第154話 正座
ヴァーレンハイトがやっと落ち着いてくると次はジンに対する貴族の敵意が凄まじいことになる。
ジンはそれをポーカーフェイスで受けながらヴァーレンハイトが落ち着くのを待つ。
「くくく、貴様私が怒りに駆られていたらどうなっていたかわからん訳もあるまい?」
「理解しております。陛下は愛妻家と名高い人物であることは存じておりましたので百に一それもあり得ると思いましたが、同時に高明であることも存じておりましたので、そのようなことにはならないと思いました。若輩者の浅智恵です」
「ほう」
「陛下が私を試しておいでだと思いましたので、あの様な無礼を承知での物言いになってしまいましたね。ですが男子としての矜恃を通させていただきました。例えその場で断罪されようとも胸を張って首を差し出しましょう」
「くくく、すまない。非礼を詫びよう」
「いえ、陛下や王妃様に対する多大なる非礼お詫び申し上げます」
「私が試したと言ったな?本当にそう思っているのか?」
「先程申しました通り、若輩者の浅知恵と笑ってください」
ジンはその場で最大まで頭を下げる。
「そうだな、お互い様ということでこの話は終わろう。皆もそれで良いな」
ヴァーレンハイトがそういうと貴族達からはなにも言葉が出なかった。
「長々とすまなかった。長旅で疲労もあろう今日はゆっくりと休まれよ」
そう言うとテズームがジン達はのそばに来るので退室しろということだと察したジン達は立ち上がりヴァーレンハイト達に一礼して踵を返して退場していく。
ジン達が退室するとそれまで黙っていた丞相であるゼブラがため息をついてヴァーレンハイトを見る。
「彼には感謝すべきですな」
「わかっている、少々軽率であった。リナリー嬢の美貌に欲が出た」
「ですが、あれで十五歳とは末恐ろしいですな」
「全くだ。ディノケイドの息子の友だと聞いていたが、あの分じゃディノケイドの息子も相当だろうな」
「あの場で陛下が彼を斬り捨てていたと想像するだけでゾッとします」
「俺もゾッとするよ」
あの場でジンを斬っていればヴァーレンハイトの求心力は地の底まで落ちていただろう。
あの場ではジンの無礼に皆憤りを覚えたが、冷静になれば先に大きく礼を欠いたのはヴァーレンハイトの方だった。
それだけでも中々に不味い行いだ。
隣国のそれも友好国の貴族令息に無礼を働たのが、国王その人だと言うこともそうだが、さらにはその後子供の戯言と呼べるようなことを言われてその者を斬ったと有れば正しく愚者、愚王と呼ぶに相応しいと反勢力の口実になりかねない。
ジンの行動は子供であるという言い訳がつくが、ヴァーレンハイトの場合そんな言い訳は一つも無い。
つまりジンは自分の評価を犠牲とヴァーレンハイトに試されたという言い訳をつけて、ヴァーレンハイトの非礼を相殺したのだ。
「まさか十五の子供に貸しを作るとは」
「確かにリナリー様の美貌には私も驚かされましたが、陛下も欲を出しすぎましたな」
「言い返す言葉もないな」
リナリーをそこまで欲しがったのは、リナリーの容姿にある。
あそこまで容姿が整っていれば民衆にも受けがよく、求心力にも影響してくるだろう。
そうなれば今の政権は安泰と言えた。その想像にヴァーレンハイトは少し、暴走してしまったのだ。
「私も老いたか」
「どうでしょうな、その辺の子供で有れば如何様にも出来たと思いますが、彼は思慮深くそれでいてリナリー様を愛しておいででしたね」
「愛ね。お前からそれを聞くか」
「陛下?」
「すまんすまん、彼とは友好的な関係を築いておくことは国の未来に大きく関わるかもしれんな」
「ですね」
二人はジン達が退室して行って扉を見つめて話込むのだった。
ジン達はテズームに続いて城の城門へと向かっていた。
「いやはや、この歳であれだけヒヤヒヤするとは思いもしませんでしたよ」
「すみません」
「本当です!ジン様はいつもいつも」
「お、落ち着いてくれリナリー、別に考えがなかったわけでもないし」
「いいえ!リナリー様の言う通りです!最近私もジン様がどういう方なのかようやくわかってきました!」
「ノア?」
「いいですかジン様!私はリナリー様のようにお優しくありませんよ!今日はしっかりと反省していただきます!」
「イーサン、助け」
「ジン、女性に逆らってはいけないということを俺は先日学んだ......すまん」
ジンはイーサンからの梯子を外されて肩を落とすとノアとリナリーに詰められるのだった。
ジン達はテズームの先導で城の一室に来ていた。
そこは客間と言える作りになっており、ジンたちは思い思いの場所に座る。
「それではパーティーの時間になるまでゆっくりとしていてください。時間が来ましたらお着替えのご説明に参ります」
「わかりました。ここまでありがとうございます」
「いえいえ、当然のことですので、では」
そう言うとテズームは一礼してから部屋から出ていくのだった。
「さてと、どうするか」
テズームが出て行き、すぐにイーサンが頭の裏で手を組んで、長椅子の背もたれに体重をかける。
「まぁ、夕方までそこまで時間があるわけでもないしな、これといってやることも無いだろ」
「いいえ、ジン様にはあります」
「え?」
「まさかあの程度でお話が終わったとお思いですか?」
「ノア?」
「その通りですね。さ、ジン様正座」
「正座.....?」
「正座」
「はい」
「あー、終わったら起こしてくれ」
そう言うとイーサンは立ち上がり、備え付けられているベッドに歩いていくと遠慮なく倒れ込む。
ジンはすぐに気持ちよさそうに寝息を立て始めたイーサンを呪いながら、その場に正座してリナリーとノアに再度詰められるのだった。
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