第113話 知っている

「決まったぁ!最後は目にも止まらぬ一線!沈んだのはアーサー選手!これにより勝者はジン選手だあああ!」


 ジンは倒れたアーサーに背を向けると最初の場所に戻ると一礼して出口へ戻っていく。

 そんなジンの態度に観客は歓声を上げることもなく見送るのだった。

 それからジンに賞状が贈られた。


「おめでとう」


「ありがとうございます」


 ジンに賞状を贈ったのは学園長であるローバスだった。

 それからは特に何も起きることも無く武園会は終了したのだった。

 ジンはそれから誰にも合わずに演習場の更衣室にいた。


「よう、ここだったか」


「ロイ......」


「見てたぜ、流石だな爪は隠せと言ったがあそこまで圧倒的だとは思ってなかったぞ」


 ロイが知っているジンは一緒にガクゼンの元で三ヶ月の期間、修行した時で止まっている。だが、ゼワンとの一戦で背中が見えたと語った事や、帝国の将であるザンパを討った事でロイはジンの武力を高く評価していた。

 そしてその結果は予想以上だった。


「まぁ、負けるわけにはいかねーよ」


 ジンの何かを見据えた目にロイは頼もしさを感じる。


「それで、どうだった天才は」


「ロイはどう思った」


「うーん、そうだな。正直お前が圧倒的すぎて何とも言えんな」


「そうか、身体能力、反射神経、諸々天賦の才と言えるだろうな。潜在的な物は今まで師匠といろんなところでいろんな奴と手合わせとかしてきたけど、あそこまでのは見たことがないな」


「お前にそこまで言わせるか」


「だが、俺は好きになれねーな」


「ほう」


 ジンが人の好き嫌いの話をするのは初めてだったのでロイは少し興味深そうに相槌を打つ。


「ああ、そうだリナリー嬢が探してたぞ?」


「ん、ああ、そうか」


 ジンは試合以降誰とも合わずにすぐにここに来ていた。それはリナリーも例外ではなかった。


「どうした?お前がここまで何かに悩んでるのは珍しいな」


「なぁロイ、俺はどうやら割とイカれた人間らしい」


「は?」


「アーサーに対して確かに許せないことがあった。だが、それにしたってあの決勝はやり過ぎたような気がする。でも俺はなにも後悔してねー、終わって冷静になった今でもだ。俺は俺の敵と見定めた奴に手加減する気はない。あいつに対して敵意しかない」


「......」


 ロイはジンを見つめる。


「それで?何を悩んでんだよ」


「俺はあいつともし、生死を分けた戦場で対面しても躊躇いなく斬れる」


「......」


 ロイはジンの話を何も言わずに聞く。


「ザンパを討った時、奴は俺が殺し合いを楽しむイカれた奴だって言って死んだ、俺はたまに怒りに駆られた時自分が見えなくなる......俺はあの試合、刀を握っていたならあいつを殺していてもおかしくなかった。だけど多分もしそうなってたとしてもなにも後悔しなかったと思う」


「なんだそんなことか」


「そんなことってお前」


「いいかジン、この時代に聖人はいらねーんだ」


 ロイの急な雰囲気の変化にジンが驚く。


「別にいいんだよ、お前がイカれてようが戦闘狂だろうがな」


「ロイ......」


「俺は知ってる。お前に守る物があることを。俺はわかってる。お前が愛って物を知ってることを。俺は今まで出会った中で誰よりもお前って人間を信頼してる」


「ロイ」


「いいかジン、俺は必ず王になる。この先なにがあろうとだ。そしてその隣には必ずお前がいる。忠臣でも部下でも無く友としてお前が隣にいる。そのことを俺は疑った事はない。大陸を一つにしようって王の隣にいる奴がまともなわけねーだろ」


 ロイはそこで一回話を切るとそれに、と続ける。


「お前が怒るときはだいたい誰かのためって事も知ってる。それは守る対象のことなら尚更なこともな。別に戦闘を楽しむのは悪いことじゃないだろう。お前の親父さんも戦場ではいつも笑ってるって有名な話だしな」


 ジンはロイの言葉にポカンとしてしまう。


「お前、調べたのか?」


「珍しくお前が怒ってたからな気にもなる」


 どうやらジンが怒っていた理由をロイは把握しているらしい。

 ジンはロイの情報網の広さに舌を巻く。


「ほら、問題は解決しただろ?早くリナリー嬢のところに行ってやれ彼女も心配していたぞ」


「ははは、そうだな」


 ロイの言葉に少しだけ霧が晴れたような気持ちになったジンは立ち上がると更衣室を出ようとして止まる。


「ロイ」


「ん?」


「ありがとう」


「なんだよ、今日はいつになく素直だな」


「っち」


 ジンは笑いながら舌打ちをすると更衣室を出ていく。ロイは一人更衣室に残る形となった。

 ロイはジンの出て行った扉を眺めながらジンと会った日のことを思い出す。

 最初は興味だった。

 自分の仕掛けた悪戯を初めて見抜いたジンに単純に興味が湧いた。

 自分が友になろうと言えば、誰だって喜ぶだろうにジンはそれをめんどくさそうに家格まで持ち出して避けようとした、そんなこと初めてだったロイはますますジンに興味を抱いた。

 その結果ジンの修行に押しかけガクゼンに無理を言って自分も修行に加わった。

 そんな中でジンという人間に触れてある事件を経て興味が友愛に変わり今やその友愛は信頼へと変わった。

 ロイは常々思う。ジンと会わなければ自分は友情を一生知らないままで終わっていたかもしれないと。

 ロイは更衣室の扉を開けて前を向く。

 ロイには明確に見えている、どれだけ年老いようがジンとくだらない事で口論し、笑い合う未来が。

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