第114話 賢さ
ジンはリナリーを探して校舎を歩いていると一目でわかる後ろ姿を発見して声をかける。
「リナリー」
リナリーは振り向くと声の主がジンだとわかり満面の笑みでジンに走り寄ってくる。
ジンの数歩手前で地を蹴って飛ぶとジンは慌てて一歩前に出てリナリーを受け止める。
「リナリー、心臓に悪いからダイブはよしてくれ」
「探しました!」
ジンの忠告を無視してリナリーは先程の笑みを消して頬を膨らませる。
ジンはそんなリナリーに素直に謝る。
「ごめん、少し考え事をしてた」
「なら私に相談してください!ジン様の悩みなら私の悩まみと一緒です!」
リナリーの言葉にジンは先程よりも胸の内側が暖かくなる。
「ありがとう。次からそうするよ」
「おい、お二人さん、周りのことも考えようね」
そんな二人に声をかけるのはテオだ。
ジンが周りを見てみればテオやイーサン、ノアにカナリアもいた。
「すまん」
ジンはリナリーを地面に優しく下ろしてからテオ達に頭を下げる。
「まぁ、いいけどさ」
テオは素直に謝るジンにそれ以上言及しなかった。
「遅れたけど、優勝おめでとう」
テオに続いて全員がジンに称賛を送る。だが、その中でノアだけが、釈然としない顔だった。
それはそうだろう。ノアはアーサーに対して好意を抱いている。
そのアーサーがあそこまで完膚なきまでにズタボロにされればいい気分じゃ無いだろう。
ジンもそれはわかっているのでノアの態度になにも言わなかった。
ジン以外もそれはわかっているので、特になにも言わずに流す。
「ていうか、あそこまで強いとは思ってなかったよ。クラスの奴ら全員驚いたんじゃないか?」
「んーそれは別にどうでもいいけど、めんどくさい難癖なんかが減れば嬉しいかな」
「激減するだろうな」
ジンはそれなら少し目立った甲斐もあったと納得する。
「さて、それじゃそろそろ帰ろうか。みんなももう迎えが来てるだろ?」
「そうだな、俺もそろそろ帰る」
「では、今日はここで解散しましょう」
カナリアがそう締め括りその場は解散する。
リナリーはフォルム家の馬車に乗るまでジンから離れなかったのだった。
ジンはリナリーを見送るとジンに話しかけてくる人物がいた。
「オオトリ様」
「ジンでいいよ」
ジンは振り向き様にそういうと声の主がと目が合う。
ジンにしゃべりかけたのはノアだった。
「では、ジン様、私は貴方が許せません」
「まぁ、そうだろうね」
ノアの目はジンを敵と捉えている目立った。
「ですが、リナリー様と私は友人ですし、先の事も学園の決め事による試合であることも理解しています。ですが、気持ちは別です。これから私の気持ちが態度に出てしまったら失礼になってしまうので先に謝罪しておきます」
「構わないよ」
ジンはアーサーとドールのやりとりをノアに言う気はなかった。
あのやりとりは一少女が聞けば相当なショックを受ける。しかもそれが自分の好意を寄せている張本人であれば尚更である。それをノアに伝えるなどジンにはできるはずもなかったし、もし伝えたとしても信じてくれるとも思っていなかった。
「それでは、失礼します」
「うん」
ジンのノアに対する印象はリナリーの友達、それ以上でもそれ以下でもない。だが、この時ノアの直接ジンに自分の気持ちを伝えてくるその律儀さに少しだけ好印象を持ったのだった。
ジンは元々リナリーの友達という事で悪い印象を持っていない。ジン自身の立場がクラス内で微妙であっても変わりなく接してくれているし、ノアに関してはアーサーの周りにいる女性たちと同じようにアーサーのそばに居たいだろうが、リナリーの婚約者であるジンを立てて、極力リナリーのそばにいるよう心がけている。
15歳の少女がこの立ち回りをできるのは一重にノアの賢さだとジンも考えていた。
