそう年齢が変わらないようにダリルには見えた。
ジゲンは年相応に渋みがあり、若い世代からおじ様などと陰で呼ばれていることは知っているが、ノーチラスは確かに美丈夫であり、ミステリアスな風貌をしてはいるものの、何処か遊び人と言うふうに見える。
そして口を開けばなんというか、残念だった。
「まぁまぁ、親子喧嘩はそれくらいにしましょう。先輩も久しぶりに娘さんに会えたからと揶揄い過ぎですよ?」
「そうだな、これ以上揶揄って本当にあれの耳に入ったら......まぁ控えめに言って死ぬしな」
セシルはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。ダリルはセシルの家庭環境について知ることはなかったので、これ以上深入りするのはやめようと、話を逸らした。
「それにしても、場違い感がすごいな」
ダリルは適当に思った事を言ったが、すぐ隣にいたミシェルが同意を示す。
「本当だよ。私たちここにいていいのかな」
「そんなことはないさ」
そんな二人の背後から自分たちよりも若い声に体を硬くさせる。二人は壊れたロボットのように振り返ると、そこにはロイが立っていた。
ダリルとミシェルは騎士としての礼儀しか知らないため、合ってるかもわからないが、ひとまず跪く。
「おいおい、そんな畏まらなくていいって」
「ロイ、それは無理だろう。君は一応僕らの御旗でもあるわけだし、何より君は王族だ。彼等が畏まらず堂々としていたら、そもそも騎士団じゃやっていけないしね」
ロイを諌めたのはロイの少し後ろにいる知的な青年だった。
「そういうものか。まぁわかったからせめて顔はあげてくれ。それじゃ話もできん」
ダリルとミシェルは言われた通り顔を上げる。最初にロイの顔を見た後、その後ろにいる青年に視線が移る。
「おっと、僕の自己紹介がまだだったね。僕はエルフリーデン・オルガ。彼の乳兄弟であり、友人だね」
「オルガ......って」
「ああ、一応侯爵家だね」
ダリルとミシェルはなんのことはないと言うエルとは正反対に顔を少し青ざめて、また頭を下げてしまう。
そんな二人を見てロイはため息を吐く。
「おいおい、なんでそうも畏まる?ガオンはここまでではなかったぞ?」
「そ、そら殿下、ガオンと比べられちゃ敵いません。あいつは殿下と何度も顔を合わせてますが、おれじゃなくて、私たちはあの日以来なんですから!」
「ミシェルもか?」
「は、はい」
「なんだ、姉上とはよく楽しそうに話をしているように思えたが?」
「その、姫さまとは直属の上司と部下と言う間柄でしたので」
「そう言うものか」
ロイはダリルたちの反応を見て、こればかりは時間が必要なのかと割り切ると、笑顔を浮かべる。
「まぁいい、今日は急な招集すまなかったな」
ロイそこまで言って他の参加者達にも目を向ける。
「皆も、すまなかった。私が無理を言ってキリルに集めてもらったわけだが、この後幾つか諸用が残っていてな。もう行かねばならん。また近いうちにこちらの陣営を集結させると思うが、その時にまた語らおう」
そう締めくくると、ダリルたち以外の参加者も礼をロイに返して、ロイが頷きエルを伴って部屋から退室していく。
ダリルはロイが部屋から出て行くと、ホッと胸を撫で下ろすのだった。
ロイ達が出て行った会議室では重い空気が流れていた。
「ジゲンの坊主はどう思う」
「どうもこうも、うちの倅がロイストス殿下に着くと言った。ならわしは倅に着く」
「ほう、あの茨掻が大人になった者よ」
「ガキのままのそいつと一緒にすんな」
「そいつって、てめぇ俺のことか?」
「それ以外に誰がいる?」
「お前こそ、俺より若ぇくせに、一人称わしって、ぷぷぷ、カッコつけちゃって、あーおもしろ」
「殺す!」
「上等!」
「やめい!」
ジゲンとノーチラスがお互い鞘から剣を抜こうとしたところでゼワンが底冷えする声で二人を止める。
「ジゲン、これを煽るな。ぬしも年上ならそれ相応の態度でおれ」
「「......」」
二人は睨み合ったままジゲンは自分の席に、ノーチラスは前に出た一歩を下がって元の位置に戻る。
(セシルさんの親父と親方様ってめっちゃ仲わりい!)
ダリルは二人の覇気に体を硬直させながら心の中で叫ぶ。ミシェルに至っては今にも気絶しそうだった。
「ふぉふぉふぉ、すまんま若いの、此奴らは顔を合わすといつもこうでな」
「い、いえ」
代表してダンベが問題ないと返すが、ダンベにも今のは殆ど本気で抜く気だったと長年ジゲンの傍で見てきたからわかってしまっていた。
「さて、話を戻すか。キリル、ぬしはどう思う」
「......危うさはあります」
キリルは顎に手をやってそう言う。
「ですが、殿下の言う事も一理ある。この先、大陸を巻き込んだ今よりも酷い戦乱が来ると言うのは私も同意見ですし、そんな中、他の大陸からの侵略者なんてものが来れば、戦火が拡大するのは間違いないでしょう」
「違ぇよ、キリル。団長はそんなこと聞いてんじゃねーんだ。お前もわかってんだろ?」
ダリルはノーチラスの言葉を疑問に思うが、ジゲン、ゼワン、ノーチラス、キリル以外も同じような顔をしているので無言で話を聞く。
「今聞きてぇのは殿下の行く道の話だ」
「......」
「殿下は覇道をいくと言った。そいつは茨の道を裸足で歩くようなもんだ、血と恨みを背負って歩く道だ。生半可な道のりじゃねぇ」
「......分かっています。ですがそれも仕方ない事であると私は思います。殿下は情勢を正しく理解されています。この先王道で行くには時間がかかり過ぎる」
キリルはノーチラスではなくゼワンの顔を見て話す。ゼワンは瞳を閉じたまま動かない。
「......ジゲンの坊主が、倅に着くというのは分かった。だが、主自身の考えもあろう。聞かせてはくれぬか?」
「......俺達の時代はもう終わるってことだ。殿下の言う覇道と俺たちが思い描く覇道は似て非なる物かもしれない」
「......なぜそう思う」
「俺達の言う覇道をいく奴の目ってのは、もっと座ってるもんだ。殿下の目はそうじゃなかった」
「......現実を知らんだけかも知れぬぞ?」
「なら今回の戦争でわかるだろう。戦場がどう言う所で、自分の道がどう言うものなのかな」
「......待て、殿下が戦場にだと?」
ゼワンはここで今まで瞑っていた目を見開く。
キリルはジゲンの言葉に片手で顔面を覆う。
「ん?聞いてなかったのか?」
「聞いていない。ノーチラス」
「俺も初耳だぜ」
ノーチラスはキリルに目を向ける。
「どう言うことか全部吐けよキリル。そっちの方が後々楽だぞ?」
「うう」
「殿下に黙っとけって言われたんだろ?聞けば団長がうるせぇから」
「キリル」
ゼワンに睨まれてキリルはとうとう両手を上げてしまう。
「言います、言いますからそんなに睨まないでください」
キリルは降参すると、ため息を一つ吐いて話始める。
「今日の防衛会議において、学徒出兵の提案をドール殿下がしましたよね?」
「ああ、あのバカ王子にしては中々思い切った事を提案するなと俺は思った」
「あれは元々、ロイ殿下が考案された案でした」
「なに?」
「元々殿下が卒業された後、習わしとして戦場に出なくてはいけない。殿下はそれを共和国との戦争だと見据えていました。ですが、魔法の発現により情勢が大きく変化して殿下が卒業する前に戦争が勃発してしまうという流れになってしまった。だから殿下はこの案を私のところに持ってきました」
「学徒出兵......」
「ですが、その案は私の方で却下した筈でした。しかし」
「ドール殿下が提案したと」
「はい、恐らくはテングラムの差金でしょう」
「......殿下側から漏らしたという可能性は」
「......あります。殿下ではなく側近の彼ならやり兼ねないかと」
「エルフリーデンか」
「はい。結果としてその議案は通る形となりました。通った以上自分も参加すると言って聞かず」
「それを治めんのがお前の役目なんじゃねぇのか?」
「......返す言葉もありません」
「いいじゃねーか」
そこで話に入ったのはジゲンだった。
ジゲンは事前に今回の戦にロイが参戦すると言うことしか聞いておらず。その全容を今知ったのだが、口を挟むことにした。
「ここで死ぬんならそれまでだ。生きて帰っても自分の未来に何を見るかは己次第。いつまでも可愛い子供じゃ、夢見る子供じゃいられねーんだ」
「てめぇは黙ってろ。それを判断するのは団長だ」
ノーチラスの言葉に全員の視線がゼワンに集まる。
ゼワンは瞳を閉じて動かない。
ゼワンにとってロイは孫のように思っていた。
孫娘の婚約者でり、剣を教えたディノケイドの息子だ。小さな頃から本当に可愛がっていた。最近ではロイも学園に入学し、あまり会っていなかったが、どうだろう?いつまでも可愛い子供ではないと言うジゲンの言葉に、ストンと胸の内の何かが落ちる。
「その通りじゃな」
ゼワンはそう呟くと瞳を開ける。
「わしは何も聞かなかった。キリル」
「はい」
「殿下にお伝えしなさい」
「はい」
「......もう一度チャンスをあげましょう。しっかりと顔を突き合わせて言いにきなさいと」
キリルは後にこの時のゼワンをこう言っている。
自分は武人ではないから殺気というものを知らなかったが、もしかしたらあの時のあれがそうだったのではと。
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