第204話 代わり行く情勢
ロイは城に着くなり出迎えに来たメイドにすぐにディノケイドとの面会を取り付けるよう言い、そのまま執務室に通される。
「失礼します」
ロイが執務室に入ると、ディノケイドは一枚の資料に目を通しながらロイを一瞥した。
「父上、急な面会申し訳ありません」
「ロイ、今は二人だけだそこまで畏まる必要もなかろう」
「......それもそうか、ジンからの報告があり、その件で」
「今しがた私も見た」
ディノケイドは手に持った紙を少し揺らした後それを机に落とす。
「厄介なことになったな」
「ええ、正直なところどこまでの脅威があると思いますか?」
「全く先が見えん。が恐らくここから先の戦争は今までよりも酷いものになる事はわかる」
「俺も同意見です。しかも共和国の手も早まるでしょうね」
「だろうな」
帝国を中心に大陸の西側にあるチャールズ共和国とベータル王国の戦争の歴史は永い。
それこそ、帝国よりもベータルにとっての仮想敵国はいつもチャールズ共和国なのだ。
「術師は入れてくるでしょうか?」
「無くはないが、腐っても共和国だ。時間は稼げるだろう。その前に仕掛けてくる可能性の方が高い」
「......確かにその通りですね。ですが、俺が心配してるのは、卒業前に戦争になれば俺に指揮権が与えられないことです」
「......それはそうだろうな。お前が学園を卒業した後ならいざ知らず、まだ学生の身で有れば戦争への同行は認められるだろうが、指揮権などは与えられないだろうな」
「......」
ロイもディノケイドが言っている事が正しいことは理解しているが、こうなってくるとロイの描いていた未来は塵と化しっと言ってもいい。
冷静に考えれば、回復魔法が世に出た時点でロイがそれまで見ていた未来は180度、それ以上にひっくり返ってしまったのだ。
「......仕方がないな。父上の読みでは共和国はいつ仕掛けてくると思う?」
「回復魔法の存在に気づき、早ければ兵隊が揃い次第だろう。三、四ヶ月というとこか、遅くて冬の終わり頃だな」
この時代、冬の戦争は想像を絶する修羅場だ。だが、それでも共和国は仕掛けてくるだろう。それだけ回復魔法の存在は世界のあり方を変えるからだ。
回復魔法を一番最初に実用化するのは恐らくホイル王国。それが他国の総意だがディノケイドの読みは違う。恐らく一番最初に物にするのは帝国だろう。そうなれば帝国が一番初めに狙うのはベータルだ。そしてベータルが回復魔法を実現出来なかった場合。恐らくベータルは消耗戦で負ける。
そのことに共和国が気が付けば、共和国は恐らく何ふり構わずベータルに宣戦布告してくるだろう。それだけ共和国はベータルに執着しているのだ。
「回復魔法が実用化されるのはまだ先だろうが、確実に訪れる最悪だ。報告通り人の命を対価とするならば、我が国でそれを行うのは至難だろうな」
「だが、行わなければ我々は戦争の技術的観点で相当な遅れ、不利を背負うでしょうね」
「......こちらでも手を打つ」
「お願いします。私は一つ心当たりを当たってみます」
「あるのか?心当たりが」
「唯一、一人だけ。ですが技術開示がない状態ですとなんとも言えません。はっきり言って存在する技術ではありますが、雲を掴むようなものでしょうね」
「......わかった。ヴァーレンハイトとはこちらで技術の開示を交渉しよう」
「お願いします」
ロイは踵を返すと、執務室から振り返る事なく後にした。
ロイが出ていくのを確認した後、ディノケイドは右手を上げる。その瞬間数人の黒装束がディノケイドの前に跪く。
「お呼びで」
「キリルにここまでの全てを伝えろ。それとデイナーにも同様だ。同時にここにくるよう伝えてくれ。あとは各団長、有力貴族にも追って伝えろ」
「......承知致しました」
「下がれ」
「陛下、大変申し訳ありません。不甲斐ない我々をどうかお許しください」
「構わん。今回の件はホイル王国を誉めざる終えまい。いや、ジョナサン・ジーゼウスをか。奴の偽装は完璧だったのだろうな」
ディノケイドの前に現れた黒装束の存在は『暗影』というベータルの暗部だ。
もちろん友好国であるホイルにも何人か忍ばせてはいる、これは国家間での暗黙の了解だろう。
その暗部が情報を持ってこれなかったことにディノケイドは特に落胆していなかった。
それよりもディノケイドの頭は共和国との戦争への対策にシフトチェンジしているのだった。
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