第139話 協力

 ジンは教室を出て廊下の人通りが少ないところで頭を下げる。


「すまん。ちょっと大事になった」


「ジン様のせいではありません」


「そうです。元はと言えば私のせいですから」


「ノアのせいでもありません!」


 リナリーは少ししょんぼりする二人にそう言って頬を膨らませる。その姿が愛らしく、二人は顔を見合わせて笑ってしまうが、ノアは少し笑って真剣な顔になる。


「アーサー様には私がしっかりとお伝えします」


「ノア......」


 心配そうに名前を呼ぶリナリーとジンも内心は一緒だった。

 ノアをアーサーと二人きりにすることはジンも抵抗があったのだ。


「大丈夫です。心配には及びません」


「ノアの気持ちは尊重したいのは山々だけど、やっぱり二人きりというのは少し心配だ。けど俺がいると話がややこしくなるしなぁ」


 ジンはアーサーの性格上、そばにジンがいれば反発してくるのは目に見えていた。


「大丈夫です。私だってジン様に守られてばかりの女になる気はありません!」


 ノアの強い瞳にジンは頷くしかなかった。

 三人が教室に戻ろうという雰囲気になった時、ジンは肩を叩かれて振り返る。


「ロイ?」


「よう、数日ぶりだな。お二方も」


 リナリーとノアは綺麗に会釈をする。


「少し、これを借りていいか?」


 ロイはそんな二人にジンを借りていいか尋ねると二人はにこやかに頷くと先に戻っていますと言って教室へと向かった。


「どうした?」


「まぁここじゃなんだ、ついて来い」


「いや、もう授業が始まるぞ?」


「ああ、教師には俺から伝えてある。一時間目はお前を生徒会の用で借りるとな」


「生徒会?何かあったのか?」


「口実だ。放課後でも良かったんだが、できるだけ早く伝えておこうと思ってな。今日中に何か仕掛けてくることは無いとは思うが、前回は油断が招いた節も否めんからな」


「なるほど」


 ここまで聞けばジンも、話の内容が情勢のことであることは把握して、大人しくロイの後に続く。

 二人は生徒会室に入ると、エルが二人に気づき手を振って歓迎する。


「お久しぶりです。エル先輩」


「やぁ、ジン君。いろいろと大変だったね」


「全くです」


 はははと邪気のない笑みにジンの心は暖かくなる。


「ジン座れ。早速話を始めたい」


「ずいぶん急かすな」


「そうも言ってられないからね」


 エルは優しそうな笑みを少し真剣な物にしてそう言うので、ジンも大人しく座る。


「そんな大きな話なのか?」


「まぁ、俺はそこまで気にしてはいないが」


 そう言ってロイがエルの方に視線を向けるので自然とジンもそちらを向く。


「はぁ、ロイは現状を楽観視しすぎだよ。確かに過度な反応をするほどでもないけど、対策、もしくは共有しておくことに越したことはないと思うよ」


 エルの言うことはごもっともだったためジンはなにも言わず二人の話を聞く。


「ジン君は忙しくてそれどころじゃ無かったと思うから一から説明するね」


「すみません」


「気にしないでくれ、それもこれも、そこの考えなしがあまりに敵を甘く見た結果だからね」


「うぐっ」


「さて、それじゃあまずは、現状の僕たちの情勢についてだけど、今回の件で我々についていた貴族の半分近くは離れていった」


「え!?」


 ジンはエルの言葉に衝撃を受ける。


「まぁ、それは仕方ないね。貴族社会では生きていけないと見限られた女の子をロイの後ろ盾で相当無理をして存続させたわけだからね」


「ってことは......」


 つまりそうなっている現状はジンのせいと言うことになる。

 ジンがそう思うのをわかっていたエルはすぐに話の続きを話す。


「ああ、これはジン君を責めてるわけじゃない。おそらく今回のことがなくても離れていった貴族がいるからね。これを期に、不穏分子を排除できたのも大きい」


「不穏分子?」


「簡単に言っちゃうと僕たちとは相容れない貴族かな?」


「はあ」


「だからまぁ、離れていったものをは別に構わないんだ。問題は離れていった貴族が彼方側に流れたってことだね。確かに有力と呼ばれる貴族は拮抗したままだけど、中小を合わせれば断然彼方が有利になった」


「つまり」


「数の理を取られたってことだね」


「それってだいぶ不味いんじゃ」


「ほれ見ろ、ジンが心配しているじゃないか」


「ははは、大丈夫だよ。おそらく武力的な話になれば恐らくこちらがまだ有利だ。けれど今回のテングラムの用意周到さは侮れないと僕は思ってね、ジン君にも共有しておこうって話をしたんだ」


「なるほど」


「それと今日君をロイに呼んで貰ったのはもう一つ理由があってね。ジン君には一つ協力してほしいことがあるんだ」


「協力?」


「一ヶ月後、火王祭があるのは知ってるよね?」


「ええ」


「それと丸かぶりで隣国であるホイル王国との交換留学が計画されてる。それに立候補してほしいんだ」


「エル、初耳だぞ」


 どうやらこの話はロイの聞いていなかったらしく少し前屈みで机に体重を預ける。


「交換留学があるかも知れないとキリル様と少しお話はしましたが、こんなに早く決まるとは......その理由を聞いても?」


「この留学で、ホイルの第一王子である、レーダス王子一行来る予定になっていて、ロイとは旧友の中だ」


 ロイは何も言わずにエルの話を聞いている。


「これからのことをレーダス王子ともすり合わせる必要があるから渡に船ではあるんだけど、こちら側から留学させる生徒の選別は生徒会に任されることになった。ここで下手に生徒を選ぶより身内に行って貰えれば安心できるって話さ」


「エル、俺は聞いていなぞ?」


「ロイが聞いたら反対するだろ?ジン君大好きだもんね」


「そ、そういう話ではないだろう!」


「三ヶ月、火王祭が終わるまでだけど頼まれてくれないかい?」


「......現状ノアに目の届かないところへ行くと言うのは避けたいのですが」


「それなら問題ない。君が受けてくれるならノア・セレーネとリナリー・フォルム、それとイーサン・ウォレットを留学生として送る予定だ」


「人選の選定は?」


「こちらに火王祭があるように彼方にも日輪祭という、まぁ趣旨は火王祭と同じものがあってね、レーダス王子の付き添いが婚約者とレーダス王子の騎士とその婚約者って言う面々だからねちょうど男子2名、女子2名と都合がいいんだ」


「そうですか」


 ジンはエルの話を最後まで聞くとしばらく考えてから答えを出す。



「わかりました。お受けします」


「ジン」


「ロイは知ってるだろうが治癒魔法とか言うのも気になってたし、俺と別の奴を送ってそれがテングラムと繋がってたら目も当てられないしな、そうなってくると現状この国にノアを置いていくのは嫌だったが、一緒なら断る理由もなくなる」


「だがな」


「まぁ、任せろ。あっちで評価を少しでも上げることができればもう少しお前の負担も減らせるだろう?」


「.......わかった」


 こうして、ジンの留学が決定したのだった。

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