第128話 傍迷惑な主人公

 ジンがテントから出るとテオ達が集まってくる。


「ジン!」


「もう大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ、そんな心配するなって」


 イーサンはジンが帯刀していることに気づく。


「ジン、行くのか」


「ああ」


 イーサンはジンなら目を覚ませば動くだろうとは思っていた。それに伴い考えていたことをジンに言う。


「俺も行く」


「ダメだ」


「ジン」


「悪いが今回誰も連れて行くことはできない。俺は青龍の中隊長って言う肩書があるから追跡できるがお前には王立学園の生徒って肩書しかない。今回一緒に連れて行く事はできない」


「それでも!」


 イーサンが珍しく大きな声を出すので周りは少し驚く。


「それでもなにも出来なかった!何一つだ!俺はお前の隣に立つと大口を叩いて置きながら!いざ実戦になれば何も出来ずにお前や、騎士団を見ていただけだ!」


 ジンはイーサンの叫びを静かに聞く。


「必ず役に立って見せる!頼む!」


「それもまた経験だ。これは初陣でもねーんだ。お前はまだ生徒であって騎士じゃねー、気にするなとは言わない。だけどそこまで思い詰める必要もないだろう?何も考えず突っ込むどっかのバカより余程冷静だったと思うぞ」


「それでも!」


「それでもお前が来るなら俺は止めねー」


「......ジン」


「いいかイーサン。俺の横に立つと言うなら、俺に守られる存在になるな。俺は俺の横にいてくれる奴を守る気はない」


 イーサンはジンの言葉の意味を全ては理解できなかったが、ジンが連れて行ってくれるならなんでもよかった。


「わかった」


「本当かよ?まぁいいか、それじゃ後のことはファンさん任せた」


 イーサンは準備をしにテントへと駆け込んで行く。


「ちょっとお待ちなさい!」


「あ?」

 

 ジンは割と急いでいたため言葉に圧が乗る。


「あなたが言っていたバカとはアーサー様のことでしょうか?」


 ジンとドンファンの間に入って来たのはアーサーの周りにいるステラ・ノットである。

 ジンは面倒くさそうにため息をついて口を開く。


「その話は後だ、今は一刻を争う。お前に構ってる暇はねーんだ」


 ジンはだるそうに遇らうと、おそらく騎士達が進行したであろう足跡の先に視線を送る。


「何て口の利き方ですか!私がノット伯爵家の者であると知っての言い草ですか!?」


「黙れ。状況を考えろ。もうすでに死人が出てるんだぞ?」


 ジンの凄みにステラは短い悲鳴を上げて黙る。


「ジン様」


「う、すまん」


 リナリーに目で制されジンが謝罪を口にするとイーサンがテントから出てくる。


「大丈夫だ」


「よし、それじゃ改めて、ファンさんあとは頼みます」


「ええ、ちゃんと帰ってくるのよ」


「はい。リナリー、行ってくる」


「はい、ご武運を」


 ジンは頷くと最後にテオな目を向ける。


「テオ、リナリーを頼む」


「え?」


「頼む」


「わかった」


 テオの返事にジンは満足そうに頷くと腰を落とす。


「イーサン、ついてこいよ」


「ああ」


 イーサンが返事を返した瞬間ジンとイーサンは騎士団の後を追って走り出した。

 ジンとイーサンが出発したちょうどその頃、アーサーは茂みに隠れていた。

 アーサーが見ている先にはおそらくノアを攫った敵の本陣だと思われる洞窟を観察していた。

 洞窟の周りには明らかに盗賊と見られる風貌の男達が洞窟前に屯していた。突貫して行く事は簡単だったが、あの男と戦うなら余計な体力は使えないとアーサーは戦わないで潜入する方法を考えていたが、急に肩を掴まれて弾かれたように振り向く。

 アーサーが声を上げないように口元を押さえられた。

 後ろからアーサーを驚かしたのはエドラ小隊長だった。

 アーサーが落ち着いたのを見て口から手を離す。


「びっくりした」


「びっくりしたではない。君はわかっているのか?これは完全な命令無視だぞ?」


「それでも俺はノアを助けなければ!」


「それは私たちに任せてくれ。君は生徒だ!我々の命令には従ってもらおう」


「ノアは俺の助けを待っているんだ!俺は行かないと!」


「君が行って何になると言うんだ!」


「それは......」


「何も出来ないだろう?ならばここは大人しく引き返せ。これは命令だ」


「俺は......なんだ」


「なに?」


 アーサーの声が聞き取れずエドラは聞き返す。


「俺は主人公なんだ!ここで引くわけにはいかないんだ!」


 アーサーはそう叫ぶと茂みから飛び出る。


「待つんだ!」


 茂みから飛び出るアーサーを目視した、盗賊の見張りが叫ぶ。


「おいテメェら!お客さんがお越しだ」


「くそ!だから子供は!」


 次々と立ち上がる盗賊に、アーサーが茂みから出た事で気づかれたエドラ達も抗戦するために茂みから出る。

 アーサーから視線を自分に集めるためにエドラはわざと一歩前に出て声を張る。


「我々は白虎騎士団である。白虎騎士団の矜恃きょうじとして問うが、大人しく拘束される気はあるか?」


「バカがよ!あるわけねーだろ!」


「そう言ってくれるとありがたい。総員、殲滅せよ!」


「「「おお!」」」


 こうして盗賊と白虎騎士団がぶつかる。

 騎士団よりも先に飛び出していたアーサーはエドラが気を引いた瞬間に盗賊の視界から騎士団の一人として紛れた。

 何人かアーサーを拘束しようとしたがそれよりも先に盗賊が突っ込んできたためそれが叶わなかった。

 ぶつかり合う騎士団と盗賊はまさしく殺し合い。アーサーの今まで行って来た盗賊を拘束するやり方ではなく命を確実に奪う、討伐だった。

 アーサーは目の前で血を吹きだしながら倒れて行く騎士や盗賊を見て吐き気を催すが、なんとか我慢して、全員の間を抜けて洞窟を目指す。

 洞窟に近づくと目の前に3人の盗賊が立ちはだかる。


「まてや!ガキ!ここはてめぇみたいな坊ちゃんが来るとこじゃねーぞ?」


「おい、まてよ。コイツ......」


 一人の男がアーサーを見て殺気立つ盗賊仲間を止める。


「金髪に青目のガキ、頭が言ってたのコイツのことじゃねーか?」


「そういえばそんなこと言ってたな。じゃあコイツは通していいってことか?」


「ガキ、名前は」


「アーサー」


 男達は顔を見合わせるとアーサーに視線を戻す。


「おいガキ、お前は先に行っていい」


「なに?」


 アーサーは盗賊の男が言っている意味がわからずたじろぐ。


「いいから行けや、ここを真っ直ぐ行けば頭達がいるからよ」


「なんで俺だけ」


「知らねーよ、頭がそう言ったからだ。早く行け」


 アーサーはなぜかわからなかったが、あの男と戦う前にスタミナを温存できるならこの話に乗るべきだと考えて男達の横を通り過ぎる。

 この先で大きな選択が迫られることをアーサーはまだ知らない。

 この選択の先にアーサーが本当の主人公となれる未来もあったのかも知れないと後の考古学者は語ったのだった。

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