第217話 防衛会議

 ベータル王国の中心地にある、王都、その中央に聳え立つラーグザル城の中、防国特殊戦術室にてベータル王国の武官文官が勢揃いしていた。

 国王である、ディノケイドも当然その場に居たが、ディノケイドの後ろにはロイとドールがいる事にその場に来た貴族達は少し訝しんだ。

 ロイとドールはまだ成人前の子供だ。それを戦争について語るこの場に同席させる事は珍しいからだ。

 ロイに関しては来年成人と言うこともあって少し早いがこの先の大戦を考えれば経験を積ませると言う意味で理解はできるが、ドールはその限りではなかった。

 全員が集まったのを確認してディノケイドが口を開く。


「皆、忙しい中集まってくれたこと感謝する。今日集まって貰ったのは他でも無い、皆知っていると思うが我が国と共和国との緊張状態はここ二ヶ月で高まり続けていた。だが、今日明朝、等々共和国からの宣戦布告を書状にて受け取った」


 ディノケイドの話にその場が騒つく。

 ディノケイドはそれを手で制すると話を再開する。


「此度の戦は避けては通れぬだろう。共和国はここ数年表立った大きな戦はしていない。練度では我が国の兵が負けることなどあり得ないと考えるが、我が国は数年前に大戦を経て疲弊していると言う事実から目を背けてはいけないだろう。逆に共和国は無傷の兵力を持って仕掛けて来る。つまりこの戦もまた苦しい物になる事は間違いない。そこで防衛のために皆に集まって貰った次第だ。具体的には前線に出る騎士団の決定と陣形などの戦術面だ」


「もう決めていらっしゃるのでしょうか?」


「ああ、この戦、前線を任せたいと思っているのは......ラージャン、お前に任せたい」


「......」


 ディノケイドは白虎騎士団団長であるラージャンと視線を合わせてそう言った。


「お待ちください陛下!」


 ラージャンとディノケイドが見つめ合う中に割って入ったのは白虎騎士団副団長であるヴァーチェスだった。


「我々白虎騎士団はタイラン防衛戦でも前線にて戦いました!まだ傷の癒えぬ現状では些か不安が残ると愚考致します!」


「......ほう、どう思うラージャン」


「......現状野戦を戦える騎士団は白虎の他に青龍しか存在しません。先の戦にて白虎よりも痛手を負った青龍では前線を支えることは不可能かと」


「なっ!?」


 自分の思った通りの発言をラージャンがしないことにヴァーチェスは顎についた肉を震わせて驚く。

 今日この日、この瞬間まで白虎騎士団で発言権を強めてきたヴァーチェスにラージャンが異を唱えることはなかった。そのためラージャンの行動に驚いたのだ。


「私も同意見だ。ヴァーチェスはどう思う」


「え?いや、その、確かに冷静に状況を見てみればそうかも知れません......で、ですが!それで有れば以前のように二つの騎士団での出陣というのは如何でしょうか?確かに青龍は兵の補充もまだ十分に行えては居ませんが、それは白虎も同じこと!であるならまた共同戦線を張るのが確実な勝利を勝ち取ると思います!」


「それは出来ん」


「な、何故でしょうか?」


「それについてはキリルから話がある。頼む」


「っは!」


 ディノケイドに話を振られてキリルが立ち上がり、一礼する。


「それでは私から、何故二つの騎士団を戦線に投入できないかについてお話します。何故白虎のみが陛下に前線の任を任せたのか、それは一重に帝国の存在です」


「帝国?」


「はい。私は五日前まで帝国との国境であるタイランにおり、帝国との不可侵条約終了後の話し合いを先の戦争以降ずっと行っておりましたが、ちょうど五日前、帝国は以前結んだ不可侵条約以外の全ての交渉を一方的に打ち切りました」


「なに!?」


 キリルの話にヴァーチェス以外の武官文官も驚きを隠せず、騒つく。


「これは何かあると密偵を送った所、帝国と共和国は繋がっている事が明らかになりました」


 元々帝国と共和国はベータルを欲する二国として裏で繋がっていることはこの場にいる全員が知っていた。けれど先の戦争での痛手を一番受けたのは青龍よりも帝国側なのだ。


「待たれよ、キリル殿、ならば帝国も同じタイミングで仕掛けてくると?」


「いいえ、恐らく様子見だと思われます。戦況が此方に傾けば帝国は仕掛けてくることはないでしょう。ですが少しでも彼方に傾けば......保証はできません」


 キリルの答えに全員が黙る中、ヴァーチェスだけが閃いたと顔を上げる。


「ならば、やはり二つの騎士団を前線に送るべきです!前線が崩壊することが許されないので有れば確実に勝つために二つの騎士団が必要です!」


 その場にいる何人かはヴァーチェスの話に納得する。確かに二つの騎士団により迅速に前線が片付けば帝国も入る隙が無いのではないかと考えての物だった。


「それはできない」


 そこで割って入ったのは青龍騎士団団長であるジゲンだった。


「なに?」


 ヴァーチェスは気分を害されたという事を隠そうともせず顔を顰めてジゲンを見る。


「青龍騎士団に前線を戦う力は現状ない」


「貴様、臆したか?」


「そうではない。事実としてわし等は前線で戦えるほどの戦力を回復できていないと言っているんだ」


「ふん、成り上がり風情が、長が臆病者なら、隊は軟弱者か」


 ヴァーチャスの発言にジゲンの後ろに控えるセシルとフォダムが立ち上がる。

 それをジゲンは手で制す。


「なんと言われようが構わんが、わしは事実を言ったまでだ。王命があれば動くがそうでないので有れば前線へはでない」


 ジゲンの言葉にその場の全員の視線がディノケイドに向く。


「......此度は青龍を残す。前線を白虎に、補佐を......玄武に任せる」


「わし等はですか?」


 ディノケイドから急に話のでた玄武騎士団団長であるゼワンが聞き返す。


「お待ちください陛下!玄武は国防の要!前線に出すと言うのは」


「ナヒノーリアを共和国に渡すわけにはいかんのだよ」


 その言葉で全ての貴族が目を見開く。


「カミトールの大虐殺ですな」


 ゼワンが尚も言い募ろうとするヴァーチェスを遮ってディノケイドに確認を取るとディノケイドは頷く。


「そうだ。此度の戦、前線を勝ち切る事は確かに重要事項ではあるが、なによりもナヒノーリアが落とされることだけは何がなんでも避けねばならん!現状我が国で白虎と青龍は一番の攻撃力を持つ事は私も知っているが、今回は攻守を上手く使う戦となろう。ならば攻めを白虎に守りを玄武に任せると言うのが私の出した結論だ」


「......」


「頼めるかゼワン」


「......謹んでお受けいたします」


「皆特に何もなければ決定と言うことになります」


 そこで初めて口を開いのは丞相であるデイナーだった。

 デイナーの問いに誰も何も言えず黙っているのを見て、デイナーは宣言をする。

 ヴァーチェスもこれ以上ディノケイドに反論する事は愚策だと口を紡ぐ。


「では、共和国との戦、迎えるはヒナノーリア北方、カミナリ平原にて、白虎全兵並びに玄武補助兵を伴い出陣とする。いいですかな、陛下」


「お待ちください」


 会議は決まりかけたと思われた時、デイナーの宣言に待ったをかけた者に注目が集まる。

 その場の全ての視線を受けて、ドールが立ち上がるのだった。

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