第115話 遠征について
ジンは家に着くとルイの盛大な歓迎を乗り越えてジゲンの書斎に訪れていた。
「武園会、勝ったらしいな。さすがワシの息子だ」
「ありがとう、耳が早いね」
「ダリルがな、騒がしく知らせに来おってな」
「ああ」
ジンは馬車の中でのダリルのテンションの高さは武園会が原因かと苦笑いをする。
「どうだった同年代は」
「んー、一人、楽しかった」
「一人か」
「言い方を考えなければ、正直、敵になり得ると思った相手はそれくらいしかいなかったよ。絶対に負ける事はないと思った」
「そうか」
「それに、そう簡単に負けるわけにも行かないしね」
「まぁ、確かにお前の代でお前より強い奴はそうはいないだろう......だが自惚れるなよ。お前より強い奴などごまんといる」
「自惚れる?俺が?あり得ねーよ。そんな暇無いことは知ってる」
ジンの目に宿るのは殺意にも違い決意。ジゲンはその目を見て口の端を吊り上げる。
「そうか......ならいい」
ジゲンが聞きたいことを聞き終えると手元の書類に目を落とす。
「......」
「どうした?」
「え?いや、親父殿が呼んだんだろ?」
「ああ、話はこれだけだ。もういいぞ、なんなら仕事の邪魔だ」
「ええ、なんだよその言い方」
「あまりお前を拘束するとルイがうるさいからな」
「へぇ、なんだやきもちかよ」
「なに?」
ジゲンは図星を突かれてジンを睨む。
「どうやら武園会で優勝したからといい気になっているようだな?まだ殺り足りないだろう?久々に稽古をつけてやろう」
ジゲンはゆっくり立ち上がると壁に飾られている刀を握る。
「まじで!?いいのかよ!親父殿となんて久々だな!」
ジゲンの脅しに近い言葉にジンはウキウキして年相応の子供の顔をする。
「準備してくる!」
そう言うとジンは書斎から足早に出て行った。
「全く」
ジンと入れ替わりでジャスが書類を持って書斎に入ってくる。
「ジン坊ちゃんとどうかされましたか?」
「久々に稽古をつけてやると言ったら、あのはしゃぎ様だ」
「左様ですか」
ジャスは微笑んで頷くと新しい書類を机に置く。
この日の稽古はリュウキやダリルを巻き込んで夜遅くまで続いたのだった。
次の日、登校したジンにクラスメイトは驚く。
ジンは無傷で武園会を優勝したのだが、その形はボロボロだった。
「ジン、どうしたんだよその傷」
テオが心配になって登校してきたジンに喋りかける。
「ああ、昨日親父殿と稽古してな、ボコボコにされた」
「親父って、ジゲン様か?」
「ああ」
「はぇ、やっぱり強いんだな」
「化け物だよ。片腕ねーのに全然敵わないとか全盛期はどんだけ強かったんだって話だ」
「まじか」
「やっぱり英雄は強いんだな」
「ん?」
ジンたちの話に加わって来たのはイーサンだった。
「まぁ、親父殿だからな。それでも近いうち超える」
テオは最近ジンのことをだんだんわかる様になって来た。向上心の塊。だが、どうしてここまで上を見ていられるのかわからなかった。
「ジンさ」
「ん?」
「いやなんでも無い」
「そうか」
なぜかそれを聞いたら自分は後戻りできないかもしれないと、テオはジンに訳を聞くのを躊躇ったのだった。ちょうどそこまで話したところでエドワードが教室に入って来たのだった。
エドワードが教室に入ると賑わっていた教室が静かになる。
「おはよう、昨日、武園会に出場した者はご苦労だった。そして我がクラスから優勝者も出たことは大いにめでたいことだ」
エドワードがジンに目を向けてそう言う。
リナリーやイーサン達は拍手をするが、エドワードの言葉にクラスメイトの幾つかから睨まれるジン。だが、平然と頬杖をついている態度に更に視線は鋭くなる。
そんなクラスを冷静に見ていたエドワードはさて、と話を区切ると今日の本題に入る。
