第121話 認識の改め
ジンはその日の放課後、ロイに昨日の夜のことを話すために生徒会室に来ていた。
「つーわけで、今話したのがうちの方針だ」
「なるほどな」
ロイは口元で手を組んで神妙な顔つきで頷く。
「こちらも暗から報告を受けていたが、報告にあった間者がガオンだったとは礼を言う」
「ガオンも助かったって言ってたからお相子だろ」
「そうか」
「それで?お前の意見は」
「問題ない。ジゲンのことは信頼しているからな」
「そうか、でもあれだな力のある貴族はテングラムの影響でみんなドール陣営になってるって話だけど大丈夫なのか?」
「その点は問題ない。こちらにはレーブン家とレインフォース家も付いているし、フォルムとオルガ両侯爵家もこちら側だからな。今のところ勢力としては五分といったところだろう」
「レインフォースってセシル大隊長の実家だろ?確か子爵じゃなかったか?」
「確かにレインフォース子爵家ではあるが彼の家は他の子爵とは一線を画す」
「そうなのか?」
「お前な、一応は貴族なのだからもう少しそっちの世界に関心を持て」
「うっ!正論パンチ」
「はぁ、レインフォース家は元々何代も前からこの国にを支えている貴族家で共和国と隣接する領地柄これまでに多くの功績を残している。共和国がベータル王国建国以来、国土を一つも侵略されていないのは一重にレインフォース子爵家のお陰と言っていいだろう」
「そうなのか、でもそれだったら伯爵とかになっててもいいんじゃねーのか?」
「レインフォース子爵家は代々、
「まじか、確かにめんどくさくはありそうだけど、でもよくそれで内側に引き入れられたな」
「まぁこればっかりはドールのおかげだろう」
「え?」
「レインフォース家のご令嬢、セシル嬢とクレア嬢とは面識はあるな?」
「ああ」
ジンは頷く。セシルとは騎士団でそれはもう一番お世話になったし、クレアはクラスメイトだ。割と人見知りのためあまり喋ったことはないが、テオにべったりと言う印象だった。
「二人とも嶺麗しいのはお前も知るところだろう」
「......まさか」
「そのまさかだ、お前が二年間山に篭ってる間にあのバカは子爵家への父上の視察に同行して二人に言い寄ったそうだ」
「でも、ドールってリナリーに気があるんじゃ?」
「俺に言われてもわからん。だが、その言い寄り方がレインフォース子爵家当主であるノーチラス殿の癇に触れてな。その結果ドールが王になれば何をするかわからんとこちら側に付いたと言うわけだ」
「なんていうか、陛下も大変だな」
「珍しく心底怒っていたよ。しかもノーチラス殿は父上の初陣で戦場とはなんたるかを教えて貰った師のような物だ。それを怒らせるほどの何かをあれはしたんだろうな」
「想像に難くないな」
恐らく、リナリーの時のように自分の権威を振りかざして上から物を言い募ったのだろうとジンは想像する。
「だからクレアさんはドールと喋ってるところを見たことがなかったのか」
それにしてもとジンは思う。
男として麗しい女性に好意を抱くことは悪いことではないだろう。複数の女性に好意を抱くことも甲斐性さえ有ればこの世界では問題ない。だが、ドールにその甲斐性があるようには見えなかったし、ましてやあの性格では人並みに自分の子供を愛する親には受け入れがたい存在だろう。
「まぁ、なんだろうな。ドールを敵視する気が全然湧かない」
「奴はただの傀儡に過ぎんよ。やはり問題はテングラムだろうな」
「だな」
ジンはそう言うと椅子から立ち上がる。
「ん?でも待てよ?」
「どうした」
「陛下が安泰ならお前を後継者に指名すればそれで済む話じゃないのか?」
ジンの言葉にロイはガクッと肩を落とす。
「お前な!そんなこともわかってなかったのか!」
「なんだよ!ちょっと忘れてただけだよ!」
「全く、最近お前を過大評価していたと思うことが多い」
「それは面と向かって言うんじゃねーよ!」
「お前だから面と向かって言えるんだが、まぁいい、それはその通りだが、そんな上手いこと行くならこんな勢力争いなどしていない」
「それはわかるけど」
「テングラムにはそれだけの力があるって事だ。幾ら父上の一声があったとしてもテングラムが頷かなければそう易々とは話が進まぬ。侯爵家の中でも剣聖と謳われ代々騎士団長を任せられている逸材を生み出し続ける名家だ。その発言力は一貴族それではない。フォルムやオルガ家も同じ侯爵家ではあるが、テングラムは別格と言って差し支えない。王と肩を並べるとまでは言わんが遺恨を残したままでは俺の目指すべき所には辿り着けない。それほど強大な存在と言うことだ」
「なるほどな」
ジンは正直なところテングラム侯爵家を甘くは見ていたが、どうやら自分が考えているよりも敵が強大であることをここで初めて認識したのだった。
ジンはその日の帰り道馬車の中で自分の中の認識を改めなければならないと思うのだった。
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