第150話 入国
ジンたちがホイル王国に入国する関所には多くの商人たちの列で関所が賑わっていた。
「これはすごいな」
「日輪祭は火王祭と一緒で約三ヶ月殆ど休み無く行われて、しかも地方にいる貴族や領民が王都に集中するからな、商人も書き入れ時なんだろ」
「なるほどな」
しばらくしてジンたちの番が回ってきて、御者がジンたちの身分を示す紙を関所の兵に見せる。
「これは!遥々隣国からの長旅お疲れ様です。どうぞ」
ジン達は特に何事もなく関所を潜る。するとすぐに身分の高そうな少し白髪の混じった年配の男が馬車の前に歩み出る。
馬車が止まり、歩み出た男が一礼する。
「ようこそ、ホイル王国へ、私は皆さまの案内を任されております。テズーム・ディープスと申します」
テズームは一番最初にリナリーに一礼してそれからジン達に頭を下げる。
「リナリー・フォルムです」
リナリーから始まり全員が自己紹介を終えると、よろしくお願いしますと締めくくる。
「それでは、ご案内します。本日のご予定はお聞きになっておりますか?」
「いえ、国からは彼方に着き次第迎えがあるとだけ」
「左様ですか、では向かいながらご説明しましょう。御者の方はここまでで結構です。ここからはこちらでご用意しておりますので」
「承知しました」
おそらくしっかりと話が通されているのだろう。御者はすぐにその言葉を聞き入れる。
ジンも王国兵である御者の男がすぐに受け入れたのでテズームと名乗った男を信用する。
「それではどうぞこちらに」
テズームが手で示した馬車のはしっかりと家紋が入っており、ジンにはわからなかったが、そう言ったことに詳しいリナリーが何も言わないので警戒は怠ることなく、馬車に乗り込む。
「リナリー」
「大丈夫です。ディープス子爵家の家紋もありますし、間違いないでしょう」
「そうか」
「ほほほ、大丈夫ですよ」
「すみません」
どうやらジンの声が聞こえたらしく、テズームはジンに笑みを向ける。
「構いませんよ。何も聞いていないのであれば仕方がありません。逆にここで何も疑わずに着いてくるような方達で有ればもっと多くの護衛がつけられていたでしょう」
ジン達が御者以外の兵を連れずにきたのは、多くの兵を連れて目立つよりも、最低限の人数でなるべく早くホイル王国に着くようにというロイとジン、キリルで話し合った結果だが、一行にジンがいたのも大きかった。
「それでは、出発いたします」
テズームがそう言うと馬車がゆっくりと動き出した。
「本日はこの後王宮に来ていただき、王に謁見していただきます」
「はい」
リナリーは動じる事なく頷くとテズームは少しだけ驚いたが、顔に出す事なく話を進める。
「それが終わりましたら、夜に皆さまを歓迎するパーティーが開かれます。主役は学生達なので我々大人は最低限しか参加しておりませんので、気を張らずに出席していただければと思います」
「承知しました」
「以上が今日のご予定となっております。何かご質問はありますでしょうか?」
「えっと、俺たちの服なんだが」
「それはこちらでご用意しておりますので、ご安心ください」
イーサンの質問にすぐに答えたテズームにイーサンは頷く。
ジン達はあまり服を持ってきておらず、増してやパーティー用や謁見用などは持ってきていなかった。
「イーサンくん正装を持ってきていないの?」
「え?ああ」
「もう!殿下が言ってたじゃない、正装は1着は持って行けって」
「......本当か?」
「ええ」
イーサンがノアに確認するとノアも頷く。
「ジン」
「......俺たちはもう少し人の話を聞くべきなんだろうな」
「まさかジン様まで、はぁ」
リナリーの反応に、テズームが思わずと言ったふうに吹き出してところで、馬車が止まる。
「おっと、どうやら城についたようですな」
「申し訳ありません。テズーム様」
「いいのですよ。私の若い頃を見ているようで、ほほほ、男の子ですから」
「ありがとうございます」
ジンもリナリーに習ってすみませんと頭を下げるのだった。
時は少し戻り、ジン達が出発した二日が経った頃、ドールはテングラムの屋敷でふんぞり返っていた。
ドールの前に紅茶が置かれるが、ドールがそれを飲むことはなく、足を組み替える。
「おい、いつまで俺を待たす気だ」
「申し訳ありません。一組遅れておりまして」
ドールにそう返すのは家の主であるレオン・テングラムだ。その横には息子のグライズも立っている。
「まぁまぁ、そうかっかなされるな。そう急かさんでも時間はありましょう」
真っ白の顎髭を手で摩りながら、ドールにそう言うのは年配で腹には脂肪をたっぷりとつけた男性だった。
「貴様、誰に物を言っているカーラード」
ドールにそう言われたのがカーラード・ネチオス。
五代伯爵家の一角を担う名家だ。
そしてその横にはコールが立っていた。
「それに貴様は信用できん。お前の息子とはクラスメイトでな、よく兄の話をしているのを聞いているぞ」
