第112話 決着
観客の声援を一身に受けてアーサーは立ち上がる。
「次で決める!」
アーサーの言葉にジンはため息を吐きながら構えを取る。
すでにジンはアーサーの二刀流という我流の底を見たと確信したのでジンも次で決着をつける気でいた。
「いくぞ!
偉く大層な命名だなとジンは頭の片隅で笑ってしまう。
突貫してくるアーサーを見ながらジンは考える。
おそらくアーサーの潜在的な能力はジンをも凌ぐと。瞬刃流において、門とは試行加速の関門を言うのであって、自身のスピードの段階を示すものではない。
そのため、瞬刃流の使い手でも高位の開門者であるけれど自分自身のスピードはそれほど速くない者もいる。だが、決して常人のそれと比べるのも痴がましいほどの速さではある。
つまり高次元でのスピードは人それぞれという話だ。
その中でもジンのスピードはおそらくそれなりの速さではある。その、ジンの八割ほどの速さにアーサーは辛うじてではあるが反応して受け身をとった。
これはイーサンでも今はまだ不可能だろう。
つまりアーサーはセンスだけでイーサンやサドラー退けたということだ。
ジンはセンスだけでは絶対にイーサンには勝てない。つまり潜在的センスや身体能力で言えばアーサーは正真正銘の化物ということだ。だが、それだけで強さを語るならの話だ。
アーサーの身体機能のスペックの高さは認めるがそれを使う存在が拙いと、こうも脅威に感じないのかとジンは新しい発見だとすら思った。
ジンは次やればおそらくイーサンが勝つだろうなと思いながら迫るアーサー観察する。
「二刀流、どんなもんかと期待したんだがな」
ジンはアーサーの二刀流に少しだけ期待していた。ジンは確かに一年生の中ではその強さを示したが、ジンの目指す場所は遥か上だ。
そんなジンは初めて聞く流派に、何か吸収できる物は無いかと考えたが、結果は言い方は悪いが期待外れだった。
アーサーの二刀流は、それこそ剣を二本持つだけで流派と呼べるような物ではなかった。
(吸収できる物がここまで無いとは思わなかったな)
そんな思考の中、すでにアーサーは目の前だった。
アーサーは自分の間合いにジンが入ったのを確認して強く軸足で踏み切ると今までで最速のスピードで迫る。
ジンはそれを考えを感じさせないポーカーフェイスで向かい打つ。
「うらあぁあああ!」
アーサーは左右交互に木刀を振るう。ジンはそれを冷静にいなしながら下がる。
アーサーは数歩そのガムシャラな左右攻撃をやめると次は右手の大振りを放つジンはそれも弾くとアーサーは右手の遠心力を使って左手の木刀で追撃してくる。
これは先程見たそれとほぼ同じだけれど、パワーは先程よりは出ていた。だが、先程よりという話でジンがどうにかなる程の威力はなかったため、ジンはその追撃も弾く。
先程と違ったのはここからだった。
アーサーはその弾かれた左手を無理やり軌道を変えることなく振り切るとそのまま足を曲げて空中で
その姿に観客達は一瞬で大技が来ると判断して、無意識に歓声をあげようとしたが、そうはならなった。
なぜならジンがそれを許さなかったからだ。
空中で回転するからにはその途中での反撃に対応していて尚且つ、そこには必ずカウンターが来るとジンは判断して一番隙がある背中が向いている時にカウンターに対して完璧に対応してやるつもりで木刀を振るった。
その一撃はアーサーの背中を正確に捉え全く警戒していなかったアーサーは、そのまま転がっていく。
不意をつかれたアーサーは物凄い勢いで転がって行くと停止してそのまま動かなくなったのだった。
ジンは数秒固まってアーサーに近づくとうつ伏せで倒れていたアーサーがガクガクと立ち上がる。
「不意打ちか、卑怯者め!」
「不意打ちって、これは決闘だぞ?」
「騎士になろうってやつが恥ずかしく無いか?」
確かに騎士には名乗りを上げて一騎討ちと言った風習はある。だが、それは現状に置いて行われた後だ。
今行っているのは名乗りを上げ終わってからの一騎討ちである。
そこから何が起きようがそれは卑怯でも不意打ちでも無く、真剣勝負である。
そもそも、ジンは貴族であり名誉爵位までもらっているためもうすでに正真正銘ベータル王国の騎士だ。
アーサーの言い分に頭が痛くなるジンはもう話すのをやめようと思った。
「はぁ、もう終わりにしよう」
そういうとジンがアーサーの目の前から消えたと認識した瞬間にはアーサーの右頬から突き出た木刀に目がいく。
そして後ろからジンの声が聞こえる。
「いいか、俺の身内に手を出すなら覚悟しろ。俺の信念にかけておまえを潰すからな」
低く冷め切った声に一瞬アーサーは萎縮するが、すぐにプライドが勝り振り向き様に叫びながら木刀を振るう。
「やってみろや!」
その木刀は宙を斬るとそこにいたはずのジンは消え、顎に微かな痛みを感じるとアーサーの目の前が暗転したのだった。
ジンは自分の足元に転がったアーサーを見てこんな物に怒りを感じていたのが馬鹿馬鹿しくなる。
アーサーが倒れた事でジョナサンがジンの勝利を宣言する。
「この勝負、ジン・オオトリの勝利!」
勝者は決まったが、観客席からの歓声はほとんどなかった。
アーサーへ気持ちが流れていた観客はジンが勝ったことを、まるで悪役が勝ったという認識になってしまい、素直に喜べなかったのだ。けれど、ジンは別に観客の歓声などいらないのだ、ジンが求めるにはずっと自分を信頼してくれている者からの称賛だけなのだから。
ジンは観客席のリナリー達を探すとぴょんぴょん跳ねて喜ぶリナリーを見つけて顔を綻ばせるのだった。
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