第123話 思考停止
「さて、それでは今回は白虎騎士団の方々に同行してもらうが、他にも同行して頂ける。お願いします」
「はい」
壇上に改めて登ったエドワードに全員の視線が集まり。エドワードの背後から壇上に上がった人物に騎士も生徒も目が釘付けになる。
それはまさに眉目秀麗を体現したような女性が立っていたからだ。
全員が黙り、思考を停止させる。
その場に静寂が流れるなか、ドールの「姉様」という呟きが広く音の反射もほとんど無い演習場で全員の耳に届いた。
(まじか)
ジンも全生徒同様目を丸くしていた。
ジンの周りには容姿の整った女性が多い、リナリーをはじめ、ルイやオウカ、セシルなども容姿で言えば可憐と言える。
それでも、サファイアの美しさに目を丸くする。
リナリーは確かにサファイアと並び評されるだけの美貌はあるが、まだどこか幼さを残している。
だが、サファイアのそれはまさに美。世の男がサファイアに求婚されれば土下座の一つや二つ余裕でするだろう。
幼少の頃に会って以来だったためジンはサファイアの顔をうろ覚えだったが、恐らくもう忘れる事はないだろう。
壇上に上がり終えたサファイアが一礼をして口を開く。
「皆さま、ご機嫌よう。本日からの遠征無事に皆さまが期間できるように祈っております。微力ながら救護兵団の兵士も同行させますので、どうかお気をつけて」
それだけの挨拶でサファイアは壇上から降りていくが全生徒、騎士の男の目にはサファイアという女性が一生忘れらなくなっただろうとジンは隣のイーサンとテオ、アーサーを見て思うのだった。
サファイアが壇上から降りると中徐に振り返るとジンと目が合う。
サファイアはジンに気づいたのだろう悪戯を思いついたように笑うとジンに向かってウインクした。
ジンの周りにた男性は全員が自分にされたと思い胸をギュッと抑える。
ジンは苦笑いをして少しだけ会釈をするとサファイアはジンの少し後ろに目を向けた後振り返って壇上を降りていくのだった。
ジンはなぜか後ろからの圧を感じて振り返るとリナリーがジンをじっと見つめていた。
「どうした?リナリー」
「いいえ、なんでもありません」
「なんでもなくはないだろう」
プイっとジンから顔を逸らすリナリーにジンは近づきながら訳を聞くがリナリーは話してくれなかった。
そのあとエドワードが最後の挨拶を言っていたが、誰一人として聞いていなかった。
出発するにあたって、救護兵団、通称女神軍の兵士が一個中隊に二人づつ配置された。
それはジンのいるアッセンブルグ中隊も変わらずで。
「ミシェルです!よろしくお願いします!」
これがジゲンの作戦だった。ガオンは影からジンやリナリーの安全を、ミシェルが表から同じように安全を確保するためにディノケイドの伝で女神軍を派遣したのだった。
そこに元女神軍であるミシェルを組み込むことで今回ミシェルの同行ができたというわけだった。
ジンはこの計画を知っていたのでミシェルに他と同じように初対面のように挨拶をする。
「おや?他の中隊は二人だったと思うが?」
「はい!えっと」
アッセンブルグに言われてミシェルが辺りを見回す。
「あ!ファンさん!こっちです」
探し人を見つけたのだろう皆の視線がそちらへ向いてジン以外の全員が固まる。
全員の最初の印象は岩だった。
ダリルほどの背丈に筋肉隆々の大男がこちらに近づいてくる.......女走りで。
「あらぁああん!ごめんなさいミシェルちゃん!少し礼儀のなってない坊やがいたからお仕置きしてたら惜しくなっちゃったわ!」
そのバッチリと化粧を施した容姿に全員の思考が先程とは違う意味で停止する。
ドンファンと呼ばれた大男がミシェルの隣に来るとミシェル以外を置いてけぼりにして自己紹介を始める。
「救護兵団、小隊長のドンファンよ!みんなはファンって呼んでね!よろしくね!」
バッチンと効果音すら聞こえてくるような完璧なウインクでそういうと、ドンファンが笑う。
「あーえーっと」
アッセンブルグはなんとか絞りだすようにかすれた声を上げるがそれ以上は続かなかった。
少し間が空いたがジンが最初に口を開く。
「お久しぶりです。ファンさん」
「あら!ジンちゃん!久しぶり!大きくなったわね!」
「お陰様で」
「おい、お前このバケ」
「ああぁ?」
「ひっ!いえ!あの!すみません」
「あら!ごめんなさい!何も言ってないのに私ったら反省、反省!」
ドンファンは何か言いかけたアーサーに凄んだあと舌をペロっと出しながら自分の頭をコツンと叩く。
「ジン君、か......のじょとは知り合いなのかな?」
「はい、父のお知り合いで少し面識があります」
ジンは二年前にガクゼンと修行を始めて二ヶ月ほどした頃ドンファンと会っている。
「ファンさんがいてくだされば千人力ですね」
「あらもう!ジンちゃんたら!口説いてもダメよ?私は年上しか興味ないから」
「ははは」
ジンはどこか懐かしさすら感じていたが、他の者は未だに呆然としていた。
「そ、そうか、私はアッセンブルグだ。今回この中隊の指揮を取る。あなた方にも私の指揮下に入ってもらうが問題ないな?」
アッセンブルグはなんとか正気を取り戻し、そう二人に伝える。
「はい!」
「ええ」
二人の返事にホッと胸を撫で下ろすアッセンブルグにジンはどこか苦労人なんだろうなと心の中で手を合わせるのだった。
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