第115.5話 ノア・ダーズリー
エドワードが教室を出て行った後、本格的に班決めで教室は盛り上がっていた。
ほとんどはいつもいる面子で班がどんどん決まっていく。
そんな中アーサーは自分に好意を寄せてくれている女子達に囲まれてはいたが内心、今後そうすればいいか考えていた。
ジンに敗北した後ドールにはなんとか許し貰ったがアーサーの立場は前よりも悪い物となった。
今回の班決めでもドールは早々に班を決めアーサーの入る隙はなかった。
(くそ、くそくそくそ!)
あの時ジンに勝ってさえいればアーサーの今後は安泰と言えたが、負けた以上あの失敗を取り戻さなければいけない。アーサーはあの試合を負けイベと割り切っているため何も思っておらず次やれば自分が勝てると思っている。
けれど自分の立場が悪くなったことは変わりない。そして、今回の遠征はアーサーにとってチャンスだった。
アーサーは平民ではあるが商家の息子ではあるが、ほとんど仕事に関わることなくやりたい放題だった。その中で野党の討伐も箔をつけるために一度経験がある。
その時は殺すことなく捉えるのみで終わったが、いつでも殺せる状況ではあった。ならば今回も問題ないと、思っていた。
「アーサー様?」
「ああ、ごめん。なんの話だったかな?」
心ここにあらずだったアーサーに声をかけたのはノアだった。
ジンの婚約者であるリナリー、その友人であるノアはジンに近い存在としてこの中では少しだけ浮いていた。
周りは貴族令嬢なので側からみればそんなことはなかったがノア自身は気づいていた。
アーサーは気付いていなかったが、元々アーサーからすれば女性など黙っていても周りに集まってくる物程度の認識なので気付くはずも無いのだが。
(この遠征で何か功績を立てなければ)
結局アーサーはこの日一日そのことしか考えることは出来なかった。
そんなアーサーのどこか焦っている雰囲気を感じとっていたノアは心配そうな眼差しでアーサーを見つめる。
ノアはジンが強いという話はリナリーから聞いていたが、色眼鏡で見ていると思っていた。だが、ジンの強さはリナリーが話す以上だった。
まさに鬼人。鬼のそれだ。
決勝戦まで他の追随を許さぬ圧倒的な強さ。アーサーに対しては過剰と言えるほどの力の差を見せつけた。
正直ジンの底知れぬ強さに寒気すら感じたほどだった。
アーサーもあそこまで完膚なきまでにやられれば落ち込んでいるだろうと思っていた。
ならば自分がそんなアーサーを支えなければとも思っていた。
ノアはダーズリー伯爵家の長女として生まれそれに恥じないよう育ってきた自負がある。
忖度抜きでリナリーとカナリアと友人になれたことにも満足している。だが、ノアにとって家族は気の許せる相手ではなかった。伯爵家としてまだ若いダーズリー家はリナリーと友人になった自分を褒めそやし、今までの扱いがより良い物となった。
賢いノアは、両親の笑顔が何か得体の知れない物に思えて怖くなった。
自分は家の道具であると言われるよりも行動で自覚させられることがこうも精神的に苦痛を伴うのかと幼いながらに思ったことを今でも覚えている。貴族であるなら多少は仕方ないと自分も思うが、理解する頭と納得できない心の
それでもリナリーとカナリアは自分の友人として純粋に接してくれる。そんな二人に救われ事は一度や二度ではない。だが、歳を重ねるにつれて自分が劣等感の塊になっていくのを自覚した。
リナリーはこの国でサファイアと並ぶ秘宝と呼ばれるほどの美貌を持っている。異性に対してさほど興味は無かったが、毎回自分を殆ど視界に入れない異性に女としての劣等感を抱くのは仕方がないことだった。
それでもその劣等感はさほどノアを追い詰める事は無かった。何故ならリナリーが本当に秘宝と言えるだけの美貌を持っていたからという事もあったが、そもそも自分が異性に対してさほど興味を持っていなかったということもあったからだ。そんな中ノアが一番劣等感を感じたのは友人二人の家族との絆だ。
フォルム家もティンダー家もダーズリー家と違いそこには家族としての愛があった。そのことをノアは肌で感じてしまったその時から負の感情が止まらなかった。羨ましい。なぜ自分にない物を二人は当たり前の様に持っているのか。なぜこうも自分の家とは違うのか。
その日からノアは劣等感の塊になった。
自分と二人は友人ではあるが心をわかり合える仲にはなれないと、そう思うようになった。
そしてその劣等感を抱え、それが孤独感に変わった頃、ノアはこの学園に入りアーサーと出会う。
最初はリナリーが隣にいるのに自分に話かけてくる珍しい異性という風に見ていた。だが、少し自分でも変だとは思うがアーサーにいつの間にか自分の悩み、劣等感を話していた。
「そっか......俺も同じでさ......父も母も俺には何も期待してなかった。そこまで大きくない商家の三男だからね、だから反骨精神でこの学園に入ったんだ」
「え?」
「そしたら、この前急に手紙が来たよ。貴族様が多くいる学校だからね。それのコネが欲しいんだろう」
「......アーサー様」
「ははは、いやごめん。男なのに女々しくて」
「そんなことありません」
アーサーの横顔にノアは涙を流してしまった。何故出てきたのかノアにはわからなかったが、自然に出て来た物だった。
自分ではわからなかったがノアはこの時初めて自分と同じ存在がいるのだと思い、孤独ではないと思ったのだろう。
そのあと自然にアーサーに抱きしめられた。
あの時からノアはアーサーに好意を寄せている。
美しい恋愛の始まりの様なワンシーンだったが、真実はほろ苦いことをノアは知らないのだった。
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