学園では身分の違いを取り払うという校則はあるが、将来を考えれば賢い立ち回りは必須だろう。その点で言えばアーサーの周りにいる女性たちはアーサーが大成すれば勝ち組ではあるが、平民であるアーサー成り上がることが出来なければ社交界で馬鹿な女たちというレッテルを貼られかねないだろう。
そのことを理解しているノアは恋はしているが、それに溺れない賢さを持っているということだ。
「全く、見習わないとね」
ジンはリナリーのこととなると、一つのものしか見えなくなる。そのことをノアを見て反省しながら迎えの馬車に乗り込むのだった。
ジンは家に着くとルイの盛大な歓迎を乗り越えてジゲンの書斎に訪れていた。
「武園会、勝ったらしいな。さすがワシの息子だ」
「ありがとう、耳が早いね」
「ダリルがな、騒がしく知らせに来おってな」
「ああ」
ジンは馬車の中でのダリルのテンションの高さは武園会が原因かと苦笑いをする。
「どうだった同年代は」
「んー、一人、楽しかった」
「一人か」
「言い方を考えなければ、正直、敵になり得ると思った相手はそれくらいしかいなかったよ。絶対に負ける事はないと思った」
「そうか」
「それに、そう簡単に負けるわけにも行かないしね」
「まぁ、確かにお前の代でお前より強い奴はそうはいないだろう......だが自惚れるなよ。お前より強い奴などごまんといる」
「自惚れる?俺が?あり得ねーよ。そんな暇無いことは知ってる」
ジンの目に宿るのは殺意にも違い決意。ジゲンはその目を見て口の端を吊り上げる。
「そうか......ならいい」
ジゲンが聞きたいことを聞き終えると手元の書類に目を落とす。
「......」
「どうした?」
「え?いや、親父殿が呼んだんだろ?」
「ああ、話はこれだけだ。もういいぞ、なんなら仕事の邪魔だ」
「ええ、なんだよその言い方」
「あまりお前を拘束するとルイがうるさいからな」
「へぇ、なんだやきもちかよ」
「なに?」
ジゲンは図星を突かれてジンを睨む。
「どうやら武園会で優勝したからといい気になっているようだな?まだ殺り足りないだろう?久々に稽古をつけてやろう」
ジゲンはゆっくり立ち上がると壁に飾られている刀を握る。
「まじで!?いいのかよ!親父殿となんて久々だな!」
ジゲンの脅しに近い言葉にジンはウキウキして年相応の子供の顔をする。
「準備してくる!」
そう言うとジンは書斎から足早に出て行った。
「全く」
ジンと入れ替わりでジャスが書類を持って書斎に入ってくる。
「ジン坊ちゃんとどうかされましたか?」
「久々に稽古をつけてやると言ったら、あのはしゃぎ様だ」
「左様ですか」
ジャスは微笑んで頷くと新しい書類を机に置く。
この日の稽古はリュウキやダリルを巻き込んで夜遅くまで続いたのだった。
次の日、登校したジンにクラスメイトは驚く。
ジンは無傷で武園会を優勝したのだが、その形はボロボロだった。
「ジン、どうしたんだよその傷」
テオが心配になって登校してきたジンに喋りかける。
「ああ、昨日親父殿と稽古してな、ボコボコにされた」
「親父って、ジゲン様か?」
「ああ」
「はぇ、やっぱり強いんだな」
「化け物だよ。片腕ねーのに全然敵わないとか全盛期はどんだけ強かったんだって話だ」
「まじか」
「やっぱり英雄は強いんだな」
「ん?」
ジンたちの話に加わって来たのはイーサンだった。
「まぁ、親父殿だからな。それでも近いうち超える」
テオは最近ジンのことをだんだんわかる様になって来た。向上心の塊。だが、どうしてここまで上を見ていられるのかわからなかった。
「ジンさ」
「ん?」
「いやなんでも無い」
「そうか」
なぜかそれを聞いたら自分は後戻りできないかもしれないと、テオはジンに訳を聞くのを躊躇ったのだった。ちょうどそこまで話したところでエドワードが教室に入って来たのだった。
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