第203話 報告

 ロイは生徒会室で山のように積まれた報告書を前に机に突っ伏していた。


「ローイ、報告書が減ってないぞ?」


 机に突っ伏したままのロイの肩をエルが叩く。


「わかっている」


 ロイは少し不機嫌そうにそういうと机から体を引き剥がして頬杖をつく。


「だが、見てみろ?ここ最近同じような報告書ばかりだ、やれ隣国の貴族の態度がでかいだの、やれルールを変更すべきだの、端から端までそんな物ばかりだぞ?」


「仕方ないよ、それだけアッシュ君が規格外なんだから、みんな文句の一つも言いたくなるんでしょ。特に三年生は最後の晴れ舞台でもあるしね」


「レーダスめ、少しはこっちのことも考えるべきじゃないか?」


「それこそお門違いってやつなんじゃないかい?」


「エル、俺は正論など望んでいない」


「望んでなくてもそれを言うのが僕の仕事だからね。ほら、そんな顔しないで、手伝うからさっさと終わらそう」


「......すまん」


 ロイは一度息を短く吐いて気合いを入れ直すと、報告書に手を伸ばす。だが、手が報告書に触れる前にジンとエルの前に一人の男が天井から現れた。


「殿下」


「どうした、お前が降りてくるなんて大事か?」


「ジン・オオトリの使いだと言う者が近状を報告したいと」


「定期連絡ではなくか......話せ」


「それが、直接お話したいと譲らないため突き返そうと思ったのですが、これを」


「これは」

 

 ロイの暗部である男が出したのはジンの脇差しだった。それを見たロイはすぐにそれを受け取って立ち上がる。


「すぐに通せ」


 ジンがそれを渡すと言う事は命を預けられる人物だと言うことだ。ロイは暗部の男にそう言うと男はすぐに頭を下げてその場から掻き消えた。


「ジン君からかい?」


「ああ、どうやらそう見たいだな」


「話が一瞬で進んだけどそれのせいかな?」


「ああ」


 ロイは暗部の男から受け取った脇差を見て頷く。以前ジンと共にガクゼンの元で修行をした時に見せてもらった脇差だった。ジンはそれを命と等しい物だと言っていた。つまり、ジンは命を預けられる人間を寄越したという事だった。


「そうか、それで?なんでさっきの人は登場は天井からで退場はすごいスピードで消えたの?あんな暗部は初めて見たよ?」


「......しらん」


 ロイ達が待つ事数分、生徒会室の扉がノックされたので、ロイが答える。


「入れ」


 扉が開き入ってきたのは青龍の鎧をつけた男だった。


「お久しぶりです殿下」


「ガオンか、久しいな、早急の連絡とあったが」


「はい、その前にその脇差、お返し頂いてもよろしいでしょうか?」


「ん?ああ」


 ロイは特に気にせずガオンに脇差を渡すが、エルがそれに反応する。


「中々失礼な物言いだね?ロイとは顔見知りなのはわかったけど、一番最初にそれかい?」


「エル、気にするな」


「申し訳ありません。ですがこの脇差はこの命以上のものです。主人からこれを使ってもいいとは言われていますが、命に変えてもこの脇差を主人の元に戻さなければなりませんので」


 ガオンは至極真剣にそう言うと深く頭を下げる。エルはロイに対しての無礼ではなく、主人であるジンに対しての深い忠誠である事を理解して、ガオンに頭を上げるよう言う。


「エル、こいつのことはよく知ってる。大丈夫だ。こいつは俺に対してお前の考えているような感情は持っていない」


「そ、ごめんごめん。最近ちょっと僕もフラストレーションが溜まってたみたいだ。ガオン君だったかな?八つ当たりをしてごめんね」


「いえ、気にしておりません」


「少し脱線したな。報告を聞こう」


「はい。今回私が直接ここにきたのは、定期報告ともう一つ、魔法についての情報を主人より殿下に伝えるよう仰せつかったからです」


「ほう」


「まず報告ですが、日輪祭にて主人であるジン・オオトリ、同級生のイーサン・ウォレットが優勝致しました」


「待て待て待て、なんでそうなる?いつもならまだ予選の段階だろう?それも二人も優勝ってどう言うことだ?」


「今回、特例にて日輪祭は団体戦で行われ、期間も一週間と短い期間で行われました。そにため二週間に一度の定時報告ではお伝え出来ませんでした」


「なんでそんなことに」


「今からご説明致します」


 そこからはガオンはジンの影として見聞きしたことと、ジンから聞いた話をロイに全て話した。これはジンの言いつけで全て包み隠さず話せと事前に言われていたからだ。


「なるほどな、相変わらず好き勝手やってるみたいだな」


「いや驚いたよ。ジン君てばそんなに強いんだね」


「あれもアッシュ同様規格外ではあるからな。まぁ、それはいいとして」


 ロイはガオンと視線を合わせる。


「魔法について聞こうか」


 ガオンは無言で頷くと魔法の詳細について話始める。最初はロイもエルも冷静に聞いていたが、魔法を行使するための条件とそれが他国にダダ漏れであることを聞いて天を仰いだ。


「それが本当なら由々しき事態だね」


「笑えないな」


「主人の読みでは、次に帝国と戦になれば組織的な回復魔術師が介入してくるだろうと」


「......わかった。それについてはこっちで何とかしておくと伝えてくれ」


「さらに忙しくなるね」


「ああ、それにしてもジンは良くそこまで情報を集められたな」


 ジンはガオンに魔法が他国、主に帝国に漏れた原因をぼかして伝えてある。ただ魔法の情報が漏れていることは確実であると念を押した上でだ。


「信じてもいいんだよね?」


 エルの確認にガオンは無言で頷いた。

 ロイはゆっくりと立ち上がって窓際まで行き、窓の外を眺める。


「思ったよりも早く時代は動き出すかもな」


 そう言った後、ロイは振りかえると椅子に掛けてある上着を手荒に握ってはがすと、ガオンとエルを横切り、生徒会室のドアに手を掛け振り返る。


「ガオン報告は心得た。俺は父上と早急にその話を詰める、後から報告書を頼む」


「承知しました」


 ロイはガオンの了承を聞いて頷くとエルに目を向ける。


「エルすまんが火王祭の報告書のほうを任せていいか?」


「はぁ了解。しかたないね」


 ロイはエルの言葉に頷くと足早にディノケイドの元に向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る