「知ってる者もいると思うが武園会が終わり何人かは自分の実力を理解しただろう。だが、全員がそうではない。そこで毎年恒例となっている実技遠征が一ヶ月後行われる。これは騎士団に同行して現実を見ると言った行事だな。これは原則、全員参加だ」
「実技遠征......」
相変わらずジンは何も知らないため、今の説明だけじゃ要領を得なかった。
「騎士団の盗賊討伐に我々が同行させてもらうと言う事だ」
「なるほど」
ジンの呟きが聞こえたのだろうエドワードが補足する。
「お前らが見るのは、人を殺すと言う現実。危険はほとんどない。何せ騎士団と共に行くのだからな。それに何かあればお前たちは騎士団が身を挺して守る。心配はいらない」
ジンは心の中で、騎士団にとっては邪魔な学生を伴うと言うことに哀れみを感じる。
「五人一班として騎士団と同行する。班分けはお前たちで行え、纏まり次第私のところに報告する様に」
そこまで話すとコールが手をあげる。
「コール」
「はい、この遠征では我々もその、剣を取るのでしょうか?」
「お前達は基本は見ているだけだ。勝手にうろちょろされても騎士団の邪魔になるだけだからな。だが、騎士団の許可が下りれば参戦してもいい、その辺は担当騎士団に任されている」
「わかりました」
「ほかに何か質問のある者はいるか?」
「班に分かれる意味は?」
イーサンが手を上げなら質問する。
「統率を取り易くするためだ」
エドワードが質問に答えるとそれ以上の質問は出てこなかった。
「よし、なら話は以上だ。早めに班分けを済ませて、リーダーまで決めておけよ」
そう言うとエドワードは出席簿を持って教室から退室していくのだった。
エドワードが退室していくと、イーサンがジンの近くにくる。
「ジン、俺と一緒の班になってくれ」
「構わないよ。な、テオ」
「俺はもう入ってるのか」
「だってお前、俺以外友達いなくね」
「うるせ!イーサンがいる」
「じゃー、結局決まりじゃん」
「ぐっ!確かに」
「他はどうする?」
「リナリーと」
そこまで言いかけて時リナリーが近づいてきていたのでジンがそちらに目を向ける。
「今回はノアはアーサー様のところにいくと」
リナリーがそう言うとジン席から立ち上がり自分の席をリナリーに譲る。
リナリーが顔を赤らめてそこに座る。
テオの慌てて自分の席をカナリアに譲る。
ジンはテオを挟んで隣にいるアーサーの席を見るが、どうやらいつのまにか移動したらしいその席は空だった。
「じゃあ、後はカナリアさんで決定かな?」
テオの言葉にテオの席に座ったカナリアが頷く。
こうして班が決定する。
リナリーをダメ元で誘う予定だった男子達は一瞬でその望みが絶たれたためジンを逆恨みするが、ジンは全く意に介さない。
「それじゃ後でエドワード先生に報告するとして、実技遠征か......」
テオは言葉尻がどんどん小さくなっていくのでジンがどうかしたか?と尋ねる。
「いや、まだ一年なのに早いなって」
「まぁ、平和な時代じゃないからな。今この時代は命ってもんの価値が低い。早めに現実を知るのは賢明なことだと思うぞ」
「確かにそうかもしれないけどね、まさか女子生徒も参加だとは思わなかったよ」
「確かにな、下手したら怪我人や最悪死人が出てもおかしくない。女子生徒が盗賊に捕まりでもすればそれは一番最悪と言っていいしな」
テオとジンの会話にイーサンも加わる。
「毎年怪我人は出るらしいが、死人やましてや女子生徒が捕まったなんて話は聞かないが」
「前例が無いとはいえ起こりうることだからな。まぁ盗賊と騎士団じゃそもそも物資も練度も違うだろうし、そこまで心配してはいなが」
ジンはなんとか明るく言って話を終わらせるが、自分の最愛の人が行くのだ、何かあれば命をかけて守ることを静かに誓う。
こうして、ジンたちの以外の班も着々と決定していくのだった。
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