第120話 計画
ジンとリナリーが生徒会に入ったという話は瞬く間に学園に広がった。
リナリーの加入には何も言われなかったが、ジンの方はそうではなかった。生徒にも一部不満の声は出たが、一番は教師に何人か難色を示す者がいたことだろう。
特にレペレンスの抗議が激しかったが、ロイはそれを物ともせず無言を貫いた。
結果、ジンの生徒会入りは仕方なくというふうな形で受け入れられた。だが、正式な加入は遠征後という話に落ち着き、ジンとリナリーは今までと変わらない日常を過ごしていた。
「遠征も一週間後だけど、騎士団てどこが来るんだろう」
テオはジンの体力作りメニューである走り込みを終えて汗を拭いながらイーサンに話しかける。
「おそらく青龍騎士団だろう。去年は白虎騎士団だったからな」
「毎年違うの?」
「ああ、玄武以外の騎士団が年ごとにと兄から聞いた」
「そうなんだ、なんで玄武騎士団はこれに参加しないの?」
テオの最もな疑問にジンが会話に入る流れで答える。
「玄武は国防の要だからな。動かないだろ」
ベータル王国で一番格式が高いのは朱雀騎士団と思われがちだが、一番は玄武である。
玄武は国防の最終防衛を任された鉄壁の騎士団で鉄壁とはつまり守りに特化した騎士団だ。
その歴史は古く、それこそ二代前のベータル王の時代から玄武騎士団は存在しているのだった。
「じゃあ、ジゲン様に会えるのか!」
テオはジンの話をそこそこに気持ちが切り替わる。
「それもどうかな」
ジンは生徒会室でロイの現在の情勢を聞いた日も夜のことを思い出す。
帰宅してすぐに書斎に呼ばれたジンはルイの歓迎をそこそこに書斎に向かった。
ノックをして書斎に入ると、そこには全員揃っていた。
ジゲンがいつものように書斎の机に座りそれをそれを囲むように、ジャス、テンゼン、ダリル、ガオン、ミシェルがジンに目を向けていた。
「どうやら、ちょっと大ごとかな?」
ジンは後頭部をがしがしと掻いてジゲンの前に行く。
「来たか」
「ただいま」
ジンの挨拶にその場の全員がおかえりと返す。
「えっと今日は勢揃いだね」
「僕らも何も聞いてなくてね」
ジンはまさかオオトリ家の戦力がほとんど勢揃いしているとは思わず面をくらったが、テンゼン達もどうやらなぜここに集められたか、わかっていないらしい。
「これで全員揃ったな。今回お前らを集めたのは今後のオオトリ家についてだ」
「オオトリ家?」
「そうだ。まず説明して置かなければならん事がある」
「もしかして浮気がバレたとか?」
「ジン」
「う、ごめん」
ジゲンに目で制され、どうやら今回は真面目な話だとジンも理解する。
「一ヶ月後の学生を連れた遠征だが、急遽白虎騎士団にその任が移すという議題が上がっている」
「へぇ」
ジンは何となく今日ロイと話た事を思い出す。
「言い分としてはまだ体制が整っていない青龍ではなく白虎に任せる事が貴族の子供達を安全に引率できるという話だ」
「まぁ、建前だよね」
「だろうな。だが、おそらくこの話は通るだろう。わし達は反論できない言い分だからな」
「それで?それだけだったらこんな仰々しい感じにはならないでしょ?」
「そうだ、この件を話し合いに出して来たのがテングラムだったからな、ガオンに頼んで少し探って貰ったわけだ」
ジゲンがガオンに視線を移すとガオンが口を開く。
「テングラムと白虎は繋がっているのは間違い無いかと。けれど、今回ラージャ団長ではなく先の戦から副団長に新しくなったヴァーチェスって貴族です」
「なるほどね」
「これは確信だが、この遠征何かしらを仕掛けてくるだろう。そこで」
「待ってくれ親父殿、今回のことはドールとロイの後継者争いの延長になるってことだろ?なんで俺たち一年生なんだ?」
「それは俺から説明するよ」
ジンの疑問に答えたのはガオンだった。
「今回の遠征、テングラムとヴァーチェスが計画しているのはロイ殿下陣営の削りだと思われます」
「削り?」
「まだ白虎が引率に決まっていないのにも関わらず、ヴァーチェスの屋敷には遠征の編成が既にありました。その中身を持ち帰って来たのですが」
そう言うとガオンは紙を出す。
「親方様と確認したところ編成のほとんどが新兵で組まれていて、さらに言えば新兵でなくとも組まれた騎士のほとんどが選民派でない家の出の者でした」
「なるほどな、捨てるには持ってこいってか」
ダリルの言葉に皆が深刻な顔になる。
「それだけじゃない。一番やばいのはここからです」
ガオンは編成が書かれた紙から顔を上げるとジンの目を真っ直ぐ見つめる。
「おそらく、選民派に属していない家の子供はこの遠征命の危険があると思われます」
そう言うとガオンはまた新しい紙を取り出す。その場の全員がその紙を覗き込む。
「これは!?」
「はい、選民派でない貴族の子供達のリストです。時間がなくてここまでしか記憶できませんでしたが、間違いないでしょう」
「......」
ジンはことの深刻さに少し黙ってしまう。
「いいか、これよりオオトリ家は全面的にテングラムと選民派に敵対する。これはジンがロイ殿下に付くからではない。奴らがやろうとしていることが国を揺るがしかねないことだからだ。はじめにこの計画を潰す」
ジゲンの言葉に皆の目つきが変わる。
「今回、わしとジャスはもちろんテンゼンとダリルは現場で何か起こらない限り動けん。そこでガオンには影から、ジンは現場での敵の動きに注視して、動きがあったら時間を稼げ、そうすればわしらが動けるからな」
「あのぉ、私は?」
ここで唯一、名前を呼ばれていないミシェルが手を上げる。
「ミシェルだが......」
そこまで思い出してジンは現実に戻ってくる。
「ジン!次は何をやるの?」
「ああ、すまん」
こうして本格的に動き出した悪意にジン達も動き出すのだった。
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