第122話 遠征
それからジン達Sクラスはいつも通りの日常を過ごし、とうとう遠征日前日を迎えていた。
「よし、これで全小隊の役割立ち位置は確認した。明日は君たちが提出したこの遠征資料に基づき自分たちの分を弁えた行動を取るように。それと実践を許可された物は許可が降りただけであり勝手な行動などは絶対にするな。白虎騎士団の迷惑になる行動は控え、君たちの身になる遠征にする様に!以上!」
エドワードの言葉にクラス全員が返事を返して帰りの挨拶をして解散する。
いつもの面子がジンの周りに集まる。
「とうとう明日か」
「まぁ、そんな緊張することもないだろう。何かあっても俺が守るさ」
「イーサン、それは女性にかける言葉であって俺みたいな男にかける言葉じゃねーよ」
「む?」
「まぁ、イーサンとジンがいれば大抵のことは大丈夫だろうけどさ」
「あまり油断するなよ、俺たちは見学と言う名目だが行われるのは模擬戦じゃない殺し合いだ。何が起こるかわからないからな。イーサンもだぞ」
「ああ、肝に命ずる」
この場にいるジン以外の生徒で人が死ぬ様を見た人間はいない戦場とはどういう所かを想像することは容易いが、想像と現実では何もかもが違う。
そのことを言わないよりマシだとジンは二人に伝える。
ジンはリナリーとカナリアに顔を向けると笑いかける。
「安心していい。例え何があっても君たちの安全は俺が全てをかけて保証する」
その言葉にリナリーだけでなくカナリアまで少しドキッとする。
「イーサン、あれが正解だ」
「なるほど」
「しかもあれは計算じゃなく天然でやってるんだから救えねー」
「何か言ったかテオ」
「平民テオは何も言っておりません!ジンが天然垂らし野郎なんて一言も言っておりません!」
「この野郎、わかった。お前に何があっても俺は動かん。惨たらしく死ね」
「おい!それが友達にかける言葉か!」
そこで笑いが起こる。
いつもの軽口で明日への緊張を飛ばそうとするのだった。
そして迎えた遠征当日。
一年生全生徒、約150人が演習場に集まっていた。
ジン達も例に漏れずSクラスに指定された場所に集まっている。
「それではこれより本日の総指揮を取る白虎騎士団大聖騎士長であるグレスト・アッセンブルグ殿から挨拶がある。皆静粛に聞くように」
一年生全生徒の前でエドワードがいつもより通りのいい声でそう言うと年若いように見える少し厳ついが爽やかそうな雰囲気の男性がその後ろから今日のために設けられた壇上に上がる。
「若人諸君、おはよう。まず初めに今日君たちが目の当たりにする事はこれから君たちが志す未来の糧となり得ると断言しよう。そして君たちの安全は我々が責任を持って預かる。今日はよろしく頼む」
アッセンブルグが浅く頭を下げて挨拶が終了する。
「それでは各小隊長は私の元へ集まれ」
終わるとエドワードがEクラスから同行する小隊へと振り分けていく。
ジンもリナリー達に一言言ってエドワードの前の列に並ぶ。
予め、どこのクラスの正体と組むかはエドワード達教師陣が決めていてジン達はSクラスの小隊とEクラスの小隊の三個小隊で騎士団の二個小隊に組み込まれる事になった。
振り分けが行われている際、初の遠征で一年生全体に遠足のような浮ついた雰囲気が流れていたがジンはこれから行われるであろう事を知っているのでなんとなく可哀想にと心の中で拝む。
そしてジン達の順番になりエドワードが目の前に出る。
「ジン小隊はアーサー小隊とフィート小隊で動いてもらう。騎士団の方はアッセンブルグ小隊とそれに付属する小隊だ」
「はい」
ジンは返事をしながらアーサーのところと一緒だと言う話にげんなりするが、アッセンブルグと同じと言う事に少し驚くが何も言わなかった。
ジンはリナリー達のところに戻るとエドワードから言われたことをそのまま伝え、その場で待機していると、全ての小隊の振り分けが済み、騎士団が動き出す。
騎士団の兵士が各々決められた小隊の場所へ行き一言二言交わす。
ジン達の元へも先程挨拶をしているのを見ていたアッセンブルグがアーサー小隊とおそらくフィート小隊であろう生徒小隊を連れてやってくる。
「君たちの同行騎士であるアッセンブルグだ、よろしく」
「よろしくお願いします」
全員が挨拶をするとアッセンブルグはジンへと視線を向ける。
「君がジゲン殿の息子か」
「えっと、親父殿のお知り合いで?」
「知り合い?ははは、君のお父さんにはよくしごかれた物だよ」
豪快に笑う。それにジンは苦笑いで一緒に笑いながら謝る。
「親父殿がすみません」
「ははは、いや何今となってはいい思い出ではあるし、あれがなかったら今頃戦場の土になっていたとも思うからな、感謝しているほどだよ」
「そう言って頂けると」
「ははは、今日は期待している。君のは戦闘の許可が降りているがそれは自衛もしくは君の小隊が何かしら危機になり得るであろう状況と君が判断した場合だ。それ以外は我々に従ってもらういいかな?」
「はい」
「よろしい、もし我々が戦闘中手が離せないと君が判断したら小隊での指揮及び戦闘行為も許可する。いいね?」
「了解しました」
「さて、アーサー小隊の諸君はアーサー君は戦闘の許可が降りているが君の場合は私が許可した時のみの戦闘を許可する。フィート小隊のフィート君も同様だ」
「はい」
フィート小隊の小隊長である少年が返事をするが、アーサーは返事ではなく質問で返した。
「申し訳ありません。なぜ私はジンとは違うのでしょうか?」
「む?そうだな君は盗賊の討伐等関わった経験はあるかな?」
「二度ほどあります」
「ほう、その時の死傷者は?」
「出していません」
「盗賊側にもか?」
「はい」
「そうか......まぁいいだろう。それでは君に自衛もしくは小隊の危機になり得る状況での戦闘を認める。だが、小隊総指揮、及び小隊での戦闘行為はジン君に一任する。いいね?」
「ぐっ!わかりました」
何かが喉元まで出掛かったがアーサーはそれを飲み込んで頷く。
「さて他には、おお!ウォレット家のイーサンか?」
「ご無沙汰しております。アッセンブルグ殿」
「そうか、君もいたかなら君にもアーサー君同様の権限を与える」
「ありがとうございます」
「さてと、それではこれは全員に出された許可だが、自分の命が危ういと判断した場合咄嗟の判断での戦闘は許可する。その場合の確認などはいらないが、基本的には君たちはついてくるだけでいい。今回は戦闘はメインでは無いからね。わかったかな?」
「「「「はい」」」」
全員が頷くとアッセンブルグは満足そうに頷くのだった。
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