第218話 ドールの一案
「ドール、貴様を会議に立ち会う事は許したが、発言を許した覚えはない」
「落ち着いてください父上。私も国家存亡の危機とあれば、王家の一員として一つ案がございます」
「聞く気はない。座れ」
「陛下、聞いてみるのは如何でしょうか?」
聞く気はないと一蹴したディノケイドを止めたのは朱雀騎士団団長であるレオン・テングラムだ。
テングラムは侯爵家、ディノケイドも無下にする事は出来ずにレオンを睨みつける。
ロイは立ち上がったドールを見つめて内心呟く。
(ほう?)
「いいだろう。ドール話してみよ」
「ありがとうございます!では現状の確認から宜しいでしょうか?私は未だ学生の身、もし間違いが御座いましたら、訂正していただきたい」
なんとも自分勝手な物言いではあるが、テングラムが聞いてやれと言うなら他の貴族は止めることは出来ない。それが出来るのはこの場ではキリルとゲイツ、そしてディノケイドだけだ。デイナーは丞相の地位に着くにあたって侯爵家とは権限上なんの関わりもないと決められている。その中で誰も何も言わないので有れば、その他は黙るしかない。
「まず、此度の共和国に対しての出陣は白虎、玄武による共同戦線。帝国に対する牽制として青龍、国防として近衛である朱雀。と言う事でお間違い無いでしょうか?」
「......そうだ」
「ありがとうございます。では白虎騎士団副団長であるヴァーチャス殿にご質問です」
「なんでしょうドール殿下」
「前線の戦力をどう見ますか?」
「そうですな......確かに玄武騎士団は我が国において最古の騎士団にして鉄壁の騎士団と言えるでしょう。玄武騎士団団長のゼワン殿の武勇もさる事ながら、団員の教育も行き届いておられる......ですが、それは防衛をすると成ればの話。事攻めにと言う話であれば玄武騎士団の方々は経験不足と言えるでしょうな」
にやけ顔でそう言うヴァーチャスにゼワンが笑顔で問う。
「ふぉふぉふぉ、ヴァーチャス殿、それはわし等を侮っていらっしゃるのかね?」
「いえいえ!そうではありません!ですが玄武が最前線に出るのはゼワン殿が団長に成られてから一度しかないのも事実。であるなら私の懸念もどうかわかって頂きたい。それに二つの騎士団がと言うふうにしてしまうと、先の戦争のように勝手な行動を取る輩も出てきますでしょう」
ヴァーチャスはジゲンに横目を向けてそう言う。
「なるほど、では父上が言ったように攻めを白虎主軸とし、玄武が上手く機能しなかった場合どうなるでしょうか?」
「恐らく、戦線は崩壊しますな」
戯けるようにそう言うヴァーチャスの態度に玄武の団員たちは苛立ちを募らせる。
「なるほどなるほど、であるなら経験値的にも攻めいるタイミングは白虎のみにお願いすると言うのはどうでしょうか?」
「な!?おまち」
「なるほど!それは名案ですな!」
ドールの意見にラージャンが異を唱えようとしたが、ヴァーチャスがそれに被せる形で賛成する。
ヴァーチャスはラージャンを横目でチラリと見て、今しがた晴れ晴れとさせていた表情をゲンナリとさせる。
「ああ!ですが申し訳ありません殿下、殿下のご期待には応えたく思いますが、やはり難しいでしょう」
「何故だ?」
「ラージャン団長の反応を見れば分かることです」
「ほう、ラージャン、意見があるなら言ってくれ」
ヴァーチャスは明らかにわざと話を振るよう仕向けた事はラージャンもわかったが、言うしかないと出かかった言葉の続きを話す。
「戦力がありません。確かに先の戦争で我々は青龍よりも軽症で済んでおりますが、それでも一国と交戦するなれば我々の騎士団だけで攻勢に出るのは不可能かと」
「ふむ、確かに......ですがご安心ください。私の提案はその問題を解決するに足ると思いますので」
ラージャンは一瞬気落ちしたように顔を下げた後、笑顔で顔を上げたドールを見てやっと理解する。
(ここまでが筋書きか......)
