第157話 校長室
ジン達はホイル王立学園に到着していた。
制服は予め仕立てた物を提供と言う形で貰ったのだが、イーサンだけがサイズの合うものが無く、ズボンが少しパツンパツンだった。
「さてと、とりあえず校長室に行くんだったか?」
「はい」
ジン達が馬車から降りると、通学する生徒達の注目を集めた。四人のうち三人が見かけない美形なのだから当然と言えば当然だが、特に気にすることなくジン達は正門をくぐり昇降口に向かう。
靴は履き替えると言う文化はないが、ある程度汚れを落とせるように置かれたブラシで少し靴の裏を払い、ジン達はリナリーを先頭に前日テズームから聞いていた道順で校長室に向かう。
しばらく歩くと校長室と書かれた部屋に到着して、リナリーがノックする。
「どうぞ」
中から落ち着いた女性の返事でジン達が校長室に入室する。
入って早々ジンは目を丸くして驚いてしまう。ジンだけでなく、この場にいる全員が目を丸くしていた。
「王妃様?」
その理由はジン達の前に座っているのが、昨日謁見の間で会った、ティナシー王妃その人だったからである。
「昨日ぶりね、坊や」
昨日はジンとヴァーレンハイトとの会話に一切の口出しをせず殆ど微動だにすることなく座っていた彼女だが、今日は来て早々含みのある笑顔でそう言う。
昨日の雰囲気と全然違うティナシーに少したじろいでしまうが、いち早く正気に戻ったリナリーが先人を切ってティナシーに喋りかける。
「ティナシー王妃様、本日はお会いできて光栄です」
「うふふ、私もよ」
「挨拶も早々で申し訳ありませんが、単刀直入にお聞きいたします。何故ティナシー様がここにおられるのでしょうか?」
「あら、テズームから聞いていないのですか?」
「何も」
「そう、では説明しましょう。と言っても理由は簡単、私がこの学園の校長を任されているからと言うだけよ」
「王妃様が校長......はっ!昨日のご無礼大変申し訳ありませんでした!」
ジンは昨日の事を思い出して頭を下げる。いくらリナリーの事でムキになったとは言え、ティナシーを出汁に使ったのは不敬以外の何物でもない、昨日はヴァーレンハイトが笑って許したため何事もなかったし、ジンもああなるだろうと予想はしていたが、ティナシーからしてみれば急によくわからない隣国の貴族の子供にあんな事を言われれば、いい気などするわけもないと思い至ったジンは頭をこれでもかと言うほど下げる。
「ああ!そんな頭を下げなくてもいいのよ!私全然気にしていないから!」
ジンの態度に慌てて手をワタワタさせるティナシーに立場も弁えずジンはほっこりしてしまう。が、すぐに女性陣の視線に気付いて咳払いをして誤魔化した。
「うぅん!でもそう言うわけには」
「あなたからの謝罪は受け取ったわ。それにあの人にもいい薬になったでしょう。だから大丈夫よ」
ティナシーはそう言うとウィンクする。
ジンはその美しさに再度一瞬見惚れる。
さすがホイル王国始まって以来の美女と名高いなと思うジンだが、なんとか最短時間に抑え、リナリー達に気づかれないように平静を装うのだった。
「さて、話はそれちゃったけど、今日からこの王立学園であなた達には三ヶ月、私たちの生徒ということになります。クラスはみんな一緒のAクラス。それじゃ!楽しんでね!」
なんともイメージの違うティナシーにジン達は笑うしかなかった。
「あら?何かおかしかったかしら?」
「いえ、そうではなく、昨日お会いした時とイメージが全然違っていたので」
「それはそうよ、私政治のことなんてなーんにもわからないもの」
「え?」
「私の実家は子爵位でね」
「え!?」
「何度も断っているのに、あの人それはそれはしつこくてね」
「えっと......」
急な話にジン達は顔を見合わせてしまう。が、子爵位の王妃とは「また」とも思う。
「まぁ、でも?どうしてもって言うから仕方なく?結婚してあげたのよ」
一瞬、ティナシーは望まぬ結婚をしたのかと思ったジン達だったが、顔を赤らめてそう言うティナシーに、惚気かと少し力が抜けてしまう。
「だから私は、内政のことはあんまりわからないのよ。だから、ああいう場では黙っているのが私の仕事よ。国母としてどうこう言われるのは慣れてしまったわ。でも貴方」
そこまで話てティナシーがジンに顔を近づける。
「あの人があんなに笑ったのは久しぶりに見たわ。だから色々期待しているわ」
「期待......ですか?」
「ええ。さて、そろそろホームルームの時間ね、ネシー、後はお願いできるかしら」
「はい!」
ティナシーに呼ばれて入室した時からティナシーの横にいた女性が返事をする。
「今日から貴方達の担任になる、ネシー・フィードよ。よろしくね」
ネシーの挨拶にジン達も挨拶を返す。
「それでは校長先生、失礼します」
「ええ」
こうしてジン達は校長室を後に、ネシーの後ろをついていく。
「みんなの通っていたベータル王立学園とは授業の進みも少し違うと思うけれど何かわからないことがあったら遠慮なく質問してね」
「はい、お気遣いありがとうございます」
そんな話をしていると、どうやら目的の教室に到着したのだろう、ネシーが歩みを止めて、ドアに手をかける。
「それじゃ、ようこそホイル王立学園、Aクラスへ」
そう言ってネシーはドアを開けるのだった。
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