第159話 予想外

 ジン達は二時間目はなんの授業かわからなかったが、とりあえず席に座ったまま休憩をとっていると、イーサンがジンのところにやってくる。


「トイレに行ってくる」


「おう」


 イーサンは満足そうに頷くと教室から出ていく。

 休憩に入ったのと同時に先程の少し重い空気が霧散していき少しもすれば喧騒を取り戻していた。

 それからわらわらとリナリーやノアの周りに男子女子が集まり始める。

 イーサンはトイレにいっていないので二人の周りに人だかりができる。

 ジンの周りには特に人だかりは出来ることはなく、これはベータルで感じる疎外感ではなく、単純にリナリーとノアのビジュアル面でジンよりも目を引くのは確かであったためジンも納得していた。

 ただ誰も来ないの事はやはり少し悲しくなってきた丁度その時、ジンの視界がホイル王立学園の制服に支配される。

 ジンはリナリーかノアに群がる生徒の輪からはみ出してしまった者かと思ったが、その人物はジンに正面を向いているようで動かないのでジンがゆっくり視線を上に持っていくと、その生徒は先程の雰囲気から何処かジンに敵対的な感情を持っていると思っていた、デディだった。


「少しいいか」


 デディは短くそう言うとジンの了承も得ずに教室の出入り口に歩いていく。

 ジンはデディの後ろ姿を見ながら、ため息が出てしまう。


「はぁ、またか?」


 そう呟くとジンは仕方がなく立ち上がり、デディの後を追う。そんなジンの姿をクラスの全員が見ていた。ジンが出ていった教室ではデディとジンが何を話すのか、その話題でリナリー達の元に集まった生徒もそうでない生徒も声を潜めて話始めるのだった。

 ジンはデディの後を追い、ただただ付いていくと、どんどん人気のないところに向かい、とうとう誰もいない廊下までやってきた。

 そこまで来るとデディが止まりジンの方へ振り返る。デディが止まったことでジンも足を止める。


「ここは職員以外ほとんど使わない階段の前で生徒の通りが少ない」


「な、なるほど?」


 急に場所の話をしたのでジンはとりあえず頷いておく。

 それからデディは少し間を置いてからジンに一歩近づいた。

 アーサーやドールの様な奴がいることを知っているジンは一応何があってもいいように身構える。

 だが、ジンの考えていたことにはならなかった。


「え?」


 ジンが間抜けな声を上げてしまうのも無理はなかった。何故ならデディはジンの前に一歩踏み出たあとジンに対して頭を下げたからだった。


「先程はすまなかった」


「えっと?」


「大変な無礼を働いた。どうか許してほしい」


 ジンは予想外の展開に動揺していると、頭を下げたままのデディは尚も口を動かす。


「それと昨日の事も許してほしい」


「昨日の?あ!」


 ジンは昨日、パーティでリナリー達が絡まれた男達の中にデディがいたことを思い出す。

 直接絡んできた男と、その男の腰巾着のような男が二人いたのだが、その片方がデディだったのだ。


「どうか謝罪を受け入れてほしい」


「あ、えっと頭を上げてくれるか?別に怒っちゃいないからさ」


「だが、不愉快にさせたことは間違いないだろう」


「わかった!受け入れる!受け入れるから頭を上げてくれ」


「そうか、ありがとう」


 そう言ってデディが頭を上げると、すぐにまた頭を下げる。


「それと、皆の前で堂々と謝れないことも大変申し訳ない」


「わかった!もう、いいから!そういうのはやめてくれって!」


 ジンは誰かからこうして面と向かって頭を下げられることに慣れていない。それも同世代からは特にだ。その結果ジンはデディの行動に動揺してしまうのだった。


「寛大な心、感謝する」


 デディは頭を上げるとジンはほっと胸を撫で下ろす。


「はぁ、まさか謝られるとは思ってもいなかった」


「未熟を恥じるばかりだ」


「いや、君の言っていた事はある意味では正しい。俺は俺の判断ミスで部下の大半を失った指揮官である事は間違いない」


「......」


 デディは暫く黙った後、自分の考えがまとめ終えると、口を開く。


「.......俺が聞いた話はどうやら偏っていると今日のことで認識した。君の周りの人間や、俺よりこの前の戦争に詳しいアーデウスの姫の反応を見ればわかる。首切りザンバを取ったという紛れもない事実もある。それに仮に貴殿が言う事が事実だったとしても、あの態度は貴殿に大変無礼であった事は変わらないからな」


「そ、そうか」


 ここまで聞き分けの良い人間をジンはベータル王立学園では見たことがなかったので、正直タジタジだった。


「では、話はそれだけだ。すまない初日から授業に遅刻させてしまって」


 ジンも気付いていたが、デディが誤ってきたあたりにチャイムが鳴っており二時間目が始まっていた。


「いや、気にすんな」


 ジンがそう言うと、少しの間が空いて、デディが歩き出す。来た時動揺ジンはデディの後をついて行こうとして、デディの足が止まったので、自然にジンの足も止まる。

 何故止まったのか分からず、ジンがデディを後ろから覗き込もうとするとデディは先程よりも、すごい勢いでジンへ振り向く。


「あの!」


「お、おう」


 デディを覗き込もうとしていたジンと急に振り返ったデディはこれまでにないほど顔が接近する。


「友達というものになって貰えないだろうか?」


「友達?」


 ジンは急な申し出に同じ言葉で聞き返してしまうのだった。

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