第151話 悪意始動

「以上でロイストス殿下の陣営と言えるのは全てです」


「バスター侯爵、ありがとう。ですがやはり要注意と言えるのは侯爵家両家、レインフォース子爵、レーブン子爵、オオトリ伯爵でしょうな」


「だが俺たちの方には五代伯爵家殆どがつくのだろう?圧倒的じゃないか?」


「現状確定というわけではありません。そうだね?ダミアン君」


「はい」


 そこで話を振られたのはグスタフの横にいる青年だった。


「私は同年の友にジャーニー・ゼデン、ヴァンプ・オーセス、リチャード・テオンピースとおりまして、それぞれゼデン、オーセス、テオンピース伯爵家の嫡男です。彼らは卒業後すぐに領地と当主の座を継ぐことを現当主であるそれぞれの父親から確約を得ております。これはネチオス様からのご助言もあり進められました」


「いやいや、私は何もしていませんよ」


 腹に溜まった肉を上下させながらカーラードは笑う。そのカーラードに一回頭を下げてからダミアンは話を再開させる。


「現状、私達ノット家以外は中立という立場ですが、私の代が成人を迎えれば五代伯爵家、そのうちの四つが殿下の傘下に入ります」


「四つだと?」


「はい、唯一ウォレット家だけが先が見えません」


「ウォレット......イーサンの家か」


「はい、殿下とはクラスメイトでもあるイーサン・ウォレットの実家です。そしてイーサン・ウォレットは」


「ジンの友人」


「はい」


「なるほどな」


「ですが、イーサン・ウォレットはウォレット伯爵家次男です。家を継ぐことはありません。であればそこまで重要視する必要もないでしょう。これから先、大局を見ることが出来る貴族で有ればロイストス殿下の船は泥舟です。まず間違いなくドール殿下に着くと私は考えております」


「なるほど、だから現状......というわけか」


「はい」


「ふははは、なんだグスタフ、貴様の息子は貴様より切れ物じゃないか」


 ご機嫌でそう言うドールにグスタフは浅く頭を下げる。


「まぁ、そう言うことです。つまり我々の戦力が最大になるのは少なくても二年後ということです」


 レオンのこの言葉にダミアンの話で機嫌の良かったドールは一気に機嫌が悪くなる。


「二年だと!?」


「はい」


「二年も私に待てと言うのか!?」


 ドールは椅子から勢いよく立ち上がりレオンを睨みつけて言う。


「いえ、二年ではありません」


「なんだ......それならそうと早く言え、驚いて損したぞ」


 ドールは席に座り直しながらそう言うと次のレオンの言葉にまたしても席から立ち上がる。


「殿下には三年待って頂きたい」


「なに!?」


「三年、待って頂きたい」


「貴様!事と次第によってはわかっているのだろうな!?」


「はい、理由をご説明します。まず、我々にあって彼方にない物があります」


「俺たちにあって、兄上にない物だと?」


「はい、それはネチオス殿の資金力です」


 そこで全員の視線がネチオスに向く。


「ネチオス殿は多くの商会の縁がございます。その中でも市制会とは強固な縁がございます」


 ネチオスはレオンの話に先程とは違い静かに頷く。


「であるなら、時間は我々の味方です。準備期間が長ければ長いほど金銭面での差は大きく出ます。武力で取るとなれば尚の事です。さらに言えば先程ダミアン君が言ったように現状ではまだ彼方の方が勢力としては上です。我々の勢力が彼方に追いつくにはダミアン君達次世代の力は必須と言ってもいい。そして最後に殿下のご年齢です」


「年齢だと?」


「我々が順当に事を成し、殿下が王位につかれるというところまで行って、足元を掬われるのは殿下も本意ではないでしょう。ならば殿下の成人を待って事を成すのが最善と私は考えています」


「俺が成人.......つまり学園を卒業する三年後ということか」


「その通りです。そのためにここから一年半、我々は着々と準備を進め、最後の一年で彼方とは絶大な差をつけてことを成す。それが三年という猶予を頂く理由です」


「だが、だがな!その間にリナリーはずっと奴の婚約者だ!何か有ればどうするつもりだ」


「その心配は杞憂でしょう」


「なに?」


「リナリー様は侯爵家の令嬢、結婚するその日まで何かあることはありません」


「なぜそう言える!」


「それは、そんな事が社交界で露見するようなことが有ればジン・オオトリ、ひいてはオオトリ家の信用問題になります。そんなリスクをあのジン・オオトリは取らないでしょう」


「だがな!」


「殿下の仰ることもわかります。ですのでこの三年、何も黙っているという話ではありません。ジン・オオトリがロイストス殿下の側に居れなくなれば此方としてもそんなありがたい話はないですから」


「どう言う事だ」


「つまり、最終的に動き出すのが三年後ではありますが、それまで黙ってロイストス殿下達の準備を指を加えて見ている気はございません。それにジン・オオトリは目下我々の最大の脅威になり得る男です。尚の事放って置くのは愚策中の愚策」


「周りくどい!つまりどう言うことかはっきり言え!」


「つまり、彼には早めに退場していただくのが我々と殿下の総意という事です」


 ここまでレオンが言えば流石のドールも理解した。つまりこれからも先の件のように何かとジンに仕掛けるという話だった。


「くははは、そう言うことか......よし!わかった!テングラム侯爵、貴様にこの計画の全てを一任する!」


「ありがとうございます」


「くは、くははは!今に見ていろ成り上がり風情が!俺に盾付き、俺のリナリーを奪った罪、思い知らせてやる」


 こうして、ジン達が未来のために動き出した、その時を同じくして、ドール達も本格的に動き出したのだった。

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