第152話 密会
ロイがジン達を見送って一日が経過していた。
「退屈そうだね」
現在、ロイは城の自室にてエルと談笑していた。
「そんなことはない」
「そんなことはあるだろう?昨日からずっと上の空だよ?」
「む、そうか......すまん」
「別に責めてるわけじゃないさ、まぁでも今は切り替えて、土産話を楽しみに僕たちの出来る事をやろう」
「その通りだな」
ロイは気持ちを切り替えようと、目の前にある紅茶を口に含んだところでドアがノックされる。
「どうした」
「殿下、お客様がお見えです」
「そうか」
ロイはセバスの言葉にエルと視線を交わすと立ち上がる。
ドアが開きセバスが一礼する。
ロイがドアの前に立つセバスに近づき小声でささやく。
「どこに通した」
「仰せの部屋に」
「わかった」
それだけ交わすと三人は迷いなく客が通されたという部屋に向かう。
そこは径の間と呼ばれ、ロイが十一才の誕生日の時にプレゼントとしてディノケイドにねだった隠し部屋で、その存在を知るのは限られた者だけだった。
その部屋は何もない廊下のど真ん中にあり、セバスが廊下に飾られた騎士の甲冑の右手の小手を回すと岩が擦れ合う音と共にドアが現れる。
「よくもまぁこんな堂々としたところに隠し部屋を作るよね」
「元々この廊下はどこに行くにも遠回りで人通りが少ないし、隠し部屋を作ったというより元々ある部屋を隠しただけだからな」
「にしてもでしょ」
エルとロイの会話を聞きながらセバスがドアをノックした後、ドアを開ける。
「お待たせ致しました」
そう言ってセバスが入室するので、ロイとエルも後に続く。
すると部屋にある椅子から男が立ち上がりその場に跪く。
「ああ、礼はいい。話が聞きたい」
「はい」
顔を上げたのは、カーラード・ネチオスだった。
ロイが頷くとカーラードがいる対面の椅子に腰掛ける。ロイが腰掛けるのを見てからカーラードも椅子に座り直すと、不要と言われたが、挨拶から入る。
「お忙しいところ、恐れ要ります殿下」
「カーラード、それは嫌味にしか聞こえないぞ」
「「......」」
二人は数秒見つめ合う。
「「かはははは」」
そしてどちらか伴なく、笑い出しました。
「いや、すみませんな。急遽、呼び出された挙句に少し待たされました故、少し嫌味を言ってみました」
「俺に嫌味を言うのは、お前とジンとエルくらいだよ」
ロイがそう言うと、エルとカーラードが顔を合わせて、エルが両手を挙げて、目を瞑る。
「いいではありませんか、そういう友人は一生ものです」
カーラードがそう言うと真剣な顔になる。
「それで本日の要件」
そこまでロイが言ってカーラードに手で静止させられる。
「わかっとりますよ。昨日の件ですね」
「ああ、その通りだ。すまんな。お前を危険な役回りに」
「ええですわ。これが私の役目なのは重々承知しておりますから」
そう、カーラードはロイがドール陣営に送ったスパイなのである。
「それで、首尾は」
「上々と言ったところでしょう。伯爵家に口を聞いたのが大きかったですな。早々に諦めて方向転換した結果、信頼を勝ち取れました。ロイ殿下の言う通りになっておりますな」
「そうか。では俺が出した概算はどうだ」
「はい、そちらも一緒です。約三年。それがレオンが出した概算ですな」
「大方予想通りか」
「ただ」
「ただ?」
「ジン殿への干渉は続けると公言しておりました。それにウィンストンの倅もこれから標的になるやも知れません」
「そうか......わかった報告は」
「以上ですな。流石殿下と言ったところですか。面白いように言った通りの会合でしたよ」
「殆どエルが考えたことだ」
「ほお、それは感服致しました」
カーラードはエルの方を向いて頭を下げる。
「やめてください。恐れ多いです」
「ほほほ」
ロイは体を前屈みにして声を低くする。
「カーラードわかってると思うが」
「大丈夫ですよ。この老いぼれ引き際は心得ております」
「ならいい、また何か有れば頼む」
「御意」
これで今回の密会は終了して、カーラードが帰っていき、ロイとエルだけが部屋に残っていた。
「まさか、カーラードさんがこちらについてくれるとはね」
「心強い味方だ」
何故カーラードがロイ陣営についたのかをエルは知らないが、それがコールがロイに心酔するきっかけになったことだけは知っていたのだった。
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