第118話 女神軍
ロイは少し沈黙した後喋りだす。
「一ヶ月後の遠征、おそらく動いてくるだろう」
「根拠は」
「元々、お前たちと同行するはずだった青龍騎士団から白虎騎士団に変わっていた」
「朱雀じゃないんだな」
「朱雀騎士団は王直下も騎士団だ。そう易々と動かせるわけではない」
「それでなんで白虎?」
ジンの疑問に答えたのは黙って聞いていたエルだった。
「白虎騎士団は古くから朱雀騎士団との関係は複雑でね。敵視する代もあれば盟友のような代もある。だが、現状は白虎は朱雀の腰巾着と言っていいだろね」
「そうなのか」
「白虎騎士団団長である、ラージャ様が先の戦で相当発言権を失っていてね。結果現状、白虎にて一番発言権のあるのはテングラムの腰巾着のような貴族ばかりってことさ」
「でも遠征で騎士団が直接何かしてくるわけではないだろ?」
「それはおそらくない。もしバレれば奴らも只では済まないからな。だが、動いてくると俺は予想している。こちらでも打てる手は打つが絶対はない。だからジン。気を付けろ」
ロイの目はいつに無く真面目だったのでジンは茶化すことなく頷いた。
ロイは素直に頷くジンに満足したのか生徒会長だけが座れる柔らかで高級な椅子の背もたれに体重を預ける。
「さて、最後になるんだが」
「まだあるのか」
「姉上がお前に会いたいそうだ」
「はえ?」
ジンはまったく予想していなかったことを言われて変な声が出てしまう。
「ジゲンの提案で設立された医療部隊、通称『女神軍』は知ってるな?」
「ああ」
タイラン大防衛を終えてジンは今のこの国に救護兵がいないことをジゲンに指摘した。
その結果ジゲンは、ジンと話た内容をそのまま軍議で発表し、ディノケイドの後押しもあって、ベータル王国初の救護兵団、『女神軍』が誕生したのだ。余談だが、ミシェルは二年の後半は女神軍に在籍しており。女神軍は女性も多く目立つ功績を残した女性兵士を女神と呼ばれたことから女神軍と名付けられたと言う。
言ってしまえば、ジンがこの女神軍の生みの親なのだが、黙ってロイの話を聞く。
「ジゲンの話ではお前の提案で救護兵というものが生まれたらしいな」
「まぁ、大袈裟ではあるけど」
ジンはうる覚えである前世の記憶を引っ張り出して来ただけに過ぎない。言わばずると言われても間違いではないのだから。
「そういうな。この件で姉上が会いたいそうだ」
「それとサファイア様とどう関係するんだ?」
「お前知らないのか?」
「何が」
「女神軍の団長は姉上だ」
「......はい?」
「だから、救護兵団改め、女神軍の団長は俺の姉、サファイア・バン・ベータルだ」
「まじかよ」
「まじだ。この救護兵団も姉上が強く希望したから通ったような物だしな」
「いやでも、言い方は悪いがお飾りだろ?」
ジンは王家であり記憶にある朗らかに笑っているサファイアが現場で的確な指示を出す姿が想像できなかった。
「バカ言うな。姉上はもうすでに戦場を経験されている。お前が二年間山に篭ってる間にな」
「まじかよ......」
「それも結果を出したって言うんだから驚きだよね」
ここでエルも話に加わる。
「結果?」
「現状でも大きくはないけど共和国との小競り合いは至る所で起こってる。一年前にあった共和国のテテナン砦への侵攻は知っているかい?」
「いえ、すみません」
ジンは自分が山に行ってる間にそんなことがあったなんて知りもしなかった。
誰か教えてくれよと内心少し思うが、自分は山に篭っているいるのだ。教えたところで何にもならないなとすぐに考え直して切り替える。
「その戦では防衛に成功したんだけど、驚くべきはその戦の生存者。小競り合いではあるけど歴とした戦場。死者はでる。いつもだったら三分の一ほどが命を落とすのだけど。なんとこの戦で命を落としたのは十二人だったんだ」
「!?」
その少なさにジンは目を見開いて驚く。
この国医療はおそらく時代背景にあったレベルの物だろう。
それなのに何故こうまで死者が減ったのかジンはわからなかった。
「なんだ、お前が提案したようもんだろう?何をそんなに驚く」
「いや、すごい成果だと思って」
「そうだな。姉上の指揮能力は天性の物なんだろうな」
「え?」
「終わってから兵は口々に言ったのさ。姉上のお陰でだとな。俺は現場にいなかったからわからないが、おそらく姉上の指揮能力はお爺さま譲りだろう」
「......」
ロイの祖父は、歴史家に寄って後世に記され方が多くある人物の一人だ。
曰く、戦王、ベータルの基盤を築いた男。
曰く、愚王、ベータルの憎しみを生み出した男。
多くの歴史書がある。が、そのすべてでこう書かれていた。
“だが、彼の王は戦においては無類の強さを示す。まさに軍神と言えた“
「そう言うわけで、姉上がどうしてもお前に会いたいという物だから、来週にでも時間を作ってくれるか?」
「いいけど、もしかしてリナリーに聞かせられないことって」
「な訳あるか、その前の話だ。いいかジン、遠征ではリナリー嬢から目を離すなよ」
「言われなくてもそのつもりだ」
そこまで話たところで生徒会室の扉が開きリナリーとオリビアが帰ってくるのだった。
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