「ほほほ、そうおっしゃいますな。これも今日この場に来ることに了承してきているのです」
「はっ!どこまで本気かわかった物ではないわ」
「お二人ともそのあたりにしておきましょう」
二人の会話に入ったのはゲイツだった。
「ふん」
ドールはゲイツの顔を見てその矛を収める。
ゲイツの隣にはゾールが立っていた。
「それより貴様のところは次男か」
「申し訳ありません。長男には領地をもう任せておりますので、本日には間に合わず」
「そうか、まぁよかろう」
ドールがまたしてもふんぞり返るとドアがノックされる。
「グスタフ・ノット様並びに、ダミアン・ノット様がご到着なされました」
「通せ」
それから暫くするとドアが開き二人の男が入ってくる。
一人はまるで獣のような容姿と体格の男とその男を若くしたような男が入ってくる。
「グスタフ・ノット、ただいま到着した。殿下お待たせして申し訳ありません」
「遅い、俺を待たせるとはいいご身分だな」
「申し訳ありません」
グスタフとダミアンが頭を下げる。
「ふん、まぁいい、これで揃ったか?」
「はい」
ドールの問いにレオンが頷く。
ダミアンがひとつだけ空いている椅子に腰かけるのを確認してレオンが喋り始める。
「それではまず、皆、忙しい中集まってもらったこと感謝を、まず初めに聞いておかねばならぬことがある。今回ここに集まってもらったのはドール殿下の下につく者と見て相違ないか?」
レオンの言葉にドール以外が頷くのを見てレオンも頷き返す。
「では、確認も取れたところで本題に入る。皆もわかっていると思うが、今回集まってもらったのは王位継承争いの件で話して置く事がある。現状我々とロイ殿下との力は拮抗している。そこでこの先、王位継承争いを有利に進めていく案を募りたい。私もいくつか考えているが、念には念を入れておきたい」
レオンがそこまで言うとグスタフが手をあげる。レオンは目で発言の許可を出すとグスタフが立ち上がる。
「悪いが、俺にそう言った物はない。俺は戦場でしか機能しないと思え」
そう言うとグスタフは席に座り直す。グスタフの言い様は侯爵家に対して中々に不遜な物いいであるが、二人は旧知の中であるためレオンもそれは容認していた。
それに元々グスタフにその手の話で期待などしていない、グスタフは戦場で輝く存在であることはレオンが一番理解していた。
「では、よろしいでしょうか」
そう言いながらドールを見て手を上げたのはゲイツだった。
「許可する」
ドールがそう言うとゲイツが立ち上がる。
「ひとまずは目下最大の脅威となる敵陣営を挙げていってはいかかでしょう?」
「なに?」
ドールの不機嫌そうなその返答にゲイツは少し焦りながらわけを話す。
「まずは敵の要点を押さえるは戦略の基本です。ロイ殿下陣営と大きく括るよりロイ陣営の誰とわかっていた方が後にも何かと役に立つかと」
ドールがレオンに目でこの発言の重要性を確かめるとレオンが頷くのでドールも許可を出す。
「よかろう」
「ありがとうございます!それではまずロイ殿下本人でしょう、神童といわれ民にも信頼が厚い。ですが現状そこまでの脅威は無いでしょう。それよりも脅威なのは」
「オルガ侯爵家とフォルム侯爵家でしょうな」
そこで話に入ってきたのはカーラードだった。
「陛下はこの話に口を出す事は無いと言える。そうなると現丞相と外交大臣を務める両家はロイ殿下の後ろ盾と言っていい。ドール殿下にテングラム殿とバスター殿がついているように彼方にも侯爵家が二つ付いております」
ゲイツは話を横取りされたことに不快感を見せるが、すぐにそれを隠す。
「それとやはりレーブンとレインフォースが大きいでしょうな」
「あのじじいか」
ドールは嫌なことを思い出して爪を噛む。
「そうですね。そしてなんといっても厄介なのは」
テングラムがそう言うとネチオス、バスター、ノット家全員が口を揃えて一つの貴族名前を出す。
「「「オオトリ家」」」
「ええ」
オオトリ家の名前が出た途端、一室にどす黒い何かが充満するのではないかと思うくらい空気が重くなる。
その空気を発しているのは、ドール、コール、バスター家の二人とこの部屋のほぼ半数がその空気を放っていた。
その空気を気にせずにレオンが話を再開する。
「私はフォルムやオルガよりも危険視しているのはオオトリ伯爵家です。当主のジゲンも厄介ですが、やはりジン・オオトリ。あれはすでにロイ殿下の剣と言っていいでしょう」
ジンの名前を出した瞬間さらに空気は悪化するが、レオンは何も気にしなかった。
「さて、まだ要注意人物はおります。しっかりと洗い出しておきましょう」
レオンは本当に何も気にすることなく話の続きをしようとそう提案するのだった。
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