第111話 主人公
ジンは開始と共にアーサーへ肉薄する。そのスピードは今までのそれとは別格だった。
一瞬でアーサーの背後までいくとジンは横薙ぎを払う。
「うぎ!」
アーサーはそれをモロに受けて右に吹き飛ぶと何度か転がって停止する。
その一撃に会場は鎮まり帰る。
ジンが急にアーサーの背後に現れて一撃を放ったことにも驚いたが、それだけではなくジンの攻撃という物に見ている全員を驚かせた。今までジンは寸止め、もしくは木刀を弾くという対する者に怪我をさせないような決着の付け方をしていた。
それはドールに対してもそうでジョナサンが止める形にはなったがジンは元々寸止めのつもりで木刀を振っていた。
ジンも賭けだなんだという話で負けられないとは思っていたが、ジンの剣術の腕は手加減が可能な域にあることも自負していた。
では何故、ジョナサンが止めたかと言えば、ジョナサンは初めて見るジンの剣技に驚いたのもあったがその相手がドールであったこともあって怪我という二文字が頭の隅を掠めたことで咄嗟に止めに入ってしまったのだった。だが、今回止めに入らなかったのは致命傷になり得る首や目などへの攻撃ではなく革鎧で守られた胴に対しての攻撃でもあったからだった。
アーサーはなんとかという風に立ち上がると木刀を二つ面前に構える。
「油断したよ、だが、次は無、がは!」
何か言いかけていたが一瞬で間合いを詰めたジンは構わず木刀を振るう。振るわれた木刀はアーサーの肩に当たりアーサーはまたしても地面に倒れ込む。
「すまん、何か言いかけてたか?」
「ぐぅう!」
ジンは少しだけ距離を取ってアーサーが立ち上がるのを待つ。
アーサーがヨロヨロと立ち上がるとジンを睨みつける。
「このままじゃすぐに終わるか......いいぞかかってこい、二刀流ってやつを見せてくれ」
ジンは少しだけ冷静になるとアーサーにそういう。元々ジンは決勝前のことが無ければアーサーに先手を譲って二刀流という流派を見極めるつもりでいた。
ジンの態度に顔を真っ赤にして青筋を浮かべたアーサーが怒鳴る。
「俺を甘く見たことを後悔するなよ!」
アーサーはそういうと大地を蹴ってジンへと突貫する。
「
アーサーは二つの木刀を幾度も振るう。ジンはそれを悠々と躱す。
周りから見ればアーサーの剣技は無数の斬撃を放ちそれをジンが避けている風に見えるが、ジンから見ればがむしゃらに剣を振るうその姿にまるで大人に無鉄砲に腕を振り回す幼児の姿を彷彿とさせた。
「くそ!」
アーサーは一度ジンから距離を取る。
ジンはアーサーの攻撃に疑問しか無かった。
(何がしたいんだ?)
ジンの知っている剣術とアーサーの振るう剣がかけ離れていたためジンは何がなんだかわからずに首を傾げる。
ジンの印象とは別で観客席、実況は盛り上がる。
「さぁ!ここまでジン選手が開幕二回の攻撃を当てることに成功しましたが!そこからアーサー選手の反撃が始まりました!」
アーサーは腰を落として木刀を交差して構える。
「はぁ、はぁ、見せてやるよ!この技を見れることを誇れよ!ゴミが!」
ヒートアップしていつもの安っぽい面の皮剥がれていることにアーサーは気付いていない。
「まぁいいか、来い」
「
アーサーは叫びながら突貫すると木刀のクロスを解くとそのまま両手での横薙ぎを放つ。
(クロスがブラフで、一段目の剣を避けると二段目で修正、必中ってか)
ジンは迫るアーサーの手元や目線を一瞬で観察して技の種を推察する。
「うらあああああ」
ジンはアーサーが自分の間合いに入った瞬間一歩踏み切って宙を舞う。
そのままバク宙で一振り目の木刀を空中で躱すと当てに来た二振り目を木刀で止めるとそのまま木刀を絡めて弾く。
アーサーは急に右手から重みが消えてバランスを崩して地面に転がる。
ジンはほとんど音なく地面に着地すると余裕を持って振り返った。
「な、なななにが起きたんでしょうか!ジン選手が空中でアーサー選手の木刀を弾いたと思えばなぜかアーサー選手が木刀を片方失い地面に倒れています!」
アーサーは泥だらけになりながらもそれでも立ち上がろうと膝を突く。
ジンはアーサーのその根性だけには称賛を送らざるを得なかった。
「くっそ、この俺が、くそ!」
称賛を送ってすぐにそんなセリフにジンはげんなりしてしまう。だが、その声が聞こえない観客はアーサーの立ち上がりながら何かを叫ぶ姿にアーサーの容姿も相まって物語の登場人物である様な錯覚に陥る。
「頑張れ!お兄ちゃん!」
「いけるぞ!にいちゃん!」
「頑張って!アーサー様!」
次々と観客達が呼応してアーサーに声援を送る。
その中にはいつもアーサーの周りにいる女性達の声もあった。
観客席のテオ達は会場のアーサーコールに少し焦る。
「おい、これじゃジンが悪者みたいじゃないか」
「ジン様」
リナリーの事はあれど、この中で唯一アーサーを応援するノアのためにジンが戦っているなど誰も知る由もありはしない。
アーサーは自分への歓声に驚きはしたがすぐに受け入れる。
(そうだ、俺は主人公なんだ、ここまで良いようにされたのは神がこの状況を作るためか)
「うああああああああああ!」
アーサーが大声を上げて立ち上がると同時に大きな歓声が起こる。
「まだまだ、こっからだ」
ジンを睨みつけてそういうアーサーだが、ジンは無表情でそれを見つめ返すのだった。
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