第130話 到着

 ジンとイーサンはいつも演習場で行っている走り込みとは別格のスピードで騎士団の後を追っていた。

 イーサンはジンについていくのでやっとだった。


「スピード落とすか?」


「はぁはぁ、いや大丈夫だ、まだついて行ける」


「着いてからバテましたじゃ、笑い物だぞ?」


「わかってる、大丈夫だ」


 ジンはそう言うイーサンを尊重とは聞こえがいいが個人的に急いでいるのもあって変わらず進み続ける。

 そのまま進むこと数十分、いつからか剣と剣がぶつかり合う金属音と男達の怒号が聞こえて来た。


「近いな」


 そう言うとジンが急に止まったので、イーサンも慌てて止まる。


「このまま進めば騎士団と合流できるだろう。俺はそこを駆け抜けて一刻も早くノア嬢を助け出しに行く。イーサンは騎士団と合流してそこからは騎士団の指揮下に入れ」


「俺では、そこから先は足手纏いってことか?」


「ああ」


 ジンはイーサンの言葉に即座に頷くと前を向く。


「いくぞ」


 イーサンはジンが言ったことが事実であることに悔しさが湧き出すが、自分の実力も分かっているので前を向いて頷いた。

 ジンとイーサンが再び動き出して数分行くと、騎士団と盗賊が殺し合いをしている所に到着した。

 その場は一面血の海と化していて至るところに遺体が転がっていた。

 イーサンはその光景に固まるがジンの声で正気を取り戻す。


「いくぞ!まずはエドラ小隊長を探す。ついて来い」


 ジンは言うが早いかもう走り出していた。そのあとをイーサンが慌てて追う。

 ジンは一瞬で乱戦と化している一団に斬り込むと盗賊を数人輪切りにして命を断つ。

 ジンの登場に騎士団の騎士は一瞬固まるが、それがジンだとわかるとまたすぐに目の前の敵に集中する。

 まさに混戦。イーサンはジンがいなかったら今ここが前か後ろかもわからなくなりそうだった。

 ジンは最初と変わらず突き進む中、一瞬その手を止めると方向転換する。イーサンは方向転換したジンになんとか食い付きながらついていく。

 ジンが苦戦している騎士と盗賊の間に入り、盗賊を屠ると、その場に止まる。


「ジン君!」


「エドラ小隊長、加勢しに来ました」


「なにを言ってるんだ!君は重症だろう!?ここは私たちに任せて今すぐ引き返しなさい!」


「そうも言ってられません。自分はこの先に用がありますから」

 

 ジンは迫る盗賊を見ることすらせずに斬り伏せるとそう言う。

 エドラはジンの実力が一生徒として規格外であることはわかっていたが、ジンが生徒であり、ましてや重症を負っていることも知っているので認めるわけにはいかなかった。


「だがな!」


「言い争ってる暇はありません。見たところ現状優勢ですし、私はこのまま進みます。イーサンを置いていくので使ってください」


「なに?」


 そこで初めてエドラの視線がイーサンに向く。


「君まできたのか?」


「ジンの許可は降りてます」


 エドラはジンに視線を戻すと少しだけ目が細くなる。


「大丈夫です。イーサンなら問題ありません。それより話ではアーサーもいると聞いていましたけど姿が見当たりませんが?」


「彼なら、私の言葉を聞かず一人で勝手に進んだよ」


「この混戦をですか?」


「それが不思議なことに盗賊達はアーサーに危害を加える様子を見せなかった。ほとんど素通りで彼は進んだよ」


「素通り......」


 ジンは特に根拠などはなかったが、非常に嫌な予感がしたのですぐに動き出す決断をする。


「それでは、私が追います。イーサン、死んだら墓の前で笑ってやるからな」


「心得た」


「心得るな、無理だけはするな。頼むぞ」


 イーサンは頷くのを見てジンは洞窟の入り口に視線を送る。


「それではエドラ小隊長、ご武運を」


 そう言うとジンは走り出してしまう。


「ちょっと待ちなさい!まだ話は、ああ!だから子供は嫌なんだ!イーサン!君は私の背後を任せる。もう私は嫌だ!君が死んだら私も死ぬ!いいな!」


 ほとんどキャラ崩壊に近い形でエドラが叫ぶとイーサンは決意に満ちた表情で頷く。


「心得た」


 ジンは迫る盗賊を次々に屠ると一瞬でミシェルが見えたところまで到達する。


「ミシェル!」


「隊長!」


「心配かけた、俺がノア嬢を救出しに行く。だから急がずここを殲滅しろ」


 明らかにミシェルは騎士団よりも突出した場所にいたのでジンが注意する。


「それにお前は救護兵だろう!それが一番前線にいるのはおかしいぞ!」


「あれ?本当だ。気付きませんでした!」


「全く.......」


 ジンは最近知ったのだが、ミシェルは救護兵としての修行とは別にルイに剣の稽古をつけて貰っていたらしいのだが、それはもう才能を開花させ、二年前とは別格に強くなった。その弊害か最近ガオンが無茶をすることが多いと小言を漏らしていたほどだった。


「もう少し前線を下げろ。それとお前の本分は救護だ。軽傷しか見ていないがこれから先は分からん」


「了解しました!」


 ミシェルは敵を斬りながら器用に敬礼すると回れ右をして下がって行く。

 それを確認したジンは止まった足を再び動きだして、とうとう洞窟へと侵攻した。

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