第156話 お決まり

 ジンが人混みを縫うようにして進み、人混みを抜けると、リナリーとそれを庇うようにノアが男三人と相対していた。


「貴方達、いくら他国のお方とは言え流石に無礼ではありませんか?」


「それは大変失礼致しました、レディ。ですが私達は女性がお二人でいらっしゃるから少々心配になっただけですよ」


「であれば、そのご心配は気持ちだけ受け取ると申しました」


「ですがねぇ、こんなにも麗しいお二人をダンスに誘わないのも紳士としては失礼だと思いまして」


「申し訳ありませんが結構です」


「そう言わずに」


 そう言って男がノアに手を伸ばそうとするのでジンは我慢できずに間に割り込む。


「失礼、私の婚約者になにかご用ですか?」


 基本的に社交界で未成年がダンスを踊る場合、婚約者か身内と決まっている。

 婚約者がいない場合であればそれも自由ではあるが、ノアとリナリーにはジンと言う婚約者がいるので、この場ではジン以外とダンスはできないのである。


「なんですか、貴方は」


「私は彼女達の婚約者です」


「なに?」


「貴様、このお方が誰かわかって言っているのか?」


 ジンと対面した男が周りの二人を手で制すとジン越しにノアを見るがノアの表情を見て、さらにジンが来た方向からヴァーレンハイトが顔を覗かせていることに気付いて険しい表情から笑顔に変わる。


「それは失礼した。婚約者の方がいらっしゃるとは思わず」


「いえ、わかってくださったのならいいんです」


「では、後ろの女性はどうでしょう?」


「申し訳ないが、彼女達と私は言った」


「達?と言う事は後ろのご令嬢お二人と婚約されていると?」


「ええ」


「左様ですか、それは羨ましい限りですな」


 ジンにしか聞こえないほどの小さな舌打ちをして男は綺麗に一礼する。


「大変申し訳ありませんでした。ご無礼お許しください」


 明らかに建前だけの謝罪ではあったがジンもこれ以上騒ぎを大きくしたくは無かったので謝罪を受け入れる。


「いえ、私も婚約者である彼女達から目を離すべきではありませんでした。申し訳ありません」


 ジンが頭を下げてから上げると、男達は渋々と言った形で一礼して去っていく。

 結局それ以上のことは起こることは無くこの場を乗り切る。

 男達が去ったのを見てジンが振り返るとリナリーとノアがジンの腕を取る。

 

「やっぱり今度から俺もこういう場では二人のそばにいるよ」


「「申し訳ありません」」


「いや、二人とも綺麗だという事を俺がしっかりと認識していなかったよ」


 どこへ行ってもこの二人だ、声をかけられるだろうとこの時ジンは肝に銘じるのだった。

 その日テズームの屋敷に戻る馬車の中で今後の話をテズームがしていた。


「それでは、明日からの話を致します。ご到着されて翌日から学園が始まると言う込み入ったスケジュールで申し訳ありません」


「仕方がありません。おそらく私達と交換で留学されている殿下も同じようなスケジュールになっていると思いますし、仕方のない事は仕方がありません」


「そう言って頂けると幸いです。それではご説明します、まずは明日から留学生として学園に通っていただくのですが、日輪祭にはどなたか参加されますか?」


 テズームの言葉にジンとイーサンが手をあげる。


「承知しました。そうしましたら私が学園の者にそう伝えておきます。では次に、日輪祭は来週から始まり、それまでは通常の授業が行われますが、午後は全て日輪祭の準備になると聞いています」 


 テズームの説明にジン達が頷く。


 「大まかな話は以上です。あとの細かいところは屋敷に着きましてから説明させていただきます」


 再度テズームの言葉にジン達が頷くのだった。

 こうして、ジン達の怒涛の一日が終了し、留学生活がスタートするのだった。

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