「戦力がなく、攻勢に出ることすら怪しい白虎、玄武の力添えがあったとしても上手く機能するか怪しい現状、であるなら新しく従順で武力を有する且つ、柔軟に対応できる戦力を白虎に入れると言うのはどうでしょうか?」
「新しい戦力だと?」
「はい、学生ですよ」
ドールの提案にこれまで一番の騒つきが生じる。
「学生だと?」
一番にドールにそう言ったのはジゲンだった。
「ええ、確かに召集兵はいるでしょうが、あんな物は捨て兵、精々前線で少しの壁になる程度でしょう。ですが幾つか点在する王立の学徒を徴集すれば、彼らにはある程度の武術の嗜みがあります。それならば肉壁以上の活躍は出来るでしょう」
「っ!馬鹿な事を!」
セシルはドールの話を聞いて聞こえないように吐き捨てるが、その場にいる殆どがドールも意見に否定的だった。
「でも、学徒はまだ成人もしていない」
「ああ、子供戦場に出すわけには」
ざわざわとそう言い合う武官文官貴族たちにドールは声のボリュームを一段上げて注目を集める。
「では!貴族の子息に於いては出兵を自由意志とする。と言うのはどうでしょうか?平民の子供など後からいくらでも補充は効きますが......貴族の子供は違いますから」
笑顔のドールがそう提案するとその場の風向きが変わる。自分の子供を戦場に行かせなくていいと言う選択肢ができた瞬間から貴族の殆どがドールの話を前向きに考え始めたのだ。
「確かに自由参加であれば」
「ああ、平民出の者も武功を立てる大きなチャンスとなるだろうしな」
武功を立てるチャンスなどと言ってはいるが、単純に自分の子供を戦場に出したくないだけだった貴族が大半で、それが自由意志となるならば、強固な反対はしない。
セシルはドールの言葉で一瞬で手の平を返した周りの貴族に、顔を思い切り顰める。
「わしは反対だ」
その流れを切ったのはジゲンだ。ジゲンがそう言うとそれに続く者も現れる。
「私も反対だね」
それは侯爵家の一つである、キリルだ。
「私は賛成です」
それに対抗するように、これも侯爵家が一つ、バスター家当主、ゲイツが賛成をする。
それを見てレオンが黙ったままのディノケイドに提案をする。
「陛下、殿下の提案に我々の意見は別れております。確かに常時で有れば戦に子供を向かわせる事は避けたいと私も思いますが、此度の戦は国家存亡の危機、成れば殿下の提案も一考の余地があるものだと思います。どうでしょうか?ここは多数決による決議を致すと言うのは」
レオンのその問いにディノケイドはここまでがレオンの考えたシナリオである事がわかったが、ディノケイドは数秒の沈黙の後、素直に頷く。
「よかろう。ドールの意見に賛成の者は手を挙げろ」
ディノケイドの問いに対して、明らかに過半数以上の手が上がる。
「......宜しい。ならば今一度練り直す必要はあれど、その提案を受理する」
「ありがとうございます!」
「一ついいでしょうか?」
そこで手を挙げたのはキリルだった。
「許可する」
「ありがとうございます。話し合いの結果決まった事に口を出す気はありません。ですが、発案者であるドール殿下は発案者としての義務が生じると考えますが、どうでしょうか?」
「義務だと?」
ドールはキリルの発言に眉を寄せる。
「はい、殿下が発案し、人民を戦場に駆り出すのです。その義務とは殿下自身が戦場に赴き、先陣を切るが通りかと」
「何を言っている!キリル不敬だぞ!殿下はこの国の未来そのものである!それを戦場になどと!」
「などとは言うがねゲイツ、王族はいつの時代も戦場には立つものだ。ディノケイド様然り、その父君である、オアディス様然り、建国時からの戦王としての習わしだ、例外はない」
「殿下はまだ成人しておられない!」
「そう言う話ではない。殿下は学生を戦場に出すと言っている。つまり自分の先人を切って戦うとそうおっしゃているのだろう?」
「な、なにを」
今まで流暢に話していたドールが、額に汗をかいて吃る。
「学生を戦場に出すならば、殿下も戦場で武を示すべきだ」
「殿下と平民の命が当価値な訳があるか!」
「そんな話はしていないよ」
「二人とも黙れ」
言い合いになったキリルとゲイツをディノケイドが一喝して黙らせる。
「その件についても後に詰める。今この場で言い争う事は時間の無駄と知れ」
「「申し訳ありません」」
二人は頭を下げて椅子に座ると、その場は静寂が支配する。
「では、出兵の関しては後に詰めるとし、今は陣形、補給線の話し合いに移る」
ディノケイドはそう言うと、話を再開する。
「では、本日は以上とする。皆ご苦労であった」
陣形や補給戦の話し合いを終え、ディノケイドはそう言って立ち上がると、デイナーを連れて部屋から退室していく。
残された貴族は思い思いに席を立って出て行く者。仲のいい貴族の元に行って今あった話し合いのことを話す者。と別れていく。
ジゲンは席に座ったまま手を組んでいると、後ろから声を掛けられる。
「荒れましたな」
「まぁな」
ジゲンはダンベにそう返すと立ち上がり、ヴァーチャスのことで苛立っているセシルとフォダムの頭に手を載せると、三人を伴って部屋から退室する。
退室した先には壁に背を預けるキリルを発見し、キリルも同じタイミングでジゲンに目をやり片手を上げる。
「お疲れさん」
「お前もな」
「どうだ?この後」
「いつもの場所か?」
「今日は私の家だ。五日前に帰って来たものの仕事漬けでな、妻達の顔を見ていない」
「わかった......こいつ等もいいか」
ジゲンは後ろにいる三人を親指で指し示してそう言うと、キリルは少し悩んで問う。
「私は構わないが、大丈夫なのか?」
「もう動き出した。こいつ等は一蓮托生になる」
「そうか。わかった」
キリルはそう言って頷くと、壁から背を離して手をひらひらとふり去っていく。
「お前ら、支度をしたらわしの屋敷に来い」
ジゲンは置いてけぼりの三人にそれだけ言うと、その場を後にするのだった。
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