第125話 唐突
そして始まった遠征3日目、等々アッセンブルグ中隊は盗賊団の縄張りであろう森へと足を踏み入れた。
「総員警戒。これより何が起こってもいいようにしておけ」
「「「「「はい」」」」」
アッセンブルグの命令に他の騎士が返事を返す。
ジン達生徒は先程までとは明らかに違う緊張感に何人か戸惑っていた。だが、そんな事は一切構わず中隊は進軍する。
「っ!」
それから暫く進んでいた一団は先頭を歩くアッセンブルグが手を真横に伸ばした事で止まる。これは騎士団共通のハンドシグナルで止まれという意味なのだがジン以外知る者はいなかった。
そうでなくても賢い者なら恐らく盗賊団がいたと思うであろう。
止まった進軍に生徒達は少し戸惑うが、先頭のアッセンブルグに従って止まっている。
等々、ご対面かとジンが少し気持ちを入れ替えた瞬間、静寂を貫く声が森に響く。
「アッセンブルグさん!なぜ止まるんですか?」
「!?」
ジンは後ろからの大きな声に驚いて振り返る。そこには何も考えていないであろうアーサーの顔があり。しかもそんなアーサーにしがみついている女達というこの場にはあまり相応しくない状態にジンは呆れすら感じた。
ジンはアーサーのバカを見たあとすぐに前に視線を戻すと、まだ騎士の何人かはアーサーを驚いた顔で見ていたが、先頭のアッセンブルグだけは正面を向いていた。
そして、叫ぶ。
「総員!戦闘体制!生徒はジョンとマイケと救護兵団の二人は待機!他の者は私に続け!」
アッセンブルグが茂みから駆け出すとジョンとマイケと呼ばれた者以外がそれに続く。
その結果前がよく見えるようになった生徒達は現実を目の当たりにする。
「我々は誉高き、白虎騎士団である!貴様らどこの所属だ」
ジンが目にしたのは明らかに統制の取れた一段だった。
(盗賊団?)
ジンは疑問を抱いた瞬間だった。
ザシュッ!と大きな音がしたと思えばアッセンブルグの首と胴が離れ離れになった。
何が起きたか理解できない騎士達はアッセンブルグであった物がその場に倒れる様を眺めている。
大きな音を立てて甲冑を着た死体が伏すと血をべったりと付けた剣を肩に担いぎ、顔を隠すように布でぐるぐる巻きにした男が手前にいる騎士達を無視してこちらを見つめていた。
ジンは思考を加速させる。
(あれはやばい)
全身に鳴り響く警告音にジンは周りを一瞬で観察する。
何が起きたか理解している者を探したのだ。だが、この場にいる全員が何が起きたか理解できずに固まっているとジンは判断すると刀を抜いて駆け出す。
「総員!剣を抜け!青龍騎士団中隊長のジン・オオトリがこれより戦闘指揮を取る!」
ジンは叫びながら剣を肩に担いだ男の前に出ると足元にあるアッセンブルグだった物に一瞬視線を落とす。
(油断?いいや、そんな物していなかった。明らかにアッセンブルグさんは戦闘体制に入っていた。それを何もさせずに首を一刀両断だと?)
ジンは背中を伝う汗を意識から外すと、未だに呆然としている騎士に声を上げる。
アッセンブルグがいつもそばに置いていた騎士の名を呼ぶ。
「エドラ小隊長!騎士団の指揮はあなたに任せる!ファンさん!生徒を連れて撤退を!俺の小隊はファンさんに従うように!ガオン!あとは任せるぞ!」
ジンの張り上げた声に数人が正気を取り戻す。それと同時に未だにアッセンブルグの胴体から止めどなく出る血にやっと理解が追いついた女子生徒達から悲鳴が上がる。
「きゃああああ!」
その悲鳴を皮切りに現場が動き出す。
「総員!剣を抜け!」
エドラは正気を取り戻してそう叫ぶと騎士達がやっと剣を抜く。
状況を理解したのか騎士達は殺気だって剣を構える。
そして、ジンに名指しで呼ばれたドンファンもまた、行動を開始する。
「悲鳴はあとよ!女の子を中心に円陣!後退するわよ!」
ドンファンの指示に未だに状況の理解できていない生徒や、人が死んだことに錯乱する女子生徒を、ドンファン、ミシェル、そして騎士団の二人がなんとかまとめる。
そんな中一人だけ他とは別の思考をしていた。
「総員戦闘開始!」
エドラの言葉で白虎騎士団と統率の取れた謎の集団が激突する。
(数は五部、でもこいつがやべえ)
ジンの目の前で最初と変わらず仁王立ちしている男にジンの全身から冷や汗が吹き出していた。
(経験値が違う)
ジンも先の戦争を乗り越え、死地とも言える修羅場を幾つか潜ったが、目の前にいる男は明らかにそれ以上の修羅場を潜っているとわかった。
体から放つ強烈な血の匂い。
間合いの取り方。
隙があるようで全くないその佇まいは明らかに強者である。
ジンは刀に手を這わせると腰を落とす。その時男が喋り始めた。周りでは剣と剣がぶつかり合う音や男達の咆哮で騒然としているのだが、その男の声はよく通った。
「お前、名前......」
「ジン・オオトリだ」
ジンが名乗ったことで初めて男に変化が起きる。
笑ったのだ。
「エヘッエヘッ」
「何が面白い?」
「オデ、まりがえないで、ここ、来れた、嬉しい」
何を言っているのかわからないジンだが、そのあとの言葉は理解できた。
「お前、殺すの、難しい、でも後ろからくるやつ、オデ、殺せる」
ジンはその言葉で後ろを振り返ると、剣を二つ構えた男がこちらに突貫してくるのが目に